51話。軽く突っ込みを入れただけなのに、ジャロンさんが吹っ飛ぶ
「アーサー。詳しく教えてくれ。ステータスウインドウと言っていたが……」
「えっとな、こういうことだ」
俺は手の上に小さなステールスフィアを出す。
「見てくれ」
俺は背の低いサフィにも見えやすいように、少し手の位置を低くする。
「みゃ! ミャーサーの手に穴が開いてるみゃ!」
「おい、アーサー、痛くないのか?」
「ああ。穴は開いていないんだ。これは、ステータスウインドウにある点だけ出したものだ。実はあれ、球体だったんだよ。驚きだよな」
「他の驚きに比べれば、そんなことはどうでもいいだろ……」
「まあ、とにかくご覧のとおり球体の中身が見えなくなるんだ」
「もはや、ステータスウインドウではないな……。いったい何故、透明になるんだ」
「こっちから入る光を、反対側から通すことによって、球の向こう側が見えるんだよ」
「何を言っているんだ? 光? 夜型モンスターに有効な光属性のことか? 影の中に隠れる闇属性魔法なら聞いたことがあるが……」
あー。
光の反射で物が見えているという概念が分からないと、このステルスも分からないか?
「朝がすり抜けるんだ」
「お前は何を言っているんだ」
「うーん。じゃあ、太陽が俺を無視する」
「意味が分からん。お前は太陽にすら顔を背けられるほどの大罪を犯したのか?」
「とにかく、この球体の内側にある物は、外から見えなくなるんだ。実際には消えてない。透明化魔法みたいなものだ」
「なるほど。だったら最初からそう言え」
くっそ。『魔法』って言った途端、納得しやがって。
魔法じゃなくて現代知識+ステータスウインドウなのに……。
シャルロットが手を伸ばし、指先で俺の手に開いた穴に触れる。
「……あっ! 私の指が消えた! それにアーサーの手に穴が開いてない! たしかに触った感触がある!」
「みゃあ! 本当みゃ!」
サフィも指を伸ばしてきた。ふたりが俺の手を触りまくる。
く、くすぐったくて、き、気持ちいい。
昨日までの俺だったら意識を失っていたぜ……。
ジャロンさんも触りたそうにしていたが、遠慮してくれた。
しかし……。
「ブヒブヒ!」
空気を読めない馬は頭を下げて突っこんできた。
「おいおい、メルディ。お前が顔を突っこんでも、目が横についているお前には、見えないだろ。ほら、こういうことだ」
俺はステールスフィアで俺自身の頭部を消した。
「ブヒヒヒッ?!」
メルディは驚きの声を上げると、鼻先を近づけ、顔をベロベロと舐めてきた。俺の頭が存在することを確認しているのだろう。
ジャロンさんを消したときはこれほど慌てなかったけど、俺が消えたら大きく反応してくれた。心配してくれているんだ。愛を感じるぜ。
他の馬たち(ブランシュ・ネージュを除く)も舐めてきた。ネットネトだぜ。
「はははっ。髪の毛を噛んで引っ張るな。俺はここにいるよ……。ここにいるぞ!」
「なぜ言い直したんだ……」
俺はステールスフィアを解除した。
「へへっ。みんな可愛いよ。俺の翼なきペガサス。角なきユニコーン。赤くない赤兎馬」
俺が愛をささやいたのに、馬たちは、途端に顔を離してスン……となった。
「お、お前ら、表情が消えたぞ。おい、どういうことだ。おい……」
「……」 × 3
俺の愛が届かないのか……。
まあいい。
俺は馬の対応をやめて、シャルたちに体を向ける。
「まあ、とにかく、これが、新技ステールスフィアだ」
「分かった。今後お前が消えても驚かない」
「ステミュス?」
「ブヒルス?」
「びっくりしたあ!」
俺は全力で振り返り、赤くない赤兎馬ことメルディの馬面を見つめる。
「メルディ、お前、ほとんど喋ってるじゃねえか! サフィより喋れてないか?」
「ブヒヒッ!」
「みゃあ……」
「あ! サフィごめん! な、とにかく、そういうことだから! 俺は透明にする能力を覚えた。分かっていても驚くときは驚くと思うけど、ステータスウインドウにはこういう使い方があることを覚えていてくれ」
「アーサー。お前の発想力と、それを実現する柔軟さには驚かされてばかりだ……。本当に、なんでそんなことができるんだ」
「俺も旅芸人として、そこそこあちこちを巡ってきたけど、いやあ、こんなの見たことも聞いたこともないですよ。アーサーさん、略して、アーさん、いや、アーん、あんた本当に凄い人だ……」
「ブヒヒヒ」
「お前が照れるんかい! アーんって呼ぶな!」
ペちっ。
俺はメルディの馬面を軽く叩いた。いや、まあ、俺が褒められたことを嬉しく思ってくれたんだよな。いいこだな。
ペちっ。
もちろん、ジャロンさんの肩にも突っこみを入れた。
「ぐわああああああああああああああああああああっ!」
ドシャッ!
は?
ジャロンさんは勢いよく回転しながら地面に倒れた。
倒れたというか、盛大に叩きつけられた。
「え?」
放心する俺。
耳をぴくんっと立てるサフィ。
慌てるシャルロット。
「お、おい、アーサー! お前、いったい! ジャロンさんは体を鍛えていない、普通の芸人だぞ!」
「う、うあっ。ご、ごご、ごめん! 力のコントロールができていると思っていたのに、こんな!」
俺はジャロンさんに駆けよる。
すると、にやり……。
倒れたままジャロンさんが笑う。
「くくっ。ははっ。冗談ですよ。わざと倒れたんです」
「は? 冗談? くっそ驚かせやがって!」
「あっ……!」
笑っていたはずのジャロンさんは、突如、硬直。
0点の答案用紙を教育ママに見つかってしまったガキんちょのように、顔を引きつらせた。
「ん?」
ジャロンさんは仰向けに倒れて、怯えた目で見上げている。
心配したシャルロットやサフィもジャロンさんに近寄っていた。
つまり、スカートの中が――。
「ステータスオープン!」
「ぎゃあああああああああっ! 目がっ! 目がああああああああああああああっっ!」
「お前のことは歳が近いから、親戚の兄さんくらい、親しみを感じていた。だが、その友誼もこれまでだ。ステータスオープン! オープン! オープン!」
「ぐああああああああああっ! 目を閉じていてもまぶしい! 両手で押さえていてもまぶしい! ぎゃあああああああああああああああっ! 許して! 許して! 見えてない! 見てない! 許して! 許してええええっ!」
「こら。やめるんだ」
ぺちっ。
シャルロットにケツを叩かれた。
「下着じゃないから、見られても大丈夫なやつだと何度も言っているだろ」
「でも……! 何度言われても、駄目なものは駄目だ!」
「もう……。今度、お前にだけ、特別なのを見せてあげる……から」
「え? 特別なの……?」
えへっ。えへへっ。
ど、どういうことだよ。やはり王族だから最新技術で作られた近代的なスケスケのエロいやつを持っているのかな。
ど、どど、どれくらい、と、とと、特別なんだろう。
ま、まあ、そういうことなら、ジャロンさんは許してやるか。




