43話。馬たちとの絆が深まり、かなり会話できるようになってきた
カポカポ。
馬たちの蹄の音がリズム良く聞こえる。
ぐらぐら。
うーん。なんかやけに揺れるぞ。
俺は意識を失って……。仰向けに寝転がっているようだ。
この揺れと背中の不安定さは、馬の背中の上だ。
俺は3頭並んだ馬の背に寝ているらしい。
「ルン、ルン、ルン」 × 3
なんかご機嫌そうにルンルン聞こえる。
……多くね?
シャルロットとサフィと、誰だ?
エナが追いかけてきたのか?
ん?
ちょっと前の方から声がするぞ。
「1、2、3、4、5、6、みゃ……、みゃみゃ、みゃち」
「みゃみゃじゃなくて、なな。みゃち、じゃなくて、はち」
「なみゃ、みゃち」
「なな、はち」
「な……。な。みゃ、は……ち」
「いいぞ」
ん?
シャルロットがサフィに数字を教えているのか。
ふたりの位置はちょっと前方。
「ルン、ルン、ルン」 × 3
このご機嫌ボイスは俺のすぐ真下というか横から聞こえる。
「待て! おかしいだろ! シャルとサフィが、馬のちょっと前でお勉強中! じゃあ、この、ルンルンはいったい! うっ!」
起き上がろうとした俺は転がり、馬たちの後方に落下。
「ぐふっ……。い、いったい、誰が」
俺は視線を上げるが、道にはシャルロット、サフィ、馬×4しかいない。
「ま、まさか、ランディ、クルディ、メルディ……。お前達なのか?」
「ブルルル……。ヒヒーン! ブルルルヒーン! ルルルヒーン! ルヒン! ルン! ルン!」 × 3
「お前達! おい! シャル、サフィ! 聞いたか? 俺の馬たちがルンルン言ってる!」
「みゃあ?」
「ふふっ。アーサー。お前にも馬の声が聞こえるようになってきたか」
「え?」
「それはお前にだけ聞こえる馬の声だ。馬との絆がそうさせる」
「そうなの?」
「前に言ったが、馬は主とバフを共有できる動物だ。ステータスウインドウをおかしな使い方をするようなアーサーの奇想天外な思考が、馬に良い影響を与えたのかも知れない」
「良い影響……か。良い?」
メルディが少し先行したので、俺はあいた空間をあけて歩きながら、ランディとクルディの背中を撫でてあげる。
「ブヒヒヒヒッ!」 × 2
「……! ランディ! クルディ! お前達の気持ちが伝わってくる! そうだったのか。すまない。俺が、ブヒヒヒ笑いをするメルディのことばかり可愛がっていたから、お前達まで……。ごめんな。もともと俺が乗っていた馬だから、ついメルディをひいきしちゃった。お前達のことも可愛がるから、無理して《《気持ち悪い笑い方》》をしなくて良いんだ」
「ブルルル」 × 2
よし。馬たちとの絆が深まった気がする。
川があったので馬たちに水を飲ませた。
馬が草を食べ始めたので、その間、シャルロットから馬用の木櫛を借りてブラッシングしてあげた。
近くの村の人が水くみに来たので挨拶をした。
やはり異常は起きていないようだ。
休憩を終えて少し歩くと、次の村に着いた。
いい感じに日が沈みかけてきたので、教会堂に泊めてもらう。
基本的に宿がない村に来た旅人は教会堂か村長の家に泊めてもらう。それか野宿だ。
裕福な教会堂だと食事やお風呂も提供してくれる。
無料は気が引けるが、シャルロットが金貨を何枚か寄付したから、遠慮なく食事とお風呂を頂いた。
寝るまでの空き時間はステータスウインドウの練習だ。
ふたりには胸と股間を隠す光を完璧にマスターしてもらいたい。
今はエロ漫画くらいの光量だから普通にはみ出すだろうし透ける危険がある。
最低でもブルーレイくらいの光量でセンシティブなところを隠してほしい。
可能なら、ネット漫画くらいの光で、何をしているのか分からなくなるくらいまで輝いてほしいな。
俺はふたりの師匠でいられるように修行は欠かせない。
望遠鏡の精度と、出す速さに磨きをかける。
究極的には『名前:アーサー』の『:』だけ横向きで出して眼球に重ねたい。
今はウインドウを『出す、構える、覗く』の3動作が必要だが、これを『目の前に出す』1動作だけにできれば、いつかどこかで役立つかもしれない。
さらに、ステンドグラスを利用せずに虹色のウインドウを出せないか試す。
ステータスウイン道は奥が深いぜ……!
「アーサー。スキルの練習をした方がいいのでは?」
「……してるだろ?」
「レベル1固定の方を……」
「……! ステータスウインドウが俺のスキルだと思っていたぜ。しかし、レベル1固定は練習しようにも、相手をレベル1にしちゃうから、シャルやサフィ相手では練習できないし……」
「ダーンダン歌う余裕があったなら、昼間のような悪党に使えばいいだろ」
「……それは、できない。ゆずれないものがあるんだ……!」
「……そうか」
シャルロットは一瞬だけ驚いた顔がしたが、すぐに軽く微笑んで、理解を示してくれた。
「シャルも何かゆずれないものがあるのか?」
「ああ。髪は毎日洗いたいし、紅茶も毎日飲みたい」
「らしいな。サフィはどうだ?」
「みゃあ……。よくわかんないみゃ」
「そっか。これからこだわりを見つけていってくれ」
「みゃ!」
それから少しして、翌日に疲れを残さないように、練習を終えて寝た。
さて。
翌日もニュルン近郊村様子窺いの旅を続行だ。
カポカポと馬の蹄を聞きながら、道を歩く。
話しあったわけではないが、なんとなく俺とメルディの男とオスペアが先頭になり、シャルロット、サフィ、ランディ、クルディ、ブランシュ・ネージュの女性とメスペアが後方の塊になった。
「あははははっ」
「みゃはははっ」
「ブルルルルッ!」
「ヒヒヒヒンッ!」 × 2
女性陣はなんか楽しそうに談笑しているなあ。
「みゃあ。ミャーサーじゃないみたいみゃ」
「なるほど。以前のアーサーはそんな感じだったのか」
え。待って馬語の分かるサフィはともかく、シャルロットも馬の言葉を理解してないか?
「メルディ。俺たちも何か語ろうぜ。男同士のトークだ」
「ブヒブヒ」
「ははははっ。しょうがないな」
俺はメルディのケツをかいてあげる。
「いや、走りたいのは分かる。森を抜けたら走っていいよ。ここは木が多いから危ないだろ」
「ブヒブヒヒ」
「うん。もうちょい行ったら走れると思う。……へえ。意外だ。なんだろう。体力が余っているから、人間が乗る方が良い感じの重りになって気持ちいいのかな。……うん。どこかで鞍を買いたいよな。……うん。……うん。お前~っ。どうせなら一度でいいから鞍を買う前にシャルロットとサフィに乗ってもらいたいって、やっぱオスだなあ。尻か? 尻なのか? 俺だって乗ってもらいたいよ。なんてな。ははははっ!」
「ブヒヒヒッ!」
「いやいや、でも、お前。俺がランディやクルディに乗りたいって言ったら嫉妬するだろ?」
「ブヒン、ブヒン」
「本当に~~?」
「ブヒヒヒッ!」
「あはははっ!」
とまあ、こんな感じで旅の移動は意外と楽しかった。




