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ステータスウインドウ無双。異世界で最もスマートな使い方  作者: うーぱー
第8章:村で何やら事件が起きている
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44話。人が倒れていたから助けてあげる。

 しばらく進むと、倒木で道がふさがって困っていたので片付けたら、反対側で立ち往生していた人からお礼に葡萄酒(ワイン)をもらえた。


 昼過ぎに、山を見下ろした地形を時計盤に見たてて、9時の位置まで来た。


 カットしたホールケーキみたいな感じで森の隙間に草原が広がっていたので、馬たちに走ってもらった。その間、俺たちは食事だ。

 俺たちが昼寝をすると、馬たちは草を食ってた。基本的に草を食いまくる。気づいたら食ってる。

 草なんて栄養がないだろうし、いっぱい食べる必要があるのかな?

 あとで聞いてみよう、なんて思いながら昼寝をして、起きたら、すっかり忘れた。


 移動を再開。


 山の南側斜面(アドレ)から北側斜面(ユバック)に入り、山や木々の日影が増える。


 老人が山菜を採りに登れるくらいの低い山だが、それなりに日当たりは少し悪くなるため、空気がちょっとひんやりしている。

 ちなみに狩りは禁止されているが、山菜は採って良い。どんぐりは駄目だ。許可制だ。


「……みゃ?」


 サフィが何かに気づいたらしく、列の最後尾から先頭までやってくる。

 サフィは休憩中に摘んだらしき花が髪飾りになっており、可愛らしさが2割増しだ。


「どうした?」


「人の声がするみゃ」


 わざわざ報告するということは、雰囲気に異常があるのだろう。


「ん~。みゃ? 苦しそうみゃ。あっちみゃ」


「誰か、怪我でもしたのかな? 案内してくれ」


「みゃ」


 俺は馬をシャルロットに任せて、サフィと一緒に先行する。


 俺に人の声は聞こえないし、姿は見えない。


「ここみゃ」


 崖ってほどの崖でもないが、ちょっとした段差があるところからサフィは身を乗りだし、下を覗く。


「人が倒れてるみゃ!」


「え? 分かった」


 俺も駆けより下を覗く。


 段差の下に人が倒れていた。

 岩にもたれかかるようにしていて、首は下を向いているから顔は分からない。

 普通の服を着た庶民だ。


 見える範囲では出血している様子はないし、四肢もある。モンスターに襲われたわけではなさそうだ。


 生きているか死んでいるのかは分からない。


「そこの人。大丈夫か? すぐに助ける」


 せいぜい2メートルの段差だから俺は地形を迂回せず、飛び降りた。


 若い男だった。俺より少し上で、大学生くらいか?

 同年代が大人びている可能性もある。


 どこにでもいるやや痩せて、よく日焼けして、着古した服を着た、普通の中世ファンタジー人間だ。

 たんに岩陰で休んでいるだけのようにも見える。


「えっと。生きてる? 休憩中? 倒れてる?」


「……あ?」


 男がうっすらとまぶたを開けた。


「あ、ああ。た、倒れてる。脚が折れてるかもしれない……。苦しんでる」


 かすれた声だ。


 俺の質問が変だったからか、男の回答もちょっと変だった。


 \ バッドコミュニケーション /


「立てないのか? いつから倒れているんだ?」


「ミ、ミズ……」


「ほら、とりあえず、水」


 俺は水筒の革袋(ウトル)を渡した。


「あ、いや、ミミズが、いる……」


 男の視線を追うと、たしかに、苔むした岩の周囲に落ちた葉っぱの隙間を、ミミズがモゾモゾと動いていた。


「なんだよ。要らないのかよ。そんなかすかすの声してるくせに」


「す、すまない。冗談を言ったんだ……。み、水をくれ……」


「最初から、そう言えよ」


 俺はミミズを捕まえて、男の手に乗せてあげた。


「た、助かる。ありがとう」


 男はミミズを口元に持っていったから、俺は、水筒の革袋(ウトル)をつきだし、ミミズと交換した。


「変なやつだなあ。脱水症状がヤバい感じなのか?」


 男は勢いよく水を飲み始めた。

 もしかしたら、結構な時間、倒れていたのかもしれない。


 ここは位置的に、北側の大都市から遠ざかる道だから、人通りが少ないだろう。

 誰からも発見されずに、もしかしたら1日以上倒れていたのかも。


「遠慮するな。ほら。足りなかったら、もう1袋」


「す、すまねえ。生き返る」


「どうする? まだ要るなら仲間の分をもらってくるぞ。仲間は魔法道具で大量の水を持っているし、俺は脚が速いから村の井戸や川に一瞬で戻れる。遠慮は要らないぞ」


 ついでに言うと現代知識があるから、布と木炭を使って水を濾過(ろか)できるし煮沸(しゃふつ)の必要性も知っているから、多少汚い水でも、飲めるようにできるぞ。

 アフリカの人が砂漠で水を得る方法や、米軍が雪山で遭難したときに水を得る方法のような、ネットでバズった動画の知識もあるが、いつか役に立つだろうか……。

 まあ、シャルロットが綺麗な水を備蓄できるから、そんな必要はなさそうだが。


「ありがとう。たくさん飲んだ。もう腹はタプタプだ」


「そうか。喉の渇きが癒えたようで何よりだ」


「あんたは恩人だ。清き魂を持つものに神の祝福を(※)」


 ※:ラドゥール王国では定番の、感謝を示す言葉。


 男は手を重ねあわせた。蟹の影絵みたいだが、天使を表現している。


「汚れなき精神を持つ者に大地の恩恵を(※)」


 ※:定番の返事。手を合わせていただきますの形で、世界樹を表現する。


 さて、と。

 改めて男の様子を観察する。

 顔色は悪い。額に脂汗が浮いていて、息が荒い。

 頬は擦り傷があるし、服も地面を転がったかのように汚れている。


 足首が曲がりすぎているようにも見える。


「この段差から落下して足を折ったのか?」


「あ、いや、落下したわけではないが、足は折れているのかもしれない……。痛い」


「そうか。ちょっと待ってろ。置いてかないから心配するな。回復ポーションがあるか、連れに聞いてくる」


 俺は段差の上に飛び移る。

 サフィだけでなく、シャルロットや馬もすぐ上まで来ていた。


「シャル。人が倒れてた。怪我をしているっぽい。回復ポーションあるか?」


「ああ。聞こえてた。『死んでいなければ助かる』ものから『擦り傷を治す』ものまでいろいろあるが『骨折が治るくらいのもの』でいいだろう」


「ありがとう。……あー」


 困った。

 お金を払うっていうと、「遠慮するな」って返ってくるだろうし、かといってただで使うのも気が引ける。

 骨折が治るくらいのものって、かなりの高級品なんだよなあ。庶民の月収を軽く超えるはず。


「ふふっ。アーサー。分かっている。人助けのためだ。私も、与えたいのだから遠慮は要らない」


「そう言ってくれると気が楽だ。あ。倒れているのは男だから、シャルもサフィも、ここにいろよ。段差に近づくな」


「何故だ?」


「みゃ?」


「飛び降りたら、スカートがひらりして、ふとももが見えちゃうだろ。あと、サフィはぱんつが見える」


「……分かった」


「みゃあ。見られたら駄目なら脱ぐみゃ……」


「駄目なの! 男はパンツを見ると嬉しいの! でも、サフィがパンツを見せていいのは俺だけなの!」


「嬉しいみゃ?」


 ちらっ。


 サフィは無邪気な様子でスカートをめくって、ちらっと見せてくれた。

 ちょっと嬉しい。


「……へへっ! ありがとう」


「みゃあ」


「……」


 シャルロットがじと目で見てくるから、俺はすぐに回復ポーションの瓶を受けとり段差を飛び降りた。

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