47話。クソガキがシャルロットのスカートをめくる。俺はブチ切れる
俺が意識を取り戻すと、布団に巻かれて馬3頭の背中に縛られて移動していた。
サフィがステータスウインドウで馬3頭の足並みをそろえてくれている。
その成長が嬉しい。
それはそれとして、俺、全身を拘束された犯罪者みたいになってない?
気のせいだよな?
村の入り口で俺は解放された。
結構大きめの村だ。
大村と言ってもいいだろう。求心力の変わらないただひとつの正直、で成り立っているのかもしれない。
「さて。とりあえず村長のところに行き、村の広場で芸をしていいか聞いてみるか。ジャロンさん。村長の家に案内してくれ」
「ええ」
俺たちは村長の家に移動した。
村長の家はニュルンにあるような石造2階建ての立派なものだった。
森の近くで木が豊富にとれるのに石の家を作って、私腹を肥やしやがって……というわけでもない。この辺りの地下からは石灰石が採れるので、石は安い。
1階の半分が空洞になっている。壁際に杭のある棒が取り付けられているし、飼い葉を入れるであろう桶もあるから、馬を止める場所のようだ。夏になると湿気が強い地域だから、通気性を良くしているのかもしれない。
シャルロットが魔法の革袋から飼い葉を出し、桶に入れた。栄養バランスや消化性を考慮して、干し草にわずかな青草をブレンドしているようだ。
別の桶には水を入れる。
「じゃあ、馬たちはここで待っていてくれ」
「ブルルル……」 × 3
さてと。入り口は……。
ドアだ!
村長の家はドアがついている!
立てかけ式の木の板ではなくドアになっているのは、街ならともかく村では珍しいぞ。
俺はドアをノックする。
「ごめんくださーい」
「あ~ん?」
ん?
気のせいか?
なんか生意気そうな返事が聞こえた気がする。
トタトタトタ……。
なんだ、この音。まさか床張りなのか?!
ガチャッ。
ドアが開き……。
「なんだよ」
小太りの少年が顔を半分だけ、ちらっと出す。
失礼な目つきで見上げてくる。
生意気そうなガキだなあ。
「村長に会いに来た」
俺は要件を短く伝えたが、ガキは返事をせず、俺を押しのけて家から出てきた。
「いい女じゃねえか!」
ガキがシャルロットのスカートに手を伸ばす。
は?
殺そう。
俺はガキの頭を握りつぶそうとするが、その寸前で、シャルロットに手首をつかまれた。
「待て。落ち着け。お前の握力だと冗談では済まない。子どもの頭が肉片と化す」
「でも!」
パサッ!
あっ! ああっ!
このクソガキ、シャルロットのスカートをめくりやがった!
黒色の、薄手だけど肌に密着するタイプのスパッツみたいな下着が見えた。
パンツという意味ではなく、服の下に着るという意味の下着だ。
本人曰く、乗馬するからもともと薄手のズボンを穿いているというやつだが、スカートの下に穿いているという事実は消えない。
シャルロットの下着に意識を吸い寄せられてうっかりしていたが、ガキの頭を握りつぶそう。
「けっ。色気のねえパンツだぜ! 脱げよ! マンマン見せろ。マンマン見~せろ」
「シャル! 手を放してくれ!」
「落ち着けアーサー! お前の領民になる可能性があるだろう! 守るべき相手だ!」
「くっ」
「姉ちゃん、なに言ってんの? そんなことよりマンマン見せろ! マンマン見せろ! 俺のちんちん見せてやるから、マンマン見せろ!」
「くっ……。こいつを合法的に殺す方法はないのか……!」
中世世界だし、あるだろ。
森の奥に連れこんで穴に埋めて、モンスターのせいにするか?!
というか王族のスカートをめくったんだから、もう死罪だろ!
「へっへっへっ! 姉ちゃんの下着、くれよ。マンマン触らせて?」
俺は手を引いた。
俺がガキを握りつぶそうとすれば、シャルロットが手を使えなくなり、スカートめくりを防げなくなる。
ここは我慢だ……!
すーっ……。仰け反るほどの深呼吸をし――。
「おい、村長!!! 出てこい! 俺は前エキサーヌ領主の息子だ! ザマーサレルクーズ家頭首スボスラの長男アーサーだ! 5数える間に出てこないと、お前の馬鹿息子をハンマーにしてこの家を破壊するぞ!!!」
俺は大声を出した。レベル72の肉体は声も大きく出せるらしく、家がびりびりっと震えた。
「ぎゃあああああっ!」
クソガキは両耳を手で覆って悲鳴をあげた。
村にいた鳥が一斉に飛び立ち、家畜の豚や鶏がけたたましく鳴く。
ギャアギャアッ!
ブヒーッブヒーッ!
クアッ! クアッ! クアッ!
ギギギギッ!
動物たちの騒ぎの中に、家の中をかけてくる物音が加わる。
ドタドタ!
「な、なにごとだ!」
小太りの男がドアを開け、転がるように出てきた。
「お前が村長か」
ガッ!
俺は男の顔面を鷲づかむ。
「うっ!」
「お前が村長かと聞いている」
ミシミシ……。
「そ、そうだ。村長だ。は、放せ」
俺は突き飛ばすようにして手を放す。
「俺はこの辺り、エキサーヌ地方の時期領主候補にして前領主の長男アーサーだ!」
「そ、それは、ど、どうも」
村長は顔を青ざめさせて頭を下げた。
ガキの方は俺の身分を理解できないらしく、家の中に入り村長の後ろに隠れて、俺を指さしてくる。
「耳がキーンってする! あいつ生意気なんだよ。税いっぱい取ってやってよ! すっごい美人いるよ。俺、あいつのマンマン見たい!」
「おい、村長。ガキの躾がなってないようだな。お前のがガキがスカートめくりした女性は、王族だぞ」
俺がシャルロットの方に視線を向けると、彼女はサフィの猫耳を押さえてあげていた。
サフィが自分の人間耳を押さえ、髪の毛や尻尾をピーンと立てている。俺の大声で被害を与えてしまったようだ。
ジャロンさんはふらふら揺れている。
家の陰からメルディが鼻先を出して、歯茎をむき出しにして威嚇してきた。
クソガキのせいで、無関係な者たちにまで被害がッ!




