14話。レベル1固定したサフィにレベリングさせる
敵を無力化し終えたので、俺はサフィを連れてきた。
四肢を失った牛頭巨人を見せたくないので、サフィにはまぶたを閉じてもらっている。さらに、シャルロットからスカーフを借りて顔にまいて目元を隠した。
「ここ、爪でグサッてやってみて」
「みゃ! 分かったみゃ! 爪でグミャッてやるみゃ!」
猫のように、サフィの指先から爪がミュッと伸びる。
グミャッ!
「凄い! 効果音がグミャッだった!」
「みゃ~。えへへみゃぁ……」
「ステータスウインドウ、見せてもらってもいい?」
「みゃ。ステータスミョープン!」
名前:サフィ
職業:アーサーの奴隷
年齢:10
レベル:1
HP:5
MP:0
攻撃力:2
防御力:1
すばやさ:7
スキル:なし
累積経験値:1 / 次のレベルまで:2
「音声コマンドなのに、ミョープンで開くんだ……。うーん。経験値が増えてない。倒せてないなあ」
「さすがに、サフィには難しいだろう。瀕死とはいえ、A級モンスターだ。訓練を積んだ兵士でも、とどめを刺すのは難しいと思うぞ」
「だよなあ。かといって牛頭巨人のレベルを1にしちゃうと、得られる経験値が減る。なんとか、この、《《つよくてひんし》》にとどめをさしてもらわないと」
「サフィ。私の剣を貸そう。これを握って……。大丈夫。怖くない。そうだ。そのまま、ゆっくり前に出して。……駄目か。皮膚を貫けないか」
「みゃぁ……。ごめんなさいみゃ」
「謝ることはない。私の剣は押す力で斬るものではなく、撫でるようにして斬るための薄くて軽い物だからな。扱うのが難しいんだ」
「サフィの力ではどうやってもトドメはさせそうにないな。剣術素人のサフィの攻撃力を上げるには、シャルロットの細い剣より、もっと重い鈍器がいいよな。そんなもの……。あっ!」
俺は周囲に適当に視線をぶらつかせていたら、畑に落ちている斧の残骸に気づいた。
「牛頭巨人の斧を使おう。シャルロットが破壊しまくっていたけど、原形をとどめていそうなやつ」
「いや、無理だ。サフィには持てないだろう。私にだって無理だ」
「俺が持つんだよ。それでサフィにも一緒に支えてもらって、振り下ろした瞬間に俺が手を離す。そうしたら、サフィの攻撃という扱いにならないか?」
「なるほど。いいアイデアだ。よく気づいたな。最後の方は数が減って余裕ができていたから、武器破壊せずに倒したはずだ。無事な斧があるだろう」
「……あった! あっちに落ちている。あれを使おう」
ということで、斧の無事だったやつを、先ず俺が持って頭上に振りかぶる。
さすが俺。レベル72の腕力だから、自分より大きい斧を軽々と持てたぞ。
「サフィ。一緒に斧を持つぞ」
「みゃ!」
「先ず、お尻を俺の股間に押しつけるような位置に立ってくれ」
「言い方!」
「……? なんか変だったか? サフィ。猫耳を俺がくんかくんかできる位置に来てくれ」
「なんか気になるが、それならまあいいだろう」
「みゃあ」
「よし。ばんざーいして。あ。ばんざーい、分からないか。両手を上にあげて、閉じて、それ。どう。握った感じ」
「硬くて太いみゃ……」
「う。その硬くて太いのをこれから振るから、しっかり握って。うん。そう。上手だよ。もっとしっかり握って。もうちょっと上」
「言い方!」
シャルロット。さっきから変なことばかり気にしているな……。
俺の発言の何が駄目なんだ?
「じゃあ、合図したら一緒に振り下ろすよ?」
「分かったみゃ」
なんかケーキ入刀みたいだが、いいだろう。
「いくよ。せー……のっ!」
と俺は語尾を張る。
「みゃっ!」
サフィが斧を振り下ろそうとし、二の腕がびくっと震えた。
「――って言ったら、振り下ろすんだからね?」
「……みゃ? 失敗したみゃ」
可愛い~。
俺が悪戯したことに気づいていない。
「じゃ、今度こそ、本番。せーの!」
「みゃっ!」
俺は斧を振り、命中寸前で手を放す。
ドシュッ!
ドズンッ!
斧の刃が首をはね、地面に突き刺さる。
血が飛び散ってくるが、シャルロットの下弦の月がサフィの前に飛んできて、血しぶきを防いだ。不可視のバリアみたいなのが出ているっぽい。
「やったみゃ?」
そのセリフは、漫画ならやってないパターンだが、やったぞ!
さすがに首が胴体とお別れしたらA級モンスターも即死だろう。
「よし。ステータスウインドウを出して」
「みゃっ。ステータスウインドウミョープンみゃっ!」
名前:サフィ
職業:アーサーの奴隷
年齢:10
レベル:1
HP:5
MP:0
攻撃力:2
防御力:1
すばやさ:7
スキル:なし
累積経験値:53461 / 次のレベルまで:2
「おっ。成功だ。ちゃんと経験値が入っているっぽい。思ったとおり、レベル1のままだ。これなら、経験値をたくさん稼げる!
俺のスキルがなかったら、これでレベルがかなり上がっていただろう。
仮に20くらいまで上がったとすると、次に得られる経験値が5000とか4000とかに激減するはずだ。
牛頭巨人を倒せば倒すほど貰える経験値は減っていき、最終的には微々たるものになる。だが、サフィがレベル1のままなら、貰える経験値も多い。
この仕様って、敵の弱体化以上にチートかもしれないな。
「他の9体もやろう」
「みゃっ」
こうして俺たちは全10体の牛頭巨人をサフィに仕留めさせた。
ちょっとだけ浅はかだったかもしれねえ……。
というのも、王国騎士団の上位層と互角くらいの強さの牛頭巨人をレベル1の状態で倒したときの経験値を、ちょっと低く見積もりすぎていた。
そして、それを10体分……。
累積経験値534610っていってもよく分かんないしまあいいや、というノリでサフィのレベル1固定を解除した。
ちなみにレベル72の俺の経験値が252893だから、サフィは倍の経験値を得た。
名前:サフィ ★
職業:アーサーの奴隷
年齢:10
レベル:78
HP:335
MP:78
攻撃力:245
防御力:143
すばやさ:451
スキル:なし
累積経験値:534610 / 次のレベルまで:293339
俺はサフィの後ろに立ち、頭の上から彼女のステータスを覗きこむ。
「お。おお……。凄いのか、普通なのか、分からん。経験値のわりにレベルはそれほど上がってない。やはり、レベルが上がるごとに必要経験値が爆増するシステムか」
「みゃあ」
「シャルロット。これはどうなんだ?」
「ステータスはそう簡単に人に見せてはいけないと言っているだろう」
「あー。サフィはシャルロットに見られるの、嫌か?」
「嫌じゃないみゃ。ミャルロットは……。大事な仲間みゃ」
……!
今朝まで奥様って呼んでいたのに、ミャルロットになっている!
俺はシャルロットを見る。彼女はちょっと嬉しそうに口元を緩めていた。
「ほら。いいってさ」
「そ、そうだな。本人がいいと言うのなら構わないか……。だが、私やアーサー以外の他人には見せるなよ。ふむ……。これは凄いな。王国騎士団なら副団長クラスだ。信頼にこたえよう。ステータスオープン」
名前:シャルロット・リュミエール
職業:遍歴の騎士
年齢:17
レベル:44
HP:235
MP:184
攻撃力:354
蒼風の剣:+460
防御力:255
すばやさ:651
負傷:-500
スキル:公転するふたつの綺羅星 / 攻撃用の衛星上弦の月と防御用の衛星下弦の月を召喚する
累積経験値:3015 / 次のレベルまで:140
「ほら。見比べるんだ。私はすばやさに補正が入って151になるから、これは無視してくれ。他の数値は王国騎士団でも上位数名に入る値だ」
「そうなんだ。俺のも比べてみるか。ステータスミョープン! ……ステータスミョープン! 出ない! サフィを真似したのに出ない!」
「当たり前だろ……。ちゃんと言うんだ」
「何がどう当たり前なんだ……。しょうがない。ステータスオープン!」
名前:アーサー
職業:無職
年齢:15
レベル:72
HP:22000
MP:1500
攻撃力:2400
防御力:1800
すばやさ:980
スキル:レベル1固定 / 対象のレベルを1に固定する
累積経験値:252893 / 次のレベルまで:62834
「お。でた。よし。ウインドウをコピー。ふたりに配布」
「待て! なんで3つになるんだ! なんでそんなことができる!」
「なんでって言われても……。知らん」
「相変わらず規格外の数値だな。何もかもが公文書館の歴史文献でしか見たことのない、おとぎ話の数値だぞ……。300年前にこの地を支配した殺戮魔王の生まれ変わりと言われたら、信じてしまうぞ」
「なにいっ。俺に匹敵する存在が歴史上にはいただだと……!」
「そこを悔しがるのか。スケールの大きい男だな」
「冗談だよ。別に俺は驕ってない。ところで、俺よりレベルが上なのに、サフィはやけに数値が低いぞ?」
「ああ。それは進化してないからだ。ほら、名前の横に星が出現して、点滅しているだろ? サフィ。名前のところを触ってみるんだ」
「みゃ?」
サフィが指示に従うと、ウインドウの表示が変わった。
それを見た瞬間、俺は心の中でうめく。
うっ……!
空白のズレや、改行位置のズレが怖い!
大丈夫なのかこれ。
◇ 進化ツリー ◇
幼猫獣人─猫獣人┬猫又1尾┬猫又2尾┬猫又3尾
│ │ │
│ └猫槍使い└猫弓使い
│
├猫戦士─猫騎士─聖猫騎士
│
├黒猫魔法使い─黒猫大魔法使い
│
└白猫魔法使い─白猫大魔法使い
もっと右に続くんだけど、俺は怖くて目をそらした。
「あれ? 俺は進化ツリーなんてないのに、なんでサフィにはあるんだ?」
「お前の父親と取引していた奴隷商が、かなり有能だったらしい」
「というと?」
「アーサーとサフィの間に結ばれた主従契約は、古い契約内容そのままで、主がお前に更新されている。その契約で、隷属している獣人の進化形態を主が決められるようになっている。私が今まで調べてきた内容や、お前から聞いた話から判断すると、おそらく奴隷商の元締めをしていた、お前の父親が『高度な契約スキルを他人に付与する』スキルを持っていたのだろう」
「なるほど。能力を分けあたえる能力か」
まるで吸血鬼の血の支配みたいな、胸くそ悪い能力だ。
俺がチート級のスキルを授かったし、弟は馬鹿だったが『レベル上限解放』は、この世界のシステムをぶっ壊すんだからチート級だ。ザマーサレルクーズ家はスキルが強い家系なのだろうか。
俺のレベル1固定と、弟の『レベル上限解放』を組みあわせて、父親のスキルで契約した奴隷を強化してたら、レベル100超えのとんでもない化け物軍団を作れていたのだろうか……。