63話。村長は悪事を貫くらしい。戦いが始まる
「ど、どいうことだ、村長! お前が何か悪巧みをしているのか!」
俺は、なんとなくのノリで、動揺してみた。
まあ、さっきシャルロットが、村長は怪しいと言っていたし、俺は特に驚いていない。
「その言い方……。知っていて、ここに来たわけではないのか。やはり、貴様はあのお方の息子にふさわしくない。あのお方の真の息子はイーサー様のみ。貴様は追放されて当然の無能」
「な、なんだ、お前。モブのくせに、重要なことを知っているっぽい雰囲気を出しやがって! お前は俺の親父を知っているのか!」
俺は村長を油断させて情報を引き出そうと、うろたえ続ける。最終的には『冥土の土産に教えてくれ』とか『死ぬ前に真相を知りたい』と言うつもりだ。
「落ち着け。彼は村長なんだから領主と知りあいで当然だ」
「そうか」
シャルロットは前に出てきて俺の隣に立つ。
「村長よ! 貴様はスボスラ・ザマーサレルクーズの奴隷か? 貴様がスボスラのスキルの影響化にあり逆らえないというのなら、命まではとらん。だが、自らの意思で悪事に荷担しているのなら容赦はせぬぞ」
俺と違って素直な性格シャルロットは真っ直ぐ問いただした。
「くくくっ。悪事だと? 物事の道理が分からぬ愚かな者よ。あのお方の崇高なる目的を邪魔させるわけにはいかない。お前達にはここで死んでもらう」
「ほう。先ほど貴様の家の前でアーサーが私の身分を告げたはずだが、逆らうのか?」
にやり。
村長は不敵に笑うと、たるんだ脂肪の乗った顔を、キリッと引き締める。
「王族をかたる不届き者を成敗することこそ、王家への忠誠! 者ども出会え! 出会え!」
村長が合図すると、庭の四方からわらわらとゴロツキが出てくる。30人はいる。全員、剣や槍で武装し、盾や鎖帷子を装備している。
なるほど。俺たちが広場でゴロッキーたちと揉めている間に、準備していたんだな。
ゴロツキ達が玉砂利を踏み、じゃらじゃらとうるさい。
こんなに大勢、いったいどこに潜んでいたんだよ……。
テレビカメラの裏か?
腕時計をしている奴はいないか(※)?
※:時代劇の役者がたまに腕時計を外し忘れている。電柱や電線が背景に映ることもある。
ゴロツキたちは武器を構えて俺たちの周りを取り囲む。
「アーサー、こらしめてやれ!」
「あ、いや、もう王族というのが分かった上で襲ってくるんだから、水戸黄門パターンじゃなくて、暴れん坊パターンだ。一緒に戦おう」
「まったく、いったいどういうルールだ!」
俺はシャルロットの抗議を受け流し、サフィに「暴れん坊パターン!」と短く指示を出す。このパターンも、さっきの演芸の前に教えてある。
「みゃーん! みゃーん! みゃんっ! ……みゃみゃみゃ! みゃみゃみゃ! みゃーん! みゃーん! みゃーん! みゃーんっ! \ヒヒーンッ!/」
サフィが殺陣シーンのテーマ曲を勇ましく歌い始め、偶然か狙ったのか、馬のいななきが良いところに重なった。
いや、賢い子たちだ。偶然ではない!
それが合図となり、戦いが始まった。
最優先で守るのは、シフィ(仮)だ。一番弱い。この子だけは何があっても守る。
次が馬だ。馬が走るには狭い庭だから、彼らは凶刃から逃げる術がない。
一番近くにいたゴロツキが俺めがけて突進してくる。
俺はサイドステップをし、ゴロツキをよけて首筋に気絶チョップを喰らわし、うつ伏せに倒す。
漫画と違って実際は首筋にチョップしても人は気絶しないそうだが、上手くいったぜ。
右側面から別のゴロツキが来たので、仲間たちが危機に陥っていないことを確かめてから、やはり避けて首筋にチョップ。
同じように次々と攻撃を避けつつ、無力化して、うつ伏せに倒していく。
仲間たちを常に、確認する。
「あっ!」
ゴロッキー、ロクロッキー、ナナロッキーが馬に背を向けて、棍棒をゴロツキたちに向けて牽制し始めた。
明らかに後方警戒し、馬を守る動きだ。
「お前たち!」
「へへっ! アーサーさん、任せてくれ! 馬は俺こと、ザグが守る! 畑仕事で鍛えたパワーを見せる!」
「へ、へへっ! こうなったらやけだ。この俺ディーチはあんたを信じるぜ! 鳥の巣を漁ってきたえた身軽さを役立てるときが来たようだな!」
「あんたのステータスが偽装だったら許さないからな! 俺の名はカイン! 船着き場で荷揚げをしていたから体力には自信があるぜ!」
おおっ。ビビりながらも虚勢を張っている。
どうやら彼らは、俺がさっき見せたステータスを偽装だと疑った上で、それでも味方してくれるようだ。
これはかなり信用できるムーブだ。
白確ボンバー(※)してもいいかもしれない。
※:白(無実)が確定するという意味。国内でチャンネル登録400万人を最速で超えた人気VTuberの語録のひとつ。人狼系のゲームを配信するときに使う。
それはそれとして、お前ら、勝手に名乗りやがってぇ!
しかも職業まで仄めかしやがってぇ!
「いいぜ、お前ら! 実家を追放された元領主の息子の俺に続け!」
俺は少しだけ気合いが入ったぜ。




