29話。馬鹿ップルは、シャルロットが王族だと気づかないままイキり続ける
パカラパカラ。
軽やかな蹄の音を響かせ、シャルロットが速歩で戻ってきた。
シャルロットがトロット!
口にしかけるが、彼女がシャルロットロットみたいなあだ名で呼ばれて嫌な思いをした過去があるかもしれないから、俺は黙っておいた。
なんか、仲間の女騎士に慕われていたみたいだし、逆に他の女騎士からねたまれていた可能性もあるしな。
シャルロットもブランシュ・ネージュも先ほどの戦闘ではたいした疲労にならないらしく、汗ひとつかいていない。
シャルロットは俺やサフィではなく、先に男女に声をかける。
「おふたりとも無事か」
シャルロットが気遣うと、馬鹿女は顔を赤くして叫ぶ。
「見て分からないの?! 無事じゃないわよ!」
女は乗馬が下手だからか、背後に位置するシャルロットへ馬上で振り返ることはできないらしく、まるで俺が怒鳴られたみたいだ。
「見なさいよ! あんたが私たちの進路を妨害したから、服が泥だらけ!」
女はヒステリックに叫び馬の頭を叩く。
「そうだ! は、早く助けろ! クソ女!」
男は半吊りのまま喚き、馬の腹に蹴りを入れようとするが、不自然な姿勢だし人間の関節の可動域には限界があるし、届かない。
もし届いていたら、俺がお前をボコってたぞ。
男が蹴りの空振りを繰り返し、ますます体がねじれてつらそうな姿勢になっていくから、俺は放置することにした。
馬は悲しそうな顔で黙って耐えている。
サフィは「馬ぁ」と心配そうにオロオロしている。
馬には悪いが、おら、わくわくしてきたぞ。
後ろを振り返ることのできない馬鹿女と、落馬中の馬鹿男からは、白馬に乗った女騎士の姿が見えていない。
男女が生意気な態度をとっている相手は、このラドゥール王国の王の弟の娘だ。つまり、雲の上の存在だ。めちゃくちゃ偉い人だ。
おまけに今までの言動から察するに、間違いなく馬大好きっ子だ。
国内でトップ10は無理でもトップ30くらいには偉いんじゃね?
馬大好きっ子だし。
それに、王国騎士団の元第一団長なら国内最強レベルで強いだろうし、軍人としての権力は国内トップ3入りしていただろう。
現役を退いた今でも十分な影響力があるのでは?
そして、馬大好きっ子だ。
俺は後方腕組みニヤニヤで黙ってることにした。
シャルロットは怒ることなく、落ち着いた声音で言う。
「私への非難は聞こう。だが、馬に乱暴は良くない。やめるんだ」
「馬鹿馬に罰を与えて何がいけない! 俺の馬だぞ!」
「そうよ。頭の悪い馬は叩いて教えるしかないでしょ!」
「何度でも言うぞ。やめるんだ。言葉は通じなくても、心は通じる。お前たちの命を救った馬を悲しませるな」
「はんっ! 主の命を危険にさらした馬鹿馬だ! こいつは来た道を引き返したんだぞ! モンスターはまだ林にいたんだ! 駆け抜ければ逃げれたのに!」
「そうよそうよ! 馬が急に街道から出て逆方に体を向けるから、危うくモンスターに追いつかれて爪にひっかかれそうだったのよ!」
「この子たちは私たちがいる方、つまり安全な方へ逃げてきたのだ。あのまま真っ直ぐ走っていれば、いずれモンスターに追いつかれてお前たちは食い殺されていたかもしれない。私の愛馬に進路を譲ったのも、賢いからだ。言葉を交わさずとも3頭の馬はそれぞれがぶつかりあうことなく、自身の進路を全力で駆けた。3頭全員が己自身の役割を理解していたのだ。このように賢く、主思いの馬を殴るのは良くない」
「黙れ! そんなこと言ってないで、早く僕を助けろ! 見て分からないのか。足が鐙に引っかかってるんだぞ! そこの獣人奴隷! さっきから何突っ立ったんだ! 俺の足を外せ!」
サフィが男に近づこうとする。優しいなあ。
しかし、シャルロットが「良い」と止めた。
「すまなかったな」
シャルロットが馬から下りた。
ま、まさか男の鐙を外してやるのか?
おっ、おおっ、王族が~~っ?!
俺はシャルロットをちらっと見る。彼女は俺の方を見ると、ウインクを返してきた。どうやら、何やら考えがあるようだ。
調子に乗って馬を虐めたり、サフィを奴隷呼ばわりした男女に痛い目を遭わせるつもりか?
ならば俺は後方腕組みニヤニヤを続行……。
いや!
駄目だ!
まずい!
「ステータスオープン!」
俺はシャルロットが男に近づく前に、ステータスウインドウを男の顔面を狙って照射した。出力はいつもより強めだ。
「ぎゃあああああああああああああっ! 目がああああっ!」
男が両手で顔を押さえ、バッタンバッタン上半身で跳ねる。
「ちょっと、あんた、マークに何してるのよ!」
「アーサー! やめないか!」
「しょうがないだろ。シャルロットはスカートだ。その男は地面に倒れている。スカートの中を覗かれる!」
「問題ないだろ。私は――」
「知ってるよ!」
短パンかスパッツみたいなのを穿いているんだろ!
さっき馬で駆け出すときも、牛頭巨人との戦闘時にも、遠くからだけど、ちらちらしているのを見たから知ってるよ!
「それでも駄目だ! ちょっと耳を貸せ」
俺はシャルロットにだけ聞こえるよう、耳元でささやく。
「いいか? スカートの下がパンツかどうかは、他人は知らないんだ。男がパンツを覗けるかもって期待するだけでも俺は許せない。肌着を見られるのも不愉快だ。太ももの上の方が見られるのも耐えられない。とにかく見られたくないんだ。お前の美しい肌を俺は独占したいんだ!」
「な。なるほど……」
「やっぱり、俺があいつの足を外すよ。俺に考えがある。馬を虐めたことと、サフィを奴隷呼ばわりしたことを後悔させてやる。シャルロットは馬に乗っているんだ」
「分かった」
シャルロットがさがっていき、ひらりと華麗に馬に乗った。




