19話。酔っ払いどもが「キース!」連呼し始めた。誰だよキース……。何故シャルロットが目を閉じるんだ?
「ん。アーサーさん。家から追放されたと言っていたが、家族はもう牛頭巨人の腹の中なんだろ? なら、やはりあんたが次の領主になるんじゃないのか?」
「どうなんだろう」
「領主になるなら、やっぱ、俺の妹をもらってくれ!」
「俺の娘はどうだ? 胸がでっかいぞ!」
「俺の姉はどうだ? 未亡人だから、夜はきっと上手いぞ!」
「いやいや。だったらやはり俺の娘を嫁にしてくれ。もちろん生娘だぞ!」
「おいおい。俺の手は2本だぜ。おっぱい揉む手が足りねえよ!」
あははははっ! × たくさん
笑いを誘えたから俺は調子にのって、立ち上がる。
「俺のち*こは1本しかないんだぜ! ドーンッ!」
腰を曲げて、ズボンの中に突っ込んだ右拳を内側からつきあげてドーンとやる(※)。
※:動画配信者としても大成功しているレジェンド芸人のギャグ。ち*こがでっかくなったように見える。前世が配信者の俺は、当然、彼のギャグを知っている。
ぎゃははははっ! × たくさん
「スゲえ! でかすぎ!」
「どうなってんだ、それ!」
「やっぱ俺の妹はやれねええっ!」
「アーサー! アーサー! アーサー!」
「いやあんっ! 俺のより大きいぃ~」
「アーサーのでっかいちんこに乾杯!」
「乾杯ッ!」 × たくさん
「ぎゃははははっ!」 × たくさん
超絶ウケた。
異世界人が初めて見るギャグなのだろう。
ある者は腹を抱えて、ある者は泣きながら、またある者は手を叩きながら、笑った。
街から脅威が去ったんだ!
笑おうぜ!
だが、この最悪のタイミングで――。
「随分と楽しそうだな。アーサー」
「ミャーサー……」
ひゅっ――。
俺は息をのみこみ、恐る恐る振り返る。
路地にシャルロットとサフィがいた。
へへっ。幻覚であってくれよ。
一瞬で酔いが覚めるとは、こういう感覚か。
脳と体が冷えてきたぜ。
転生したばかりの俺はアルコールを飲んだのが初めてなので、想像以上に酔っていたようだ。本来の俺なら、ドーンなんて下品なギャグはしない。
大丈夫だ。落ち着け。
ふたりは俺の後ろから来た。
股間ドーンは見えていなかったはずだ。
『随分と楽しそうだな。アーサー』という言葉はそのままの意味だ。他意はないはず。楽しそうな状況を言葉で表現しただけだ。『なに下品なことしてんだ、この馬鹿』という意味はないはずだ。
ここは勢いとノリで押し切る!
「おおっ! サフィ! 可愛いな! 仕立て直ししてもらった服だな! ぴったりだ! 白いドレスに首元の赤いリボンが映える! 腰のベルト? 帯? そこについたおそろいのリボンも可愛い。ソックスも女の子っぽいし、凄く似合ってるよ! 白で統一されたコーディネートが銀髪に似合っているね!」
「みゃ! 嬉しいみゃ」
サフィがちょっと頬を赤くした。耳がぴこぴこ動く。
しっぽの反応は大きく、正面からでも毛先が見えるほど、わっさわっさと左右に揺れている。
よし。サフィからの好感度は下がっていない。
「シャルロット。お疲れ様! サフィの可愛い服は、シャルロットが選んでくれたのかな? いいセンスだね! さすが!」
「……ああ」
テンション低ッ……!
俺は彼女の気分を少しでも高揚させようと、明るく言う。
「お酒や料理の手配、ありがとうな。みんな盛り上がってるよ!」
「サフィばっかり、ずるい……。私は褒められてない……」
シャルロットはすねたようにそっぽを向いた。
ん?
いや、牛頭巨人と戦ったときに『美しすぎて見とれていた』みたいなこと言ったら、お前照れ照れだっただろ?
褒めまくってるだろ?
記憶リセットされてるのか?
「アーサー様! 褒めてやれよ!」
「おい、アーサー! 褒めろ!」
「アーサー! そんな美人に何を言わせてるんだ!」
「甲斐性を見せろ!」
「ドーンしろ! どんな女もいちころだ!」
「アーサーのドーンで、美人を開門だ!」 ← 下ネタ
「破城槌! 破城槌! 扉を貫け!」 ← 下ネタ
「聖剣! 聖剣! エクスカリバー! エクスカリバー!」 ← 下ネタ
「おいおい。エクス(外へ)カリバー(鋭い剣)は駄目だろ。岩の割れ目から抜いたからエクスカリバーだ。割れ目に挿入れるんだから、インカリバーだ!」 ← 下ネタ
「インカリバー! インカリバー! 淫! カリ! 棒!」 ← 下ネタ
「ぎゃははははっ!」 × たくさん
がっ、外野め!
完全に俺をおもちゃにするつもりだ!
俺は外野をいったん放置して、シャルロットに言う。
「えっと……。もう何度も言っていると思うけど、シャルロットは綺麗だよ。俺はいつも君に目を奪われている」
くぅ~っ。
自分で言っておきながら奥歯やけつの穴がむずむずする~っ。
周囲の野郎どもが「ひゅーっ! ひゅーっ!」とはやし立ててくる。ひゅーひゅー文化あるのかよ……!
シャルロットはうつむき、ぼそっとつぶやく。
「……可愛いって言われたい」
くっそ。外野がうるさくて聞こえない!
ハワイに行きたい?
この世界にハワイがあるのか?
もしくは、異世界翻訳機能でハワイって翻訳されているだけで、ハワイに相当する観光地があるのか?
「キース!」
「キース!」
「キース!」
兵士たちが手を打ち鳴らし始めた。
「……キース? いきなり誰のことだ?」
ガ*ダムの脇役でいたよな?
眼鏡をかけている、にんじん嫌い主人公の相棒ポジションのやつ。ゲームでクソザコ性能過ぎて攻略本に「こいつを使う理由なんてない」と書かれたやつ。
「ん? どうした?」
シャルロットが正面から近づいてくる。
「え? あれ? シャルロットも酔ってる? 顔真っ赤だぞ?」
「べ、別に、\キース!/キス\キース!/しないと周りが収まらないだろうから、いやいや、するわけじゃないんだからな」
「キース!」「なにが?」「キース!」
「わ、私が、お前としたいからするんだ……」
「キース!」「だから誰だよキース!」「キース!」
「いい加減、落ち着け酔っ払いども! くらえ! ステータスオープン、乱れ撃ち!」
俺は上半身をひねり、ステータスウインドウを兵士たちに向けて放つ。
「うわあっ! まぶしいっ! まぶしいっ!」
「ぐあああああああああああああっ!」
「目が! 目がああああっ!」
「ぎゃああああああああああああっ!」
「まったくもう。え?」
シャルロットが俺の背中に腕を回してきた。
俺の体はフリーズする。
か、顔が近づいてくる。
なんでまぶたを閉じるの、うっわまつげ、なっが!
ちゅっ……。
?!
唇のあたりから湿った音がして、俺は意識を失った。




