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ステータスウインドウ無双。異世界で最もスマートな使い方  作者: うーぱー
第2章:現代知識の商売で大もうけ?
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9話。マルシャンディの発言がちょいちょい引っかかるが、商機か?

 マルシャンディは、周囲の喧噪のちょっとした合間に話しかけてくる。


「アーサー様。ところで、先ほど、ハンミャーミャーの材料はすべてこの市場で手に入れたとおっしゃっていましたね?」


「ええ」


「そして、私の目の前で作って見せた」


「うん。変な物は入っていませんよ」


「今後は控えた方がよろしいでしょう」


「ん?」


「貧乏人どもが真似して粗悪品を作ってしまえば、ハンミャーミャーの価値が下がってしまいます」


「なるほど。覚えておきます。でも大丈夫。ここでは手に入らない材料ソースも使っているし……」


 俺は目の前に城壁が見えてきたから、石を例にする。


「ただ石を積み重ねるだけじゃ、固い城壁にはならない。護りを強固にするには、石の積み方や。内側に入れる充填剤(じゅうてんざい)の量や製法も大事ですよね(※)」


 ※:城壁は一見すると石を積み重ねているだけのように見えるが、実際に石が積んであるのは壁の表面だけで、内側(内部)は充填剤(じゅうてんざい)(石灰モルタル)や小石が詰まっている。俺は領主(城壁工事の発注者)の付き添いで、見学したから詳しいんだ。


「なるほど。材料や作り方を知っているだけでは、貧乏人では真似できないと」


「……ええ」


 いや、まあ、実際は簡単に真似できるから地球全土で販売できるんだがな。『世界遺産、歴史の街』みたいな旅行番組で、歴史的な町並みの映像でもよく見ると、マクトナルトや、コケ・コーラの看板が映り込んでいることがある。反米的な国でも、両社は結構ある。それだけ手軽だし大人気だ。

 あと、エジプトのスフィンクスの視線の先には、ピザ・ハットリとケンパッキー・フライドチキンがある。


「作り方はそれでいいとしても、こんな空気が汚いところで作れば味は落ちるでしょう」


「え?」


「いえ、なんでも。少々、お待ちいただいてもよろしいでしょうか。人を呼んできます。体を使うことでしか金を稼げない貧乏人でも役に立つことがあるのです」


「ええ。構いませんよ」


 ちょいちょい『貧乏人』って表現が気になるな。

 まあ、奴隷商をしていたうちの家に御用聞きに来ていたような商人だしなあ。


 マルシャンディは城壁工事の現場へと歩いて行った。


 俺はシャルロット、サフィと視線を交わして、小首をかしげた。


「なんなんだろうね。それはそれとして、ふたりともありがとう。おかげで儲かった」


「みゃあ? サフィがありがとうって言いたいみゃ! ハンミャーミャー凄く美味しかったみゃ! また食べたいみゃ!」


「ああ。お礼を言うのはこっちだ。本当に美味だった。宮廷料理に並ぶというのは世辞ではなく、本心だぞ」


「ふたりが美味しそうに食べてくれたから、通りすがりの人が興味をもって見てくれたんだよ。それで、3オールという信じられないほどの大金を手に入れることができた。これで、サフィの服と靴と(パンツ(超小声))を買おう」


 ブラジャーは要らないよな?


「みゃ?」


「遠慮は要らないよ。サフィが稼いだお金だからね」


「なるほどな。サフィに遠慮させないために、材料探しから手伝わせたんだな」


「そういうことは気づいても口にしたら駄目だよ」


「ふふっ。経典を読むときのみ口を開け(※)、だな」


 ※:口は災いの元、のようなことわざ。要するに、余計なことは言うなという意味だ。


 それにしても、やはりシャルロットは良いところのお嬢様だろう。かなり教養があるらしいことが、会話の節々からうかがえる。


「やあ、アーサー様。お待たせいたしました」


「まったく、いったい、なんだってんだ?」


 マルシャンディが大男を連れてきた。ひげもじゃで、上半身は裸で胸毛もじゃの筋骨隆々だ。男の乳首は不快だ。俺はいつでもステータスウインドウを出せるように警戒する。


「彼はカル。粗野な石工(せっく)ですが私の幼なじみです。カル。こちらは私の知人の、アーサー様です」


「アーサー? ん? どこかで見たような……。あっ! 領主様のご子息。これは失礼!」


 カルさんは慌てて首にかけていた手ぬぐいをとると、頭に巻き、ぺこりと頭を下げた。

 いや、その手ぬぐいで乳首を隠せよ……。


「追放されたのでただのアーサーです。かしこまらないでください」


「追放?」


「カル。その話はあとでいいでしょう。さあ、アーサー様。例の物を」


「ああ。シャルロット、頼む。『美味しく召し上がれ』と言いながら、笑顔で渡すんだ」


「なっ! なぜ私が見知らぬ半裸の男に、そのようなことを!」


「……そうか。じゃあ、サフィ頼む」


「む、う……」


 シャルロットはサフィにハンミャーミャーを渡した。


「はいみゃ。美味しく(みゃ)し上がれ(ニコッ)」


「ん。おう。ありがとうよ。へへっ。可愛い子に渡されるとちょっと得した気分だな。これが、お前が俺に食べさせたいって、ハン……なんとかか」


「ハンミャーミャーですよ。ほら。私も食べるので」


「パンに野菜を挟んだのか? 変なもんだな」


 マルシャンディは何がしたいんだ?

 なんでカルさんを連れてきて、俺の前で食べるんだ?

 なお、カルさんはがたいが良すぎるから敬意をはらって「さん」付けだ。


「うん。美味しいですね、これは。あの小汚い市場で買える材料から作ったとは思えない」


「おお。美味いな! こりゃ! ひとくちで色んな味が口の中に広がる」


「私は商人として、外国の珍しい食べ物を食べる機会も多いのですが、これはそちらのお嬢さんが先ほどおっしゃっていたように、知らない味です」


「ああ。マジで。うめえな。パンに野菜なんて挟んだら水っぽくなるかと思ったが、そんなこともねえ。腹が満たされるっつうか、なんだ? 食いでがあって腹持ちが良さそうだ」


「腹が膨れるまで朝食を食べられないような貧乏人の貴方でも満足ですか?」


「おうよ」


 俺は何を見せられているんだ?

 眼鏡優男と上半身裸の大男がハンミャーミャーを食べている。この光景になんの意味が……。


「いや、美味かった。マルシャンディ。俺にこんな美味いもんを食べさせて、どうしようってんだ? マリーの飯がまずく感じるようになっちまうが、あいつはお前には譲らんぞ」


「ふん。貧乏人の女は貧乏な男にお似あいですよ。私は彼女に興味などありません。哀れな貧乏人に食事を恵むついでに、カルの感想を知りたかっただけです。もう行っていいぞ」


「ん? 用は本当にこれだけなのか? こんな用だったらまた呼べよ。じゃあな。アーサー様とお嬢さん達もありがとうな」


 カルさんは去っていった。

 どうやら、ふたりは古くからの友人のようだな。


 彼の背中がまだ見えるうちから、マルシャンディは俺に向き直り、表情を明るくする。


「アーサー様。対価をお支払いいたしますので、ハンミャーミャーの材料と作り方を教えていただけないでしょうか」


 ……!

 これはレシピを教えて大もうけする展開だ!


 どうする。ここで大金を得るより、ロイヤリティ(マルシャンディがハンミャーミャーを1個売ったら、俺に1エタール支払う)みたいな契約を結んだ方が、将来的に儲かるはず。


 だが、ハンミャーミャーはファンタジー小説あるあるの「主人公のスキルや魔法や知識でしか作れない物を、知りあいの商人に託す」パターンとはちょっと違う。


 ハンミャーミャーは製法を真似されて試行錯誤を繰り返されたら簡単に再現されてしまう。特許なんてこの世界にはないだろうし……。

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