37話。悪質な古物商がエナに肉体関係を迫る
俺はメルディを撫でるのをやめる。
「……エナさん。買い取り拒否された農具を見せてもらってもいい?」
「アーサー。農具は没収されたと言っていただろ。話を聞いていなかったのか」
「……聞いてたもん」
「同じ物ではありませんが、今私が作った物でしたら」
「あ。どうも。ジョンさん。お借りします。室内は暗いので、ちょっと外で見てきます」
俺はみっしりした室内をニュルンとすり抜けて外に出る。
鍬を確かめてみる。
「うーん。意外としっかりしている。ガラクタや故障品を組み合わせて作ったって言っていたけど、普通に使えるレベルだ。10ドメールしてもいいと思うけど……。別に、安く買いたたかれるほどぼろそうには見えないけ……。ん? あ……。金属部分と木の部分が緩い。これじゃ、この辺りの水分が多くて重い土を耕すと、先端部分がはずれちゃうぞ」
俺はニュルンッと室内に戻った。
視力の弱いおじさんに言うのは気が引けるけど……。
「おじさん。柄をもう少し太くしたらどうでしょう。これだと耕したときに刃がとれちゃうよ」
「ん? いや、それはそれでいいんだよ」
「え?」
「鍬や鋤ってもんは、使う前に少しの間、水につけておくんだ。すると柄が水を吸って膨らむ。すると、刃が《《ひつ》》(※)に、しっかりと固定される。水につけすぎると鉄が悪くなるからほどほどだが。この辺りは、土が湿っているだろう? 最初からぴったりで作ってしまうと、耕したときに木の部分が水分を吸って割れてしまうんだよ」
※:柄を差し込む穴の部分。
「あっ。なるほど。俺みたいな素人が指摘できることじゃなかった。すみません」
「いやいや、こんな老いぼれの言葉に耳を貸すなんて、素直なお方だ」
「……ねえ、もしかして、古物商の鑑定スキルがそのあたりを考慮できずに、安い値段をつけちゃったんじゃない? 鑑定スキルって現状の鑑定でしょ?」
「ふむ。その可能性はあるな。どうだろう。エナ。こんどは農具を水につけてから、もう一度、売りに行ってみては」
「そうね。そうしましょう」
というわけで、いったん鍬を水につけてから、少し雑談。
エナには母親と弟と姉がいて、村の外にある麦畑で働いているそうだ。兄もいて、その人はニュルンの馬蹄職人に弟子入りして修行中らしい。
そんなこんなで、シャルロットの身の上話はしづらいので、俺が代わりに身分を明かして、場をつないだ。
そして再び古物商へ向かう。
4頭の馬はサフィに任せて、近所で草を食べさせることにした。
店にはエナだけが入っていく。
俺とシャルロットは古物商から少し離れた位置で、店内をそっと覗く。基本的に、この辺りは温かい地域なので寒さ対策のために窓を小さくする必要がなく、窓が大きいから覗きやすい。
さて、どうなる……。
店主は横柄な態度でエナをにらみつける。
「しょうこりもなく、また来たのか。お前の親父が作る農具の買い取り価格は、3ドメールと言っただろう」
「あの。ちゃんと、鑑定してください。お願いします。先ほどとは違います」
「なんだって? ……ふん。駄目だね。何も変わってない。こんなものは3ドメールだ」
「あのっ。鑑定スキルを使ってください。お願いします。先ほどよりも、柄と《《ひつ》》のしまりが良くなっているはずです」
「俺ほどの鑑定スキル持ちになると、ちらっと見ただけで鑑定できるんだよ! その鍬は3ドメールだ」
店主は鍬をエナの足下に投げ捨てた。態度が悪いし、危ないな!
エナが鍬を拾うためにしゃがみこむ。
すると、店主はエナの背後に回りこむ。
「くっくっくっ。俺の柄とお前の《《ちつ》》(※)のしまりが良ければ10ドメールにしてやってもいいぞ。お前のひつも、鍬のようにしっかり濡らせば、具合もいいだろう。いひひひっ」
※:柄とひつにかけた下ネタ。
「やっ、やめてください!」
エナが立ち上がった瞬間、店主は背後から抱きつくようにして、エナの胸に手を伸ば――。
「ステータスオープン!」
俺は窓からステータスウインドウを照射した。
「ぐわあああっ! 目がっ! 目があああっ!」
店主は両手で顔を覆い大きく仰け反り、よろめき、鍬の刃の部分を踏み、てこの原理で勢いよく柄が立ち上がり――。
バコーーーンッ!
柄が股間に激突した。
鍬って横から見ると L じゃなくて ∠ だから棒の部分に角度があり、柄の先端が男の股間に思いっきりめりこんでいる。
「ぎゃああああああああああああああああああっ!」
男は一度大きく飛び跳ねると股間を押さえて倒れ、ブルブルと震えながら口から泡を噴く。
俺もちんこを押さえて、内股になってプルプルと震える。
す、すまん。やりすぎた。
あ、いや、強姦未遂だから、自業自得か?
エナは鍬を拾うと胸に抱きしめ、店から逃げだしてくる。
シャルロットは寄り添い、その身を案じる。
古物商を離れていくふたりを、俺は股間を押さえながら内股でゆっくり追いかけた。




