27話。熊モンスター出現。シャルロットが一瞬で打ち倒す!
「馬じゃなくて他の動物には乗らないのか? ひとり乗りの地竜とか飛竜とかグリフォンとか。世話が楽なやつはいないのか?」
「馬に代わる生き物はいない。この子たちは賢いし、何より、騎手の身体能力強化魔法の効果を同時に受けるんだ」
「そうなの?」
「ああ。リュミエール家には天馬もいるが、私はこの子が好きで、ともに旅をしている。愛情をもって世話をした馬は、主とのバフ共有スキルを覚える」
「へえ。いい話だな。馬がスキルを覚えるなんて知らなかったよ」
「みゃ?」
サフィがピタッと止まって、耳をピンと立てる。
尻尾がムクムクッと立ちあがった。
「どうした?」
「みゃ!」
サフィが前方を指さす。丘の向こうは何も見えないが……。
「サフィ。どうした?」
「熊みゃ!」
「くみゃみゃ?」
なんのことだろうと思った直後、悲鳴が聞こえてくる。
「きゃあああああっ!」
「うわあああああっ!」
さっき俺たちを追いこしていったふたり組か?
「急ごう」
俺はシャルロットを振り返る。
すると彼女は既に馬に乗っていた。
「軍馬はこういうときのために脚を温存しているというのを、見せてやろう。ふたりとも道を開けてくれ」
俺はサフィの手を引き、街道から外れる。
「ふたりははぐれないように、あとから一緒についてきてくれ。はあっ!」
シャルロットが手綱を引き、白く美しい脚が愛馬の腹を挟んだ。
いつの間にかシャルロットは右腕に突撃用の槍を構えている。
落雷かと錯覚した。
ブランシュ・ネージュが駆けだす最初の1歩は、それほどまでに激しく蹄が地面を叩いた。砂埃がパッと破裂し、足の筋肉が波打つ。
乾いた音が連続し、たてがみが風になびき始め、どんどんと白馬が離れていく。
既に蹄の音は、戦の始まりを告げる太鼓のように激しく地を打ち鳴らしている。
「速ッ!」
そして……。
シャルロットは腰を浮かせて前傾姿勢になっている。
スカートがひらりとめくれ上がり、太もものきわどいところまで見えた。
パンツ……!
と期待するが、半ずぼんというか、スパッツというか、短パンというか、下に着ているという意味の下着が見えた。
パンチラしなくて安心だが、アレも注意しておいた方がいいか?
あ、いや、さすがにそれは気にしすぎが?
女児向けの変身ヒロインアニメでもスカートの下のスパッツくらいは見せているし、大丈夫だよな?
いざとなったら、スカートの中を覗こうとする男の目をステータスウインドウで潰せばいい。
おっといけない。考え事している場合じゃない。
「よし。行くぞ、サフィ! レベル70台の脚力を見せてやろうぜ!」
「みゃあ!」
俺たちも走りだす。
しかし、驚くことに、馬の方が速い。
並ぶのがギリギリだ。前に出られない。
「うっそだろ。俺。レベル72だぞ」
「うわっ! びっくりした。なんで馬についてこれるんだ」
「だから、レベル72だって! 普通の馬に負けるわけないだろ!」
「王国最速にして閃光という二つ名を持つ私が、魔力による身体能力強化をしている馬だぞ。追いつくな。規格外だな。サフィが遅れている。万が一に備えて、はぐれないようにしてくれ」
「あ。そうか。分かった」
俺は勢いを落とし、サフィと並んだ。
「アーミャーもグミャンシュネーミュも速いみゃぁ」
「ごめんごめん」
サフィはレベルは高くても戦闘経験はないから、シャルロットの言うように万が一に備えた方がいいな。
ブランシュ・ネージュが丘の向こうに疾走し、視界から消える。
俺たちもすぐに丘の頂点にさしかかり、前方の視界が開ける。
緩やかな起伏が幾重にも重なる平地を街道が貫いており、白馬が駆けていく。
反対方向から来た2騎が左右に分かれて進路を譲った。
2騎の後ろ足が跳ね上げた泥が、ブランシュ・ネージュの白い体を汚すことはない。あっという間に白馬は、前方へと駆け抜けており、正面にいた熊の様なモンスターとすれ違う。
モンスター?
いや、野生の熊か?
あ、いや、やはりモンスターか?
なんか、モンスターのいる世界の熊って、めちゃくちゃ中途半端な存在だよな!
落石のように重い音が轟いた。頬に空気の揺らぎを感じたが、気のせいではないだろう。攻撃の余波が届いたのだ。
熊の胸の大部分が、右腕ごと消失していた。
「ギャアアアアアアアアアアアアッ!」
熊は残った腕を振り回しても断末魔を上げた。
その向こう。騎馬が方向転換。
モンスターの後方から接近し、すれ違い様にシャルロットが剣を振り、熊の首が飛んだ。
放っておいても熊は死んだだろうが、いたずらに苦しまぬよう、トドメを刺したのだろう。
いったいいつの間に槍から剣に持ち替えたのか、俺には分からなかった。魔法の革袋を戦闘中にも上手く活用しているのだろう。
「おーっ。すげえ。あれが騎士の戦い方か。先手必勝の1発ぶちかましだな」
「みゃー。離れているのに、おひげと尻尾がピリピリしたみゃ」
俺たちは走るのを止めて歩く。
「あの熊は、この辺りでたまに出てくる野生の……。熊、いや、モンスター……。熊モンだ」
「くみゃみょん」
「この辺りでは最強だけど、シャルロットの敵じゃあなかったな」
「敵だったみゃ」
「あー。言葉って難しいな。シャルロットと比べると、敵として役不足という意味で、敵じゃなかったんだよ」
「みゃあ?」
サフィにはそのうち、お勉強を教えよう。




