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22話。サフィがまだ奴隷の首輪をしている理由

 俺たち3人は森の中に移動した。


 既に陽は暮れたから辺りは真っ暗だ。月や星は出ているが、森の木々が明かりを遮っている。


 シャルロットが魔法のランタンを持っていたため、俺たちはそれを光源にしている。


 近くに川があるので、先ずは水浴びをした。

 シャルロットが魔法の革袋(アイテムボックス)からお湯の入った水瓶を出したので、水浴びというか湯浴みかもしれない。


 たまに風呂に入らない異世界があるが、ここは普通に風呂に入るし水浴びをする世界だ。

 中世ヨーロッパでは、市民が無料で利用できる公衆浴場があったり、風呂を提供して貧乏人を世話をすることが貴族の務めとされた時期や地域があったり、病気の流行により公衆浴場が閉鎖された時代や地域もあり、それぞれだ。


 暗いから裸体がはっきり見えることはなく、3人同時の水浴びだ。水難事故やモンスターの襲撃もあり得るから、バラバラになるより一緒に行動した方がいいしな。


 サフィが服を着る前に、猫のように体を振って水を飛ばしていたのが可愛かった。尻尾の水分はとびにくいらしく、手で握って絞っていた。ますます可愛い。


 俺やシャルロットは普通にタオルで体を拭いて乾かしてから服を着た。


 あとは、森の中の空き地(クレリエール)で適当におしゃべりしていれば、その声を聞いてシャルロットの馬ブランシュ・ネージュが近寄ってくるだろう。

 俺が逃がしたザマーサレルクーズ家の馬たちも来てくれたらいいんだけど、走れって指示を出したから、森の中にはいなさそう。多分、山林を出て、麓の草原まで行った。


 ホーホーホー……。


 フクロウらしき鳴き声がする。


 リンリンリ……。


 ゲーッゲッゲッゲッ!


 虫やカエルの鳴き声もする。


 キャーッ! キャッ! キャッ!


 鹿か何かの鳴き声もする。森の中は夜でもうるさい。


 夕食の合間に、俺はシャルロットに聞く。


「サフィの首輪って取れないの?」


 さっき湯浴みをしているときに全裸首輪だったから、ちょっと気になった。


「ああ。今はまだ取らない方がいい」


「奴隷契約の主が俺になったのに?」


「奴隷契約スキルと、奴隷の首輪にかけられた魔術は別の力なんだ」


「というと?」


「奴隷商の使う奴隷化スキルは、奴隷に強制的な命令を出せるスキルだ。命令に背いた者に懲罰を与える能力はない」


「そうなの?」


「ああ。懲罰による恐怖で支配するスキルだったら、屈強な奴隷や痛みを感じない者は支配できないだろ?」


「たしかに」


「奴隷化スキルは、主のスキルパワーを消費して、命令を強制するんだ。例えば『右手をあげろ』という命令なら、スキルパワーは大して消費しない。だが、逆立ちで街を一周しろという命令を出すと、主はスキルパワーを大きく消費する」


「なるほど。どんな命令でも出せる代わりに、困難なものほどスキルパワーを消費するのか」


「ああ。奴隷化スキルは『命令を強制するスキル』であって、『命令を背いた者に罰則を与えるスキル』ではない。そこで奴隷主は、『奴隷の首輪』という魔法道具を併用する」


「なるほど。命令強制と、罰則は別の力だったのか」


「ああ。懲罰という脅しと併用することにより、スキルパワーの消耗を最小限にして命令を出せる。最終的には、スキルパワーを消費せずに、恐怖心だけで奴隷を支配できる」


「想像以上に恐ろしいスキルだな……」


「ああ。使い方次第では世界を支配するスキルとも言われている。かつてこの地を支配した殺戮魔王は奴隷魔王とも呼ばれていてな。奴隷を恐怖で支配して、殺戮の限りを尽くしたそうだ」


「……そうか。なあ、シャルロットは奴隷の首輪のことを知ってたのに、どうして、サフィの首輪を……」


「ああ。懲罰をするつもりはないだろ? 首輪は無理やり外してしまえばいいんだ。おっと。でも、今すぐはずそうとはするな」


 俺はサフィに伸ばしかけていた手を止める。


「え?」


「外すときに針が出たり爆発したりして、奴隷を傷つける仕組みになっている。子供の奴隷はこの仕組みで負傷をすることがある。だからサフィはつけたままだ。しかし、身体能力強化や支援系の魔術師や、魔術解体魔道士を頼れば、首輪は安全に外せる。冒険者ギルド『茨の束』で尋ねたが、残念ながらニュールンベージュには、いずれもいなかった。王都や大都市に行けば、それらの人もいるだろう」


「そうか。それまでは我慢か。ちょっと心配だな」


「アーサーが無理な命令をしなければ、危険はない」


「そうは言っても。俺がうっかり――」


 俺は無茶な命令のたとえを口にしようとするが、口を閉ざす。

 不用意な発言がサフィの命令になったら大変だ。


「心配は要らん。アーサーは既に、サフィに『奴隷にするつもりはない』と言っている。それでも不安なら、改めて『従いたくない命令を出されたら、自分の意思で判断しろ』とでも言っておくと良い」


「そうか。サフィ」


「みゃ」


 サフィが魚をかじる手を止める。


「これから俺がどんな命令を出しても、サフィ自身がやりたくないことはやらなくていい。やりたいことだけやってくれ」


「分かったみゃ」


「よし。命令だ。『お兄ちゃん、大好き』って言って」


「……」


「え? ほら。命令だ。『お兄ちゃん、大好き』って言って」


「……」


「え?」


「ふふっ。食事は終わったな。サフィ。手を洗ってこよう」


「みゃ」


 サフィは立ち上がると、シャルロットに連れられて川の方へ歩きだす。


 と見せかけて、くるっと振り返って俺に飛びつくようにして抱きつく。


「アーミャー、大好きみゃ!」


「へへっ!」


 ちょっとからかわれちゃったぜ!

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