66話。モンスターホールを調査する
「モンスターホールを調査する! 手遅れになる前に!」
「ああ!」
シャルロットは一瞬だけ俺の頭をちらっと見上げる。
「手遅れになってしまったものは、もうどうしようもないが、間に合う可能性が少しでもあるのなら、諦める必要はない!」
「待て。なんで俺の頭を見た!」
「急ぐぞ!」
「くっ……!」
シャルロットが駈けだすから俺もついていく。
背後でサフィたちも動きだすが、待っている余裕はない。
「なあ、俺の頭は大丈夫なのか?」
「お前の頭はおかしい。いつもステータスウインドウを不思議な使い方するし」
「そういう意味ではなく、見た目の話で」
「……たとえ、どのような見た目になろうとも、私はお前を愛すだろう」
「待って! まるで俺が力を得る代償にモンスターになるみたいなこと言わないで?!」
「冗談だ。焦っているときにこそ、笑え」
シャルロットが壁の上に飛び乗った。モンスターホールの位置を確かめるためだろう。
パッ、パパッ、パンツッ!
俺はエロい期待をして見上げた。
パンツではなく半ズボン(本人はそう呼称しているが、ぴっちりとしたスパッツみたいなやつ)を穿いていると知っているのに、俺はパンツを期待した。
「どこだ? 見えない!」
「見えてる!」
「見えない! ……?」
サッ!
シャルロットは塀の下にいる俺を見下ろすと、手でスカートを押さえた。
「恥ずかしいなら、もっと長いスカートを穿けよ!」
「そういう問題ではない! 恥ずかしくはない! それよりもモンスターホールはどっちだ」
「えっと」
俺は屋敷突入前の記憶を元にして、脳内地図でモンスターホールを探すが、よく分からない。
「ちょっと待て。見てくる」
俺は上空にジャンプした。
あった。
俺はモンスターホールを指さす。
「あっちだ! あっち!」
「分かった!」
シャルロットがモンスターホールの方へ向かって駆ける。
俺は着地する。
サフィや馬やシフィやゴロッキー達がやってくる。
シャルは屋根の上をヒュンヒュン飛んでいってしまったが、みんなを置いていくわけにはいかないか。
さっき倒したゴロツキたちが回復して暴れだすかもしれない。
サフィなら余裕で奴等を制圧できるだろうが、幼い手で暴力を振るってほしくはない。
「シャル! 突っ走るな! みんなを置いていけない! 穴の前でちょっと待ってろ!」
「分かってる! 罠がないか、穴を調べるだけだ」
俺はシフィたちと合流し、建物を迂回せず真っ直ぐ体当たりで壁をぶち抜いて進み、敷地の端に巧妙に隠された裏庭っぽいところへ移動した。
シャルロットは穴を覗いて待っていた。
「他と同じだ。中は見えない。呼びかけても返事はない。真っ暗だ」
「そうか。お前のスカートの中も同じくらい真っ暗になれば俺も安心なんだが」
「ん?」
「なんでもない。みんな、離れてくれ。ステータスウインドウを使う。……ステータスオープン!」
俺はステータスウインドウの光でモンスターホールを照らす。しかし、モンスターホールは暗いままだ。
「出力が足りないのか? 他の手も試してみるか。レインボーステータスボール!」
俺は虹色に輝くステータスの球体を作り、穴に投げ入れてみた。
「なあ、アーサー。それはもう、ステータスウインドウと呼ぶのはやめたらどうだ? 投げ入れたということは、実体があって落下しているということだよな?」
「なに言ってるんだ。たとえ姿形は変わっても、ステータスウインドウはステータスウインドウだろ」
レインボーステータスボールは穴に入って最初の内は光っていたがすぐに見えなくなってしまった。
「くそっ! 駄目か!」
「落ち着けアーサー。逸る気持ちは分かる。だが、ここで焦ったら、助かるはずの命も助からなくなる」
「そ、そうか。そうだよな。落ち着かないとな……」
「そうだ。時間がない。だからこそ、冷静に作戦を立てる。失敗は許されない」
「ああ」
ん?
サフィがモンスターホールの縁に近づく。
「危ないからあまり近寄ったら駄目だよ」
「穴の中に土が見えたみゃ」
「ん? 俺には真っ暗なままに見えたが、サフィには違う物が見えたのか?」
「みゃ。夜明け前みたいに色が薄くなったみゃ。これ、ミャーサーの、ステーミュスフィアに似ているみゃ」
「え? モンスターホールが? ぜんぜん似ていないでしょ」
「似ているみゃ。ステーミュスフィアが夜になった感じみゃ」
「濃い夜みたいワン。丸い夜ワン」
シフィも穴を覗き、サフィと似た感想を口にした。
「丸い夜? もしかして……。そういうことか! お手柄だサフィ! シフィ!」
「みゃ?」
「ワン?」
「これ、ステータスウインドウだ!」
「何を言っているんだ、アーサー。これはモンスターホールだろう」
「違う。これはモンスターホールじゃない! ただの穴に、反ステータスウインドウスフィアを被せてあるんだ!」
「反ステータスウインドウ?」
「ああ。俺のステールスフィアが、球体の中心を基準にし反対側に光を通過させることによって透明になるのと、逆のことをしている! これは、内側に入った光を内部にとじこめているんだ!」
「光をとじこめる? それが闇になるのか?」
「ああ」
「真っ暗な球体がここにあるのか?」
「そうだ。俺たちの目には、平面の真っ黒な穴のようにしか見えないが、獣人の視力や感覚だと球体に見えているようだ。な?」
「みゃ。球みゃ」
サフィが肯定すると、シフィも続く。
「大きな球ワン」
「ふたりが言うなら確定だ! ならば、こうする! 反反ステータスウインドウボールッ!」
まあ、普通のステータスウインドウボールなんだけどな。
俺はモンスターホールの直径と同じサイズのステータスウインドウボールを作り、それを、穴に乗せる。
まるで空間を削り取る能力でそうしたかのように、球状に闇がえぐれて、縦穴側面の土の見える範囲が増えていく。
そして、ステータスウインドウボールをゆっくりと下へおろしていき高さを調整。
やがて、そこに縦穴が見えるようになった。
穴自体は深いらしく、底までは陽光が届かないらしく、地面は見えない。
だが、それは、すでに自然界に存在する普通の穴だ。完全なる闇ではない。
「予想どおりだ! これは、モンスターホールに偽装した秘密の通路だ!」
「こんな物が……。しかし、これは……」
「ああ。俺の親父の仕業だろう。おそらくこれは、ザマーサレルクーズの屋敷に繋がっている。この地下通路を知っていて、俺と反対の能力を使えるとなると、親父以外は考えにくい。これは、俺の戦いだ。俺が決着をつける!」
「アーサー……。ひとりで背負いこむな。私も行く。私はもともと、この地の奴隷問題を解決するために来ていたのだ。無関係ではない。……それに、お前が家族の問題を解決するというのなら……。わ、私だって、い、いずれ、お前の家族になるんだし……」
「俺の愛しのシャル……!」
「私の愛しのアーサー……!」
\四位一体陣形/
馬たちが俺とシャルロットを遮った。
助かった……。あやうくふたりの世界に突入するところだった。