60話。シャルロットの語る推測に、俺は震える
……。
…………。
………………?
……なんか口の周りがベトベトする。
「う、うーん……」
「起きたか」
「え? あ……」
俺は地面に倒れている。すぐ隣にはシャルロットが正座している。俺の方に上半身を傾けているようだ。
その手には、瓶が握られている。
どうやら俺の意識を醒まさせるために、回復ポーションを飲ませてくれたようだ。
ん?
意識のない俺がどうやってポーションを飲んだんだ?
意識がないなら、液体は飲めないはず。
まさか、漫画やアニメでよくある、美少女が主人公に口移しでクスリを飲ませるやつ?!
「シャル。も、もしかして、く、口づ――」
「よく聞け。続きはあとだ」
「続きがあるようなことをしたのか?!」
俺は上半身を勢いよく起こし、シャルロットの両肩をつかもうとして、また意識を失うわけにはいかないので我慢する。
力をこめた指先がプルプル震える。
つ、続きとはいったい……!
……ん?
興奮した俺とは裏腹に、シャルロットは凄く冷静だ。
治療行為かもしれないが、お、俺とキスをしたのに、ど、どうして、そんなに冷めている……。
「非常にまずいことが分かった」
「え?」
シャルロットがあまりにも真剣な態度だから、俺もおふざけはやめる。
いったい何が……。
シャルロットが立ち上がるから俺も立ち上がる。
「これだ」
シャルロットが指先でゴロツキAの手元をさす。
彼は、ベルトが途中からちぎれた首輪を持っている。
「ん?」
……あ、そうだ。
ゴロツキAが首輪をはずそうとしてたとき、俺はシャルロットの尻をぺちっと叩いて意識を失ったんだっけ。
ということは、意識を失ってから、まだほとんど時間は過ぎていない。
「彼が首輪を破壊したときに魔力が漏れた。私はその魔力に覚えがある」
シャルロットはゴロツキAに顔を向ける。
「お前達の主は誰だ? 奴隷契約の時に名を聞いただろう」
「それは……」
ゴロツキAはBとCに顔を向ける。
ゴロツキたちは怯えたような顔を向けあうと、視線を彷徨わせた。
「すまない。聞くことではなかったな。契約次第では、首輪を付けたままのふたりがペナルティを負うかもしれない。ひとつ質問する。可能なら、首で答えよ。お前達の主は奴隷商マダライか?」
その名はつい数日前に聞いたからまだ覚えている。サフィの元主だ。
ゴロツキたちは、若干困惑した顔で首を左右に振った。
「聞いたことない名だ」
「やはりな……」
シャルロットは俺に振り向く。表情は深刻だ。
「酷だと思って、今まで聞けなかったが……。お前の父親、この辺りの奴隷商の元締めスボスラ・ザマーサレルクーズは死んだんだよな?」
ん?
話がとんだ?
「ああ。牛頭巨人に食べられただろうから死体は見つかってないけど」
「お前から感じる力の気配、つまりマダライからサフィを譲渡された奴隷化スキルの気配と、この男から感じる力の気配が同じだ。首輪から感じる魔力もだ」
俺はゴロツキたちをちらっと見てから、シャルロットに顔を向ける。
「ん? でも、ゴロツキたちの主はマダライじゃないんだよな?」
「ああ。だから、厄介だ。彼らの主とマダライは、共通の主を持っている。それがスボスラ」
「え? つまり、奴隷の奴隷? 孫奴隷ってこと?」
「ふむ。孫奴隷か。いい表現だ。その認識であっている。スボスラの奴隷契約スキルは、『奴隷契約能力を付与する』こともできる。そうやって奴隷に、奴隷を集めさせた」
「奴隷に奴隷契約能力を付与する……。そんな凄いスキルが存在するのか。チートじゃないか……」
「ああ。300年前にこの地で奴隷帝国を築いた殺戮魔王ヴァバラーグと同じスキルだ。お前の親だし、それくらいのチートスキルが使えても驚かない」
「でも、親父は死んだはず……」
「それなら、彼らから感じる奴隷スキルの力と、お前から感じる奴隷スキルの力が同じ理由の説明がつかない」
「牛頭巨人に襲撃されたんだぞ?! クソ親父とは別の元締めがいるんじゃないのか?」
「死体は見ていないのだろう?」
「……!」
「マダライの主がスボスラなんだ。だったら、スボスラが元締めと考える方が自然だ。あの屋敷は元々が戦闘城塞だ。アーサーは迫害されていたのだから、お前に知らされていない緊急時用の地下通路があったとしても不思議ではない」
「……ッ!」
俺はいつの間にか体が小刻みに震えている……。
「つまり、親父は生きていて、未だに奴隷スキルで人々を苦しめているのか?」
「ああ。この村にはスボスラの手下がいて、想像以上に危険なことが起きている可能性がある」
シャルロットが屋敷の方へ首を向ける。
俺も同じようにするが、土壁があるから中は見えない。
「さて、理想は、私ひとりで屋敷に突入し、悪人をすべて切り捨てることだが」
「俺も行く」
「親と戦えるのか?」
「へっ。俺は、追放を宣告された直後に、弟に抱きついてリバーブローを喰らわせた男だぜ」
「何をしているんだお前は……。ここに残って、サフィ達を守れ、といっても聞かないだろうな」
「ああ。サフィや、この子や、馬たち、あとついでにこの可哀想な奴隷たちは、俺やお前と一緒にいる方が安全だ。特に、この子は近くにいた方がいい。敵は、この子をモンスターホールに落とそうとしていた。何か嫌な予感がする」
あのクソ親父が何を企んでいるのか知らないが、その野望は俺が打ち砕いてみせる!




