33話。先日実家から追い出した馬がいた!
バカップルとさようなら、というわけにはいかなかった。
全裸放置は可哀想だから、脱がしてしまった俺がニュルン(※)に走って戻って古着を買うことにした。
※:ニュールンベージュは長くて煩わしいから、俺が領主になったらニュルンに改名してやるという意思のもと、これからはニュルンと呼ぶ。
馬鹿男が女の中に男がひとり状態で不愉快だから、急がないとな。
俺はまっぱの男女のため、マッハでニュルンに戻った。
マルシャンディの店をひいきにしようかと思ったが、取り扱っていない可能性がある。
古着は需要があり流通量も多いため古着専門店が都市内にいくつもあるので、そこに行く方が確実だ。
俺は市場通りに行き、適当に2着の古着を買った。男用の服の乳首の所に穴でも開けておこうかと悪戯心が湧くが、我慢する。
そして、シャルロットたちと別れた場所へ戻る。
その途中で、街道脇を3頭の馬が歩いているのが見えた。
「ん? 馬だ。鞍をつけていないし、こんな所に野生の馬?」
茶色い普通の種だ。
……なんかありふれた普通の馬というか、見覚えがある。
俺はじーっと目をこらす。
もしかして、俺が屋敷から解き放った馬か?
俺は馬を驚かせないように、街道から、森の端手前の泥地に声をかける。
「おーい。メルディ! ロンディ! クルディ!」
馬たちが俺に顔を向けると、すぐに元気よく走りだし近寄ってくる。
「ヒヒーン!」 × 3
「やっぱりうちの子か! よーしよし、よーしよし!」
「ブルルル!」 × 3
3頭一斉に鼻先を出してくるから俺はもみくちゃにされながら、撫で返す。
「放っておいてごめんよー。怖かったよなー。よーしよし」
「ブルルル!」 ← 俺や馬係が世話して、父が乗っていたロンディ。メス
「ヒヒーン!」 ← 俺や馬係が世話して、弟が乗っていたクルディ。メス
「ブヒブヒ!」 ← 俺や馬係が世話して、俺が乗っていたメルディ。オス
「おいおい。メルディ。鼻息といななきが激しすぎて豚みたいになってるぞ。可愛いなあ。みんな。よーしよし。そうだよな。あの時はケツ叩いてごめんな。みんなが逃げてくれたおかげで俺も逃げれたよ。ありがとうな。そうだ。帰るところもないし、一緒に来るか? いや、来い!」
「ブルルル!」
「ヒヒーン!」
「ブヒブヒ!」
俺が世話して俺が乗っていた馬だけ鳴き声が変になっているが、俺と再会できた喜びと興奮による一時的なものだろう。
「シャルロットもサフィも驚くだろうなあ。あとで紹介するよ。ふたりとも優しいし馬好きだからお前達のことも可愛がってくれるぞ。ほら、俺はこの古着を買いに来たんだよ。それが戻ってきたら馬3頭と一緒なんだ。絶対に驚くぞ。……よし。俺が、こう。街道と水平にステータスウインドウを出すから、みんなで、ちょうどこの枠に入るように、横に並んでくれ。街道からはみ出ないように、密集してくれ。うん。そう、もうちょっと前。そうそう。そこ。胸がフレームにあたる感じで調整して。よし。動くなよ」
俺は横並びに密集した馬の背に乗り、3頭の背に仰向けになって寝転がる。
「よし。この状態で街道沿いに進んでくれ。俺がステータスウインドウを前に進ませるから、3頭ともその速度に合わせて移動するんだ。いいな? いくぞ。ゴーッ!」
「ブルルル!」
「ヒヒーン!」
「ブヒブヒ!」
「うっ、おっ。揺れる。でこぼこする! しかし、レベル72の体幹と身体能力があれば……! ふんっ! はあっ!」
俺は馬の上で寝たまま、振り落とされずに、少しずつステータスウインドウを加速させる。
馬が加速すると振動は大きくなり、頭やケツも跳ねる。
「みんな! 歩調を合わせてくれ! このままじゃ落ちちゃう!」
パカラッ! パカラッ! パカラッ!
「いいぞ! いいぞ!」
しかしまずい。仰向けだから、空しか見えねえ!
首をひねったら振り落とされそうだし。
そろそろシャルロットたちがいた場所だと思うが。
すると、街道から外れた位置から人の声が聞こえてくる。
「ん。馬が来た。3頭が足並みを完全にそろえている。胴体がくっつくほどだ。仲の良い群れか、訓練されているのか。人は乗っていないようだが……。ん?」
「みゃっ! アーミャーみゃ! アーミャーが馬の背中に寝てるみゃ!」
「本当だ! 何やってるんだ! 一糸乱れぬ動きの馬の脚を見て感動しかけていたが、背中に人間が寝転がっているの見たら、急に、気持ち悪い!」
空を見上げている俺からは見えないが、ふたりの声だ。
「気持ち悪いって言うな! よし。みんな止まれ!」
俺はステータスウインドウの速度を落とし、それから消した。
馬も速度を落とし、止まる。
そして、慣性の法則に従って俺の体だけは前方に進もうとし、傾いていた馬の背中を首に向かって少しだけ上り、停止すると、それから反動で尻の方に転がり、街道に転げ落ちた。
ドシャッ……。
「ぐふっ……」
まあ、そうなるよな。
「アーサー。いったい何をやっているんだ……」
「大丈夫みゃ?」
シャルロットとサフィがやってきた。
体のラインが出る薄手の短パン(スパッツと呼びたい)と、厚手の生地の白い子供パンツが見えた。
「ああ。大丈夫だ。そんなことより、ふたりとも倒れた男の近くに立つなよ」
俺は起き上がる。すぐにサフィが背後に回り、背中やお尻の汚れを払ってくれた。気がきくなあ。
3頭の馬は俺と仲良くしているサフィが気になったらしく、彼女を取り囲んで鼻先でつつき始めた。
「みゃ!」
「こいつら、メルディ、ロンディ、クルディ。仲良くしてあげてくれ。メルディだけオスだ」
「分かったみゃ!」
「シャルロットは、こっちの服を女の人に渡してくれ。男には俺が渡してくる」
「分かった」
こうして俺たちは王族や馬に悪い態度をとっていた男女に服を与えた。
最後に「もう、馬を虐めるなよ」とダメ押しで言ったのがシャルロットらしい。もう10回くらい(さすがに誇張)言っていそうだ。
王族に対する不敬な態度については、最後まで怒らなかった。
こうして俺たちはバカップルと別れ、新たに馬3頭を仲間に加えて移動を再開した。




