62話。ゴロツキがメルディを怪しむ
あ。しまった。うっかりしてた。
俺は敗北したんだから、顔が綺麗すぎるか?!
俺は体を見下ろす。
芝居で地面を転がったし今さっきも気絶して倒れたから服は汚れているが、顔は綺麗なままだ。
「くくくっ」
扉の向こうにいた新たなゴロツキは小汚く笑う。
そして、俺を一瞥すると……。
「くくくっ」
特に疑問はないらしく、やはり小汚く笑う。
「随分と痛めつけてやったようだな」
……?!
え?!
随分と痛めつけてやったようだな?
どういう意味だ?
なんでこいつは俺の顔を見て『随分と痛めつけてやったようだな』とゴロッキーに言ったんだ?
不安になって俺は振り返る。
さっ……。 ← シャルロットが気まずそうな顔で視線をそらす。
さっ……。 ← サフィが気まずそうな顔で視線をそらす。
さっ……。 ← ランディが気まずそうな顔で視線をそらす。
さっ……。 ← クルディが気まずそうな顔で視線をそらす。
さっ……。 ← ブランシュ・ネージュがクールな表情のまま視線をそらす。
「ブヒヒヒッw」 ← メルディが笑いながら顔を背ける。
……?
え?
待って。
まさか、馬が俺の顔を舐めたり、髪の毛をかじったりしてたから、『随分と痛めつけてやったようだな』と評価されるような顔になっているのか?
シフィだけ不思議そうに小首をかしげているのは、デフォルトの俺を知らないから?
そんな俺の不安を知るよしもなく、ゴロッキーたちも、それがゴロツキ同士の挨拶と言わんばかりに、ゴロツキDに小汚く笑い返す。
「へへへっ」 ← ゴロッキー
「へへへっ」 ← ロクロッキー
「へへへっ」 ← ナナロッキー(シチロッキーだったっけ?)
「ブヒヒヒッw」
メルディ、てめえ、いつまでも一緒になって笑ってんじゃねえ。
「えっ?!」
ゴロツキDがビクッとして俺の方を見る。
「……今のお前か? 馬が今、そいつらと一緒にブヒヒヒッって笑っていたような気が」
まずい。
あ、いや、別にメルディの笑い方が気持ち悪いことがバレてもまずくはないが、ごまかすか。
「そんなわけないだろ。今のは俺だ。ぶひひひっ」
「けっ。捕まったのに余裕だな。殴られすぎて頭がおかしくなったか? それにしても下品な笑い方だ。豚の屁かと思ったぜ」
サッ!
俺は下品な笑い方と言われたメルディが怒る前に馬面を抱きかかえるようにして、口を開けないようにする。
「おい! 勝手に動くな!」
「すまない。俺は馬が好き過ぎて、抱きつきたくなるんだ。ぶひひひっ」
「やべえやつだな……。まあいい。来い」
俺はメルディを放し、ゴロツキDについていく。
「くくくっ。ビビって小便を漏らしたりするなよ。貴様らの処分はこれからボスが決める」
ボス?
「ボフ?」
ゴロツキDが慌てて振り返る。
「おい、待て、やっぱ馬だろ! 『ボス?』って言っただろ!」
「そんなはずないだろ! 馬が賢いといっても、人間の複雑な会話を理解するほどじゃない!」
「そ、そうだよな?」
「それに、馬に変身するスキルの人間かもしれない」
「あ、ああ」
「お前、疲れているんじゃないのか?」
「ちっ。お前なんかに心配されるなんて、俺も地に落ちたもんだな」
地に落ちた?
傲りが過ぎるぞゴロツキD。
誰も最初から天には立っていない。
俺が脳内でおじ向けネタを暗唱しているとも知らずに、ゴロツキDは再び歩きだす。
俺は小声でメルディに注意する。
「おい、静かにしてろって」
「ブヒッヒ」
「おい、今、『分かった』って言ったよな?!」
「落ち着け! そう疑っているから、聞こえちゃうだけだ。『ブヒッヒ』としか言っていない! ほら、穴が3つあると人間の顔に見えるって言うだろ? 天井の木目が人の顔に見えて怖かった経験があるだろ? あれと一緒だ。お前は馬が喋るのではと疑っているから、そう聞こえているだけだ」
「そ、そうか」
「それに、空を飛ぶ馬だっているんだぞ? 喋る馬がいたっていいじゃないか」
「そうだよな! くくくっ。さあ、ここだ」
何度か角を曲がった後に俺たちが連れてこられたのは、時代劇の終盤に登場する舞台のような、塀や壁に囲まれた中庭だ。
石砂利が敷き詰められていて、俺たちが歩くたびに、不安をかき立てるような音が鳴る。
正面は館の長い廊下が伸びている。建物は木造だ。
ファンタジー世界なのに江戸時代の家屋みたいな構造をしているのは、この辺りに木々が多く、温暖で湿気が多い地域だからだろうか。
それとも、ここに来るまで壁だらけで迷路みたいだったし、モンスターホールを隠すために、特殊な構造にした?
いかにもそこの廊下の奥から黒幕が出てきて、右奥の壁の方から20名前後のゴロツキが出てきそうだ。
戦いが近い……。
そう思っていると、ゴロツキDが建物の方に向かい、俺たちの方に背を向けて石階段の横に跪く。
そして、廊下の奥から黒幕が出てきた。
「くくくっ。余計なことに首を突っこむから、こうなるのだ」
「お前は……!」
偉そうにふんぞり返って出てきたのは、腹が少し出ていて、ハゲかかったおっさんだ。
その顔には見覚えがある。
この村の村長だ。
 




