58話。助けた子の性別が分からないからお尻を触って確かめる
なでなで。
うーん。分からない。
はたして、この獣人の子供は男なのか女なのか。
あ。ちょうど手の届く位置に比較対象がある。
サフィのお尻と触り比べてみるか。
なでなで。
うーん。どっちも子供のお尻だなあ。
ぷりっとしていて柔らかいんだけど、筋肉の弾力があるから指が沈んでいかないというか……。
なでなで。
もみもみ。
「みゃっ? みゃぁ……」
「ん? あっ! アーサー! 何をしている!」
「ん? どうしたシャル?」
「お、お前、その手はいったい何をしているんだ?」
「この子が男の子だったら、サフィに抱きついているのが許せないから確かめる必要があるんだ」
「だからって、お尻を触るな! 見た感じ、女の子だろ! お前は異性の尻をいきなり触るのか!」
「仕方ないだろ。サフィに抱きついているから胸は触れないんだ。それにこのくらいの年齢ならまだ膨らんでいないから胸で性別判定ができない。かといって脱がすわけにもいかないし」
「だからって触るな。可愛いだろ。女の子だ!」
「可愛いからこそ、男の娘かもしれないだろ」
「お前は何を言っているんだ」
ガッ!
俺は背後から両手首をつかまれて引きはがされた。
これ、俺が頭を少しでも後ろに倒したら、シャルロットの胸にポヨンしないか?
してもいいのか?
「ほら。離れて」
仕方なく俺はサフィたちを触るのをやめた。
立ち上がるときに軽く後ろにさがってみたが、胸ポヨンはしなかった。
「むう……。じゃあ、どうするんだ。股を触るのはアウトだろ? なら、お尻しかない」
「駄目だ。子供といえど、異性の尻を触るな」
「……シャルだってよく俺のお尻をぺちぺち叩くじゃないか」
「……! そ、それは……。わ、私だって、お前に触れたいから……。ちょっと怒ったフリしてボディタッチしたかっただけなんだもん……」
「なんだもん! いただきました! ありがとう!」
子供の性別なんてもうどうでもよくなり、俺はテンションを上げる。
「シャルによく尻を叩かれると思ったが、そんな理由だったのか! ありがとう!」
「う、うん……。す、好きな男の体に触れたくなるような、は、破廉恥な女は……嫌いか……?」
「そんなことない! シャル、俺の愛しの――」
俺がシャルロットの手を取――。
「ブヒブヒ!」 × 3
馬が3方向から鼻先を勢いよく俺たちの間に入れてきた。
俺、シャルロット、サフィと獣人の子、3カ所に分断された。
「こ、これは、三位一体陣形……!」
「知っているのか、アーサー?」
「知らないが、とにかく、俺たちがふたりだけの世界に没頭しないように、馬なりに気を遣ってくれたんだ。みんなありがとう」
俺は馬を撫で、1歩さがる。
そして、サフィと、獣人の子供に向く。
「サフィ。その子と話をしたい」
「みゃ」
サフィが小さく頷く。
「大丈夫みゃ。みんな優しいみゃ」
サフィは子供の肩をそっと押して、自分から離す。
その子は目と鼻がくりっとしていて、耳がトロンッとしている。
見た感じ、多分、犬の獣人だ。
なんていうんだっけ。
ヨーロッパの犬で、胴体が長くて脚が短く、コーギーじゃないやつ。
えっと、ダ、ダックスなんとか……。
そういや、お尻がプルプルしていたな……。
プル、ダック……。
プ*ダック・ポックンミョンだ!
この子はプ*ダック・ポックンミョンという犬種の獣人だろう。
ビクビクしている。人間に酷い目に遭わされたのだろうか。
俺はしゃがんで、目線をあわせる。
「俺の性別は男。君は?」
「女ワン」
\ グッドコミュニケーション! /
ぺちっ!
背後から頭にチョップされた。
「おかしいだろ! そこは『俺の名前はアーサー。君は?』だろ。名乗れ。性別を言うな聞くな」
俺は立ち上がり、シャルロットの目を見つめて言う。
「名前がそんなに重要か?」
「え?」
シャルロットが言葉を失う。俺の真剣な眼差しに軽く戸惑ったようだ。
「王族……。元領主の息子……。そんな身分の違いは関係なく、俺たちは出会って、惹かれた。名前によって、誰であるかを伝える意味はあるのか?」
「む……」
「何者であるかではなく、何者であろうとするかが、大事なんじゃないのかな?」
「アーサー……。いいこと風に、意味の分からないこと言うな。先ずは名乗れ! 礼儀だろう」
「くっ。正論を!」
「ね。みんな面白い人みゃ? 怖くないみゃ」
「うん」
声の調子が柔らかくなっていたから、俺は少女を見る。
微笑んでいた。
こっちまで口元がほころんで嬉しくなる。
「へへっ! 分かってくれて何より」
ぺちっ!
「狙いどおり感を出すな。先ずはレディのお尻を触ったことを謝れ」
「お尻を触ってごめんなさい」
「気にしていないワン」
「俺のお尻ならいつでも触っていいからな?」
「うんワン」
「うんワン?! うんに語尾いる?!」
「お前は何を言っているんだ……。尻を触らせたりするな。……さて。私はシャルロットだ」
シャルロットは獣人の子の前にしゃがむ。
そして「む」と小さくうめく。
俺はシャルロットの視線を追って、気づく。
「あ。それ、もしかしてサフィに付けられている物と同じ首輪?」
「ああ。奴隷契約の魔道具だ」
「うーん。じゃあ、この子の主人が持っているであろう契約の証書っぽい木の板を破壊すれば良い感じ?」
「破壊は駄目だ。奴隷契約が暴走して解除できなくなる恐れがある。正当な奴隷なら買いとる」
彼女の背中や首筋が微かに震えている。悔しそうな表情をしていることだろう。
彼女はもともとこの辺りの奴隷問題を調査するために来ている。
《《正当な奴隷》》という存在が気に入らないはずだ。
「なんとかして彼女を自由にしたいな」
「もちろんだ。人の尊厳を踏みにじる者たちを私は許さない……!」
「同意だ」
俺は奴隷少女の頭を撫でる。
「すぐに君を解放する。そうしたら、名前をあげる。少しだけ待っていてくれ」
「……うんワン」
「可愛いな、うんワン! サフィ。この子の面倒は、引き続き任せたぞ」
「任せられたみゃワン!」
キリッととしていてかっこいい!
語尾で張りあってて可愛い!
俺は仲間に背を向け、気まずそうにしているゴロツキ3人を睨む。




