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49話。怒りを越えた明鏡止水の境地! アーサー、新技ステールスフィアに目覚める!

 俺は馬に囲まれたまま、普段の落ち着いた声で言う。


「村長。広場の使用許可をくれ」


「で、ですが、あそこは……。危険なので……。先日も旅芸人が……」


「大丈夫。ほら。そこにいる男の顔をよく見てみろ」


「え?」


「ほら。見覚えがあるだろ。ジャロンさんだ」


「はい、ほい。俺がいますよっと。村長さん、どうも」


「え? な、なんで、生きて……!」


「ふふふっ。それは秘密です。といいたいところですが、あれは演技なんですよ」


「え、演技?」


「そう。そして、俺というゲストを加えて第2幕が始まるんだ。そういうわけだ。広場を使わせてもらう」


「は、はい」


 ザマーサレルクーズ家が収めているエキサーヌという土地はラドゥール王国を治めるアーステール王家の所有物だ。国王、領主、村長、という順で利用許可を与えられているに過ぎない。

 王族と一緒に現れた元領主の息子で次期領主候補の俺が広場を使うと言えば、断れないだろう。


「じゃ、そういうことで」


「は、はい」


「あ。そうだ。いいか。俺たちが村からいなくなるまで、そのクソガキの目を布か何かで覆って倉庫にでも押しこんでおけ。もし、俺のシャルを再びエロい目で見たら、この家を破壊するからな」


「は、はい。よく言い聞かせておきます!」


 こうして俺たちは広場の許可を得た、というか、使う宣言をした。


 俺たちは広場に向かう。


 区画整理されていないし舗装された道もないし、なんていうか、山の麓になんとなく人に踏み固められた道っぽい領域があって、建物や家畜用の柵や畑があちこちに点在している感じの村だ。


「アーサー。良い機転だったぞ」


 移動中に、何故か褒められた。


「……何が?」


「先ほどの村長の失言に気づいていないふりをしたことだ。話題のそらし方が自然で、感心したぞ。さすがだな」


「あ、ああ。そのことか」


 なんのことだ?

 俺は何も気づいていないぞ。


「あの村長は怪しい」


「そうだな。シャルの言うとおりだ。サフィは気づいたか?」


 あんなクソガキの親だから、絶対に悪さしている。


「みゃ? 分からないみゃ」


「ふふっ。サフィはまだ子供だからな。ほら、シャル。教えてあげるんだ」


「ああ。村長はジャロンさんの生存を喜ぶべき立場だ。もしくは、事前に捜索隊を出して彼を救助していなければならない。なのに、彼はジャロンさんの生存を驚いていた」


 なるほど!


「本当みゃ! ミャロンと会ったときアーミャーは『大丈夫か』と声をかけていたみょに、さっきの村長はミャロンを心配していなかったみゃ!」


「ははっ。しょせん、私は村に通りすがっただけの旅芸人ですからね。たいして心配されなかったのでは?」


「ふむ。だとしても、アーサーが元領主の息子を名乗り、私が王族であることも明かしたのだ。村長は旅人が事件に巻きこまれたことを報告し、指示を仰いでも良いだろう」


「なるほど。シャルロットさんのおっしゃるとおり。って、王族ぅぅぅっ?! そういえば、さっきは村長の家の前だったから、すっかり驚くの忘れていたんですが?!」


「ふふっ。これから旅芝居で私の美貌を広めていくと良い」


「は! はい! かしこまりました!」


「……もしかして、シャルロットの美貌が有名なのって、こうやって本人が『広めろ』と言っているから?」


「ふふふっ。さて、どうかな」


 正面からどこかのガキが3人ほど歩いてきたから、村長が怪しいという話題も、王族の話題も終了だ。


 ガキは全員男で、手に水瓶(みずがめ)らしき物を持っている。家のお手伝で近所の川か池か井戸に行った帰りだろうか。


 まさか、あいつら俺たちとすれ違う瞬間に転んでシャルロットに水をかけて濡れ透けにしないだろうな。


 この村のガキは全員さっきの村長息子のようなヤバいやつかもしれない。


 さっきのような悲しい思いは2度とごめんだ。


 力が……。


 力がほしい……!


(力がほしいか……) ← (クスリ)やってないのにひとりごと。略して、薬屋○ひとりごと


 ほしい……!


 俺に新たな力をくれ!


 ピチャンッ……!


 ガキの水瓶が揺れて、水がひとしずく、跳ねた。


 水滴はゆっくりと落下していき、太陽の光をキラキラと反射して、その表面に一瞬だけ村の景色を小さくうつしとり、やがて、地に落ちて音もなくはじけて消えた。


 見えた!

 水のひとしずく!


 俺の心の穏やかな水面に、水滴が落ち、波紋が広がる。


 ピチャーンッ……。

 ピチャーンッ……。

 ピチャーンッ……。


「ステータスオープン!」


 怒りを越えた先の明鏡止水の境地が、俺に新たな力をくれる!


 俺はステータス画面の「名前:アーサー」の『:』の球の1つだけを周囲に出現させる。


 球を巨大化かせてシャルロットとサフィを包む。


 俺は球の光の屈折率を操作する。

 前方からの光をそのまま後方へ逃がすことにより、球の反対側が見えるようになる。つまり、球の外から、内側のシャルロットとサフィは見えなくなる。

 米軍も開発している光学迷彩だ。


 ステータスウインドウによる球でステルスをする……なづけて、ステールスウインドウだ!

 いや、窓じゃないから、ウインドウではなく、スフィアにするか。

 ステールスフィアだ!


「ん? アーサー、何かしたのか?」


 内側のシャルロットからは外が普通に見えている。


「気にするな」


 俺はシャルロットにそう言いながら振り返り、人差し指を口に当ててジャロンさんに向けて「しー」のジェスチャーをする。


(黙ってろ。俺はシャルの美貌(びぼう)をもう、このクソ村のガキには見せない)


(は、はい。ガクガクブルブル) ← ガチで震えるジャロンさん


「ブルブル」 ← ふざけて震えだす馬たち。震えている効果音なのかいななきなのか分からない


「……」 ← 呆れてため息をついくブランシュ・ネージュ


 ガキが接近してきた。

 視線はチラチラと俺や馬に向けられている。シャルロットやサフィは見えていないようだ。


「そこの、子供たち。ちょっといいかい?」


「旅人だ! しゃべった! すっげー! かっけー!」


「馬だ! かっけー!」


「こっちの馬のがかっけー!」


「白いデカいやつがいちばんかっけー!」


「兄ちゃんの馬? すっげー!」


「1頭だけ馬鹿そうなやつがいるー!」


「いいだろ。格好良いだろー。俺の馬は賢いから、馬鹿そうとか言うな。言葉を理解しているから、噛むぞ」


「えーうっそだー!」


「それはそれとして、これから広場で劇の第2幕が始まるから、村人を集めてくれ」


「え? 母ちゃんが危ないから駄目って言ってた!」


「うん! 広場の横にあるでっかい家、ちょっと前から変な音がしてたし、近寄っちゃ駄目って父ちゃんが言ってた!」


「俺、なんか怖そうな人がいっぱい入っていくの見たぜ! 絶対モンスター人間だぜ!」


「違えよ。傭兵くずれのごろつきだよ」


「魔王の手先かもしれないだろ!」


 なるほど。

 やはり何かしらの悪巧みが進行中で、村人もそれとなく気づいているっぽいな。


 俺はくくくっと笑い、ガキどもの気を引く。


「おいおい。(わらべ)ども。本気か? 第2幕『脚を折られた男が実は無事だった!』が始まるんだぜ!」


 俺はガキ達の前から退き、ジャロンさんを手で指し示す。

 すると彼は心得たもので、おどけた表情で、片足立ちになって両腕を上げて決めポーズ。


「はあっ! ほうら。よっと。ピョンピョン跳ねても私の脚はなんともない。脚が折れたのは嘘だし、第2幕のために死んだフリをしていただけなんだよ」


「うわっ! すっげー! かっけー!」


「本物だ! 朝、脚が折れてた人だ!」


「すっげー! すっげー!」


 村長のクソガキと違って、こいつらは良い感じのキッズだな。

 語彙が少なく「すっげー」ばかり連呼しているところに、すっげー好感がもてる。


「な。すっげーだろ。家族や知りあいを集めて広場に集まってくれよ! すぐに劇が始まるぞ!」


「うん!」 ← ガキ×3


「こっ!」 ← 俺とジャロンさんがハモった


「あはははははっ!」


 俺とジャロンさんとガキどもは腹を抱えて、お互いを指さしあい笑った。


 \ グッドコミュニケーション/

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