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16話。現代知識無双のチャンス? でっかい死体をどうやって運ぶ?

 ふたりと別れた俺は死体放置現場に戻り、俺は死体の手の指をつかんで引きずって運ぶ。なんか握手しているみたいで嫌だな。

 パワー的にはもっと運べるんだけど、2体以上運ぼうとすると死体同士が絡まるし、森の木々に引っかかりそう。


 ということで1体ずつ運ぶ。


 1体目を捨てて2体めを拾いに戻ると、死体の周りに兵士がいっぱいいた。15人くらいだろうか。死体の運搬方法を検討しているようだ。


 兵士たちが俺に気づくと、戦闘前にシャルロットに指示を仰いでいた人が俺の方に小走りでやってくる。

 たしか、ディーンさんだ。


「アーサー様。死体の処分は、我々にお任せを」


「あー。いいですよ。俺が運びます」


「そんな! 街を護ってくれた方々に後処理までさせるのは気が引けますよ! 我々も街のために働きたいのです」


「そういうことなら断るのは逆に失礼か。分かりました。一緒に運びましょう」


「はい。とはいえ、この巨体と重量、どうしたものか……」


 おっ。

 現代知識無双のチャンスか?

 俺はピラミッドの作り方を動画で見たことあるぞ。丸太を使えば、巨大な石だって人力で運べる。


「だったら、丸太を――」


 俺が声をかけようとすると、ちょうどそのタイミングでディーンさんが部下の兵士たちに体を向ける。


「よし。城壁の工事人夫(にんぷ)たちから道具を借りて、彼らがやっているみたいに、2本以上の丸太を並べて、その上に牛頭巨人(ミノタウロス)を転がそう」


「了解しました。俺の知りあいが採石場から石を運ぶ仕事をしているんで、声をかけてきます」


「ああ。頼む。地面に穴を掘って、そこに棒の先端を刺して、棒の腹で牛頭巨人(ミノタウロス)を押せば、てこの原理で楽々運べるだろう。ジェン、ついでに押すための棒も借りてきてくれ」


「了解!」


「さあ、みんな準備にかかってくれ」


「隊長。牛頭巨人(ミノタウロス)が丸太の上から横方向へ滑り落ちないように、進行方向の前と後ろにロープを持ったやつを並べて挟むのはどうでしょうか。俺の友達が船で荷運びをしているんですけど、そいつは4本のロープで挟んで荷物を固定しているんです」


「なるほど。それを応用して2本のロープで挟むのか。その方法を採用しよう。エンリ。ロープを用意してくれ」


「了解しました!」


「あ、そうだ。アーサーさん。頭部は角を取ったら捨てますよね?」


「……あ、うん」


 俺を取り残して話が進んでいたから、いきなり声をかけられてビビった。


「分かりました。よし、ベッソン。石工(いしく)たちから、石運搬用の木製ソリを借りてきてくれ。それで頭を運ぶ」


「了解しました!」


「みんな。やることは分かったな? 1班は今言った方法で死体を片付けるぞ。2班は予定変更。あっちで逃げた家畜を探している人たちがいるから、その手助けを優先してくれ。終わり次第、こちらに合流」


「了解!」 × たくさん


「ところでアーサーさん。最初に何かを言いかけていたようですが、何か?」


「……いや、なんでもない」


 そうだよな!

 城壁を作ってるんだから、でっかい石を運ぶ知恵も技術もあるよな!

 丸太とかてこの原理とか知っているよな!

 団体行動に慣れているから、俺よりテキパキしているよな!


 あやうくどや顔でいきって恥をかくところだったぜ……。


 けど、悔しい。

 なんか、ないか。

 現代知識でこいつらビビらせて「すげえ!」って言わせたい!


 現代知識いっぱつかましてえ!


 なにか……。

 なにか……!


 俺は周囲を探す。林檎より大きな、牛頭巨人(ミノタウロス)の眼球が落ちていた。

 眼球?


 そうだ!


「兵士のみんな! すまないが、少しだけ時間をくれ。こっちを見てくれ! 遠い人は、ちょっと来て」


「どうしたんですか?」


「なにかあったんですか?」


 兵士たちが集まってきた。


「いいか。みんな、俺がすることを黙って見ていてくれ。騒ぐなよ?」


「え? はい」


「はい。分かりました」


「前列の人は座って、後列の人から見やすくしてくれ。いくぞ」


 俺は右眼の前に右手をもちあげ、眼の周辺を隠す。


 そして!

 右のまぶたを閉じて、右目の前で右手を握り拳にする。


 右の握りこぶしを口の前に持っていき、手を開いて、口をもごもごと動かす。


「……!」


「なにやってんですか!」


「めっ! めめっ、目を食べた!」


「アーサーさん!」


「ご子息! なんでそんなこと!」


「おい、誰か回復魔術師を連れてこい!」


 へへっ。成功。

 慌ててやがる。


「落ち着け。騒がずに見ていろって言っただろ」


 俺は畑に落ちている牛頭巨人(ミノタウロス)の眼球を拾うフリをして、素早く地面に押しこんで砂をかけて埋める。


 そして、握りこぶしを顔の前にもっていき、手を開く。

 まぶたを開く。


「め! 眼だ! 牛頭巨人(ミノタウロス)の目を入れた!」


「そんな馬鹿な! サイズが違うのに、どうやって!」


「大丈夫なんですか、それ!」


 くくくっ。

 ウケてる。

 外国人少女がニコニコしながら自分の目を食べたフリをして元に戻すという可愛いGif動画が元ネタだ。


「まあ、今のは目の前で拳をグーにして、眼を食べたような見せただけだ。ちょっとしたお笑いネタだよ」


「すっげえ!」


「もー。驚かせないでくださいよ!」


「あの、ご子息。その行為になんの意味が?」


 ……!


 意味などない!


 現代知識でマウントを取りたかっただけだ!


「もしかして死体の肉片を残さずに片付けろという意味ですか?」


「……! そういうことだ! よく分かったな! さあ、兵士のみんな! 死体を運ぼう!」


 こうして現代知識をかました俺は気分良く、兵士たちと協力して死体を片付けることとなった。


 俺が3体めをモンスターホールに運んだ頃、ちょうど彼らにとっての1体めを運び終えていた兵士たちが森の道でざわついていた。


「どうしたんですか?」


「大変です。ご子息! こ、この先にある、りょ、りょりょ、領主様の屋敷が廃墟になっています!」


「あー。そっか。このあたりからなら見えるはずの尖塔が見えないし、気づくか。牛頭巨人(ミノタウロス)に襲撃されたんだよ。使用人は逃げたはずだが、家の者は……」


「な、なんと……。それは……」


 死人にムチを打つつもりもないし、アゲておくか。


「父は俺のことを虐待し、奴隷商とつながりがあったと噂されているろくでもない親だったが……。きっと、領民を護るために俺の弟と協力して、屋敷の中に牛頭巨人(ミノタウロス)を招き入れて閉じ込めたんだ……」


「なんと。あのくそ領主が……」


「くそボンボンが俺たちを護ってくれた?」


「侍女のスカートをめくってばかりのクソガキって噂の?」


「旧市街の商館に通って変態プレイしているあのカス領主が?」


「フォローして損した! クソ親父も弟も普通に評判悪いな!」


「しかし、アーサー様が無事で良かったですよ」


「ああ。スライムに負けて以来、引きこもってばかりという噂だったが、そんなことなかったな」


「そうだな。アーサーさんだけは、笑い飛ばせるような噂しか聞こえてなかったよな?」


「俺の評判も悪かった!」


 俺自身が駄目なやつだったのか、父か弟がデマを流したのか……!


「で、城壁の工事はどうするんですか、新領主様」


「……は? 新領主?」


「え? 領主が死んだんだから、アーサー様が新領主になるのでは?」


「え? そうなの?」


「あ、いえ。俺は庶民だからそういうのを知りませんが、ここは代々ザマーサレルクーズ家の人が領主をしていたそうですし、そういうもんなのでは?」


「あ、いや、でも俺、この屋敷が破壊される直前に追放されてるからなあ……。相続する権利はないと思う」


「え。じゃあ、ニュールンベージュはどうなるんです? エキサーヌ領の他の村々は?」


「そもそも追放ってなんだ? 相続権も失うのか? 貴族の世襲制度はどうなってんだ?」


「俺たち、城壁修理のためってことで税金が増えてるんですけど、どうなるんです? 工事は続行されるんですか?」


「城壁もだけど屋敷はどうするんだろう。廃墟のまま放置?」


「廃墟のままはまずいだろ? 戦争になって街が包囲されそうなときは、こっちの城塞に遊撃部隊を配備して戦う手はずだろ? 街の外に拠点は必要だよ」


 兵士たちがわちゃわちゃと話し始めた。

 そして、区切りがついたところでみんな俺に顔を向けてくる。


「さあ……。そういうの詳しそうな知りあいがいるから聞いてみるよ」


 シャルロットが、そういうの詳しいよな?


 俺、明日からシャルロットと一緒に世直しの旅に出発するつもりだったんだよな。悪人をボコって「このお方を誰と心得る! 恐れおおくも先の王国騎士団ロワイヤル・シュバリエ第一団長シャルロット・リュミエール様なるぞ!」って感じの決め台詞を言う役をしたかったんだけど……。


 もしかして旅立ったらまずい立場?


 明日以降の不透明さによりもんもんとしつつ、俺は兵士たちと一緒に牛頭巨人(ミノタウロス)の死体を処分した。

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