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ステータスウインドウ無双。異世界で最もスマートな使い方  作者: うーぱー
第2章:現代知識の商売で大もうけ?
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5話。『街の名前を教えてくれるおじさん』がにらんできた。このやろう!

「ふんふふ~」


 周囲を警戒するためにシャルロットが先頭を歩いているのだけど、なんか鼻歌が聞こえてきて、上機嫌だ。


「ふふふ~」


「どうしたんだ、シャルロット」


「ふふっ。今朝、寝起きで驚いたお前が、シャルロットさんではなく、シャルロットと呼び捨てにしたことが嬉しくてな」


 か、可愛い理由……!


 俺がなんて返そうかと思っていると、彼女は腕を横に上げて止まる。


「ふたりとも、止まれ。スライムだ。仕留めるから少し待っていてくれ」


「分かった。手伝おうか?」


「いや。ただのスライムだ。騎士学校に入学したばかりの1年生でも倒せる程度のモンスターだ。ただ、こちらにはサフィがいるから、念のためだ」


「油断や慢心をしない素晴らしい心がけだ。見習いたいな」


「そ、そうか。私は素晴らしいか。ふふっ。うふふっ……」


 随分とご機嫌だ。こっちまでちょっと嬉しくなってくる。


「あ。シャルロット、待って」


「ん?」


「ちょっと(ひらめ)いたんだ」


 といっても、次の攻撃を必ず回避できる(※1)わけではないけどな、と俺はVTuber転生者らしく、おじ(※2)が反応しそうな小ネタをひとつまみ。


 ※1:ゲーム『スーパー□ボット大戦』に出てくる特殊能力『(ひらめ)き』の効果。

 ※2:中年男性おじさんのこと。血縁関係の叔父や伯父とは関係ない。


「なあ、サフィのレベルはいくつだ?」


「3みゃ」


「さんみゃか。なんか魚を食べたい気分になってきたぞ。なあ、シャルロット。スライムは何体くらいいるんだ? もしレベル1の者がそいつらを倒したら、レベルは3より上に行くか?」


「いや。スライムは2体だ。倒しても、レベル2になるかどうかだな」


「そうか。じゃあ駄目か。もしさ、経験値が多そうなモンスターがいたら教えてよ」


「ああ」


 スライムはシャルロットがあっさりと始末した。剣でチクッと刺したら、どろっと中身がこぼれた。液体は地面にしみていくようだ。なるほど。どうりで『ユニコーンも歩けばスライムを踏む』と言われるくらいたくさんいる雑魚モンスターなのに、道ばたに死体が転がっていないわけだ。


 移動を再開すると、俺はふたりにスキルの内容と、活用法のアイデアを説明した。

 経験値稼ぎをしたい人をレベル1に下げてからモンスターにとどめを刺せば、一気にレベルアップできるのだ。

 もしサフィが野良モンスターに襲われても逃げ切れるくらい強くなれば、旅は楽になるはずだ。


「凄いな。アーサー……。とんでもないスキルだ。それで、72という魔王クラスの規格外レベルになっていたのか」


 魔王クラス?

 72ってそんなに凄いの?


 気になるが、発言を遮るわけにはいかない。


 うん、と相づちを打って続きを促す。


「間違いなくS級スキルだぞ。その活用方法に気づく柔軟な発想も凄い。私が今も騎士団員だったら仲間になってくれるまで何度でも頭を下げに行く。竜扇侯(りゅうせんこう)の逸話のようにな。それほど有能スキルなのに、よく追放されたな」


「ああ。多分、自分のレベルを1に固定するクソザコスキルだと勘違いされたんだよ。そのおかげで追放されて、家業の奴隷商に加担せずに済んだし、シャルロットやサフィと会えたんだ。良かったよ」


「ふふっ。そうだな。トカゲとドラゴンを見分けられなかったお前の父に感謝だ」


「みゃ」


 シャルロットがちょいちょい気になるフレーズを入れてくるが、俺は、それよりもレベルの基準について聞きたい。


「ところで、72――」


「みゃ! (みゃち)みゃ! 食べ(みょの)の匂いがするみゃ!」


 サフィの耳と尻尾がピンと立ち、トトトトッと数メートル走った。


「こっちみゃ!」


 振り返ったときスカートがふわっとめくれて、かなりきわどいところまで見えるが、まったく気にしていないようだ。


 なんだよ、この可愛い生き物!


 レベルのことなんてあとまわしでいいか。

 早くご飯を食べさせてあげたい。


 木が邪魔で見えなかったが、山林を抜けたら城塞都市が目の前にあった。


 城壁の上には木製の(やぐら)や足踏み車(ハムスターが中に入って回す丸い器具の大きいやつ。中に人が入って回して、石や木をつり上げる)が設置されている。

 側面には木組みの足場があり、朝早くからもう働いている人がいる。


「ふたりはこの街に来たことある? 俺は何度か来たことがあるから、食べ物がありそうな通りも見当がつく。俺に任せてくれていいか?」


 異論がなかったので、俺が街を案内することにした。


 俺たちが来たのは人口5000人ほどの街で、この辺り、エキサーヌ地方の中心地だ。


 城や街を作るためには国王からの許可が必要で、この街は俺の先祖が当時の国王から許可を得て作った。数十年以上前に城壁は完成しているが、モンスターの襲撃で破壊されるから、常に修理の工事をしている。


 基本的に街が発展していくと、城壁の内側に入りきれなくなった家が外側に建てられる。当たり前だけど、外側は防御力ゼロだ。


 それは良くないということで、外の町の外側に城壁を追加する。こうして街は城壁を二重、三重と増やして拡張されていく(フランスのパリやカルカソンヌがこうやって拡張したことで有名)。


 この街ニュールンベージュは城壁拡張の際に、父が国王から拡張工事の許可を得ており、工事の責任者(現場監督は別人)になっていて、何度か視察に来ている。俺はその付き添いで何度か訪れた。


 と、まあ、ファンタジー世界の領主にしては珍しく、一応父は仕事をしていたようだ。裏の仕事もしていたが……。


 俺はザマーサレルクーズ家を追放されたが、門番にまでそういった情報は届いてないらしく、顔パスで城門を通過できた。


「やあ。ニュールンベージュへようこそ」


 街に入ってすぐ、まだ城壁の影にいるうちから『街の名前を教えてくれるおじさん』が声をかけてきた。


 なんかじろじろ見てくる。


 数歩併走して前に回りこむようにして、めちゃくちゃ見てくる。


 なんだこいつ、喧嘩売ってんのか? あ?


 俺のこと、黒髪短髪無造作ヘアーのさえない主人公タイプだと思って舐めてんのか?


「くらえ! ステータスオープン!」


「ぐあああっ! 目がっ! 目が~~~っ!」


「あ! こら! アーサー! 駄目だ! やめろ!」


 こらって言われちゃった!

 怒られたのに嬉しい!


 ガシッ!


 シャルロットが俺の手首を掴んできた。


 あわっ、あわわわっ。お、女の子に、て、手首を握られて、あびゃびゃ。


 俺は思考回路がショート寸前になった。


「よし落ち着いたか」


「う、あ……」


 シャルロットは俺の手を放すと、おじさんに軽く頭を下げた。


「すまなかったな。連れは旅に慣れていないんだ」


「あ、ああ。いきなり目の前が光って、いったい何事かと思ったぜ……。これは期待してもいいかな? 綺麗なお嬢さん」


「そうだな。多めにしておくよ」


 ん?

 シャルロットは腰にさげた小袋から銅貨らしき物を取りだし、おじさんの首にかけられた皮の袋に何枚か入れた。


 俺は半分とんだ意識でボーッとしながらその光景を見る。


 何をしたんだ?


 逆だろ?

 こんな美人を近くで見て言葉を交わしたんだから、お前が金を払えよ。

 シャルロットは、リアイベの10秒トークで1万円取れるレベルの逸材だぞ。


 腹パンかましたいが、俺は体が自由に動かない。


 ……ん?

 おじさんはサフィまでガン見している。


 まさか、こいつ!

 サフィの襟元が緩いから、のぞきこんで胸を見ようとしているのか!


 映像化したときに女性の胸や股間に現れる謎の光に代わって、俺がサフィの乳首を護る!


 動け……!

 俺の体……!


 動け……!


 動け……!


 動け……!


 動け動け動け……!


 動いてよ……!


 今、動かなきゃ、今やらなきゃ乳首が見られちゃうんだ!


 もうそんなの嫌なんだよ!


 だから、動いてよ!


「ステータス――」


「やめろ! ステータスウインドウで目くらましをするな!」


 ガシッ!


 また手首をつかまれた。


「はあんっ、うっ、ご、誤解だ……」


「ほら、行くぞ」


「あ、ああ……」


 俺は首根っこをくわえられた子猫のように大人しくなり、シャルロットに引っ張られるままついていく。


「サフィ。はぐれないように、アーサーのそっちの手を握るんだ」


「分かったみゃ!」


 路地は人々で賑わっていた。


 路地を荷馬車が進もうとし、車幅ギリギリの所に住民がいて軽く渋滞が起こり、手癖の悪い者が手を伸ばして、積み荷の野菜を奪おうとする。


 御者にいた商人が気づき「こら!」と叫び、俺がさっき「美少女に『こら!』と言われた、ちょっとくすぐったい思い出」を上書きしてきたぶちのめすぞ。

 だが、俺はシャルロットに手首を握られていて、意識がはっきりしない。女の子の手ってこんなに気持ちいいんだ……。


 商人は荷台に乗り移って鞭を振り、こそ泥を追い払う。


 ちなみにあの商人が持っているような短い物ではなく、数メートルある武器の方の鞭が「人類が最初に作った音速を超える物」だ。これ豆知識な。長い鞭を振ると、先端が音速を超える。


 商人は叫ぶし通行人は喚くし、どこかの家の中からは何かしらの言いあいが聞こえるし、城壁の外から工事の音がするし、街は騒々しい。


 俺は荷車の横を通り抜けて、少し人口密度が下がったところで俺は解放された。


 意識が正常に戻ったので先ほどの疑問をシャルロットに投げる。


「門のおっさん、なんなん? シャルロット、お金を払っていた?」


「ああ。大きい街には彼らみたいな人がいる」


「俺は一応、元ここの領主の息子だから、街の名前は知っているんだが……。なんであいつは俺をにらんできたんだ?」


「ああ。違う。彼らは私たちの顔を覚えているんだよ。ほら。例えば、昨日ここで殺人事件が起きていて私たちが疑われたとしよう。そのときさっきの『街の名前を教えてくれるおじさん』が、私たちが今日来たことを証言してくれるんだ」


「あ、なるほど」


「お金を与えないと、証言してくれなかったり役人に『不審者が来た』と通報されたりする恐れがある。街の人から見慣れぬ旅人は怪しまれやすいからな。銅貨1枚で、昨日までの犯罪とは無関係だと証明できるなら安いものだ」


「なーほーねー。上手い商売を考えつく人がいるんだなあ。俺は今まで馬か馬車で来ていたから知らなかったよ」


「ふたりとも、覚えておくんだぞ。私は初めてひとり旅をしたとき彼らの存在を知らなかったから、失礼なやつがにらんできたと思って、我が名誉と家名をかけて決闘を挑んだ」


「なにやってんだよ……。俺よりやべえやつじゃねえか」


「衛兵がやってきて、その街は出禁にされた。ふふふっ……」


 冗談ぽく言っているが、ガチだろうな……。

 俺よりは旅慣れているはずだが、世間知らず感がにじみ出している。

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