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55話。ゴロツキが襲いかかってくるが、俺はそれを芝居にする

 ざわっ……。


 棍棒で武装したゴロツキの姿を見て村人に動揺が広がる。


 しかし、ここで慌てる必要はない。


「タララ、ララ、ラ~ン♪」


 俺は歌いながら余裕たっぷりに、ゴロツキ達の方へ歩いていく。


「テメエが責任者か、こら!」


 ドンッ!


 ゴロツキAが手で俺の肩をどついてきた。


 威嚇のために初っぱなにかましたろうという感じの一撃だった。

 俺をぶっ殺すような威力ではないのは、誰の目にも明らか。


 だが――。


「ぐわああああああああああああああああああっ!」


 俺はワニのように大きく口を開いて絶叫し、自ら後方に飛んで地面を激しく転がる。


 ゴロゴロゴロッ!


 ズザアアアアアアアアアアアアッ!


 多分、砂煙がもうもうと上がった。

 砂煙がはれる頃、村人は、大の字に倒れた俺を見るだろう。


 俺は白目をむく。

 しかし、やったことないし、自分で自分を見れないから、本当に白目をむけているかは分からない。


 ピクピク……。


 し、ん………。


 俺があまりにも派手に転がったから、思惑どり、場が静まった。


 どついたゴロツキAも何が起きているのか分からず、ビビっているはずだ。


 村人達は困惑している……はず。


 村人にはガチもんの暴力事件なのか、それともこれも芸の一部なのか、分からない。


 この、『分からない不安』が村人の心を揺さぶり、心の隙間を作る。

 これからの展開による安堵との落差が大きければ大きいほど、村人は心が大きく動き、盛り上がる!


 俺は、この状況を芸として演出する!


「タララ、ララ、ラ~ン♪」


 砂煙の中で俺は歌う。


 ゆっくり、思いっきりゆっくり、上半身を起こす。


 さあ、村人よ!

 砂煙の中で立ち上がる俺のシルエットを見ろ!

 固唾をのんで見守れ!


「タララ、ララ、ラ~ン♪」


 俺は何事もなかったかのように平然と立ち上がる。


 そして、パンチの風圧で砂煙を散らす。


 ぶわっ!


 村人の方に体を向け、『何事もなかったでしょ?』と言わんばかりに、両手を上に向ける。


「わあああああああああああっ!」


「アーロン! アーロン!」


「かっけー!」


「驚かせるなよ! 事件かと思っただろ!」


「アーロン! アーロン!」


「アーサーじゃなかった?」


「すげえことにかわりはないんだから、別に誰でもいいだろ!」


「そうだな! アーロン! アーロン!」


「アーロン! アーロン!」


 パチパチパチパチ!


 本日最大の拍手は架空の人物アーロンに贈られた。


 俺は村人に向けて、手を下から上へ振り、もっと盛り上げろと合図しながら、ゴロツキたちの前に歩いて移動する。


「アーロン! アーロン!」 × たくさん


 ゴロツキ達は困惑している。

 棍棒で武装しているとはいえ、もともと3人で100人の前に立つ度胸はないのだろう。


「て、てめえ! 怪しいやつだな! ふざけやがって!」


 ゴロツキAが拳を振りかぶり、俺の顔めがけ、突きだす。


 へっ。

 拳を振るなんて、お優しいこった。その棍棒は飾りかい?


 俺は拳が頬に当たるタイミングで、まったく同時に自分の首を回して、そして背後に1歩ほど吹っ飛ぶ。


「ぐわあああっ!」


 拳は1ミリも触れていないが、俺はよろめく。


 ざわざわ……。


 ふたたび村民が困惑し、俺たちに熱い期待を向ける。


「よ、よくもやったな! 悪党め!」


 俺は拳を振り上げ、膝を大きく上げ、ゴロツキAに1歩詰める。


「その拳でどうするつもりだ、こら! 肉体強化スキルを持つ俺に逆らうつもりか!」


 ゴロツキAがいい感じに圧をかけてきた。


 びくっ!


 俺は背中を震わせ、右拳を見上げる。


 そして、左手で右手首をつかんで、体の前に下ろす。

 右手が勝手に調子に乗っただけですよ、と表現した動きだ。


「へへっ!」


 情けない感じで愛想笑いをし、ゴロツキに、ぺこぺこと頭をなんども下げるぺこ~。


 ドッ!


 爆発するような笑いが起きた。


「あはははははっ!」


「なっさけねー!」


「その右手はなんなんだよ! 殴るんじゃねえのかよ!」


「ビビってんじゃねえぞ!」


「やれ! やっちまえ!」


「なにやってんだよ! アーサー! だっせー!」


 そこは名前、間違えないんかい!


「かっこわりー!」


「あはははははっ!」


 俺は、おたおたと腰を落とし、首を左右に振って村民とゴロツキと自分の拳を何度も見比べる。


 そして、何かに気づいたとばかりに、大きく頷いて背筋を伸ばす。


 そして、堂々とした足取りでジャロンさんの前に移動する。


 見つめあう。


 ジャロンさんは俺の顔と、振り上げられた右拳を見比べる。


「アーサーさん?」


「へへっ!」


 俺は右拳を振り下ろす。


「ひいいっ!」


 もちろん当てない。命中する寸前に、思いっきり拳を握りしめて、バキイッと謎の快音を鳴らす。なんの音か分からなくて、自分でもびっくりだ。


 そして拳をジャロンさんの顔すれすれを通過させて振り抜く。拳の風圧により、彼の顔の表皮は漫画みたいブルブル揺れた。


 村民には本当に殴ったようにしか見えないはずだ。

 ジャロンさんだって、ガチで殴られたと錯覚したかもしれない。

 このスイング速度を見切れる者なんて、シャルロットとサフィくらいだろう。


「ぐわあああああああああっ!」


 さすがジャロンさん。

 俺の意図を理解して、悲鳴をあげながら数歩、さがった。


 軽く打ちあわせした程度なのに、さっきからこの人、めちゃくちゃこっちの狙いを察して的確に動いてくれる。さすが、プロの旅芸人だ。

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