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転生村  作者: もつ煮トリガー
転生者狩り
10/12

鎮火

「ぐっ…ああ!」


 【貫く矢】は、敵の右上腕を貫いていた。情報源として利用するため、暗殺者であった過去と決別するため、殺傷はしたくない。その思いから肩関節の破壊を狙ったが、心臓と頭から離す意識によって狙いを僅かに外してしまったようだった。しかし、魔法を放つために構えていた右手が恐らく利き手。さらにシュウは窓から飛び出した勢いのまま、向かいの家の屋根の上に着地し高所を取れている。戦況は圧倒的に有利だ。


 瞬時にそう判断したシュウは、高所からの落下の勢いを利用し跳びかかる。相手も素人ではないようで、出血への応急手当を既に済ませ、応戦の姿勢を取るが一手遅い。緩い防御をすり抜け、シュウの右の拳がわき腹に突き刺さる。敵は小さく揺らぐが、まだK.O.(ノックアウト)には足らない。すかさず追撃を狙うが、次の拳は敵の左手に収まった。そして同時に魔力が高速で整列したかと思うと、その掌が激しく熱を帯び、光を発した。シュウの脳裏に指と皮膚を失い血に塗れた手のビジョンが過った刹那、シュウは体内の魔力を左手へと移し、高密度で纏い、掌を押しのけて隙間を作り、流れるように拘束を抜け、勢いのまま蹴りを入れつつ反動で距離をとった。シュウが構えなおして一息を吐こうとしたとき、敵の掌に握られた光が矢のような形を取っているのが目に入った。熱はブラフだった。


【光の矢】


 それは掌から6つに分かれてシュウを狙った。攻撃の基本原理は【貫く矢】と同様だが、発光する性質を加える分威力はある程度劣る。それでも、視認性の向上により複雑な軌道調整が可能となった【光の矢】は、暗闇に慣れたシュウの目を眩ましながら正確無比に飛来した。はっきりと見える上に速度も速くはなく、回避は可能。敵の練度によっては背後から【光の矢】で狙われ挟み撃ちになるリスクがある。最適解は相殺。しかし術札(アミュレット)の発動は間に合わない。


 カチ


 小さな音と共にナイフが取り出された。長年の使用により魔導性が高まった刃は流れる魔力を固く纏い、1本目の【光の矢】を正面から砕いた。光源としての性質を強めているため威力自体はかなり弱まっており、破壊に危なげはない。ほとんど直進軌道の2本目もそのまま破壊する。3本目と4本目は左右に展開しているが、タイミングが僅かにずれており順番に破壊可能。残りを対処するため敵の方へ向き直ると、【光の矢】が目前にまで迫っていた。しかし、シュウはそのまま目を瞑った。その直後、加速に魔力を消耗し威力を失った2本の【光の矢】は額の薄い魔力層に阻まれ霧散した。そして、自身の瞼が上がるだけの短い時間よりも速く、シュウは強烈に地面を踏みこみ敵の喉元へその刃を押し当てた。


「止まれ。お前の負けだ。」


 それは殺すことしか知らなかったシュウにとって精一杯の救命だった。しかし、敵はまた魔法を発動しようとし、シュウによって阻まれた。先ほどは想像よりも早い魔法構築に不意を突かれたが、少し意識していれば魔力を乱して簡単に防げる。この一手は戦いの完全なる決着を、まだそれに気づいていない相手に知らしめた。敵が体表に纏っていた魔力を体内に収め、両手を高く掲げた。それを見たシュウも魔力を収め、ナイフをしまう。その直後、扉が開く音がした。そちらをふと見ると、敵の放った火がかなり広がっており、2階はほとんど火の手に包まれていた。そして扉の前にはあの名も知らぬ女性が、額に汗を浮かべながら息を荒げて立っていた。


「あの、火消しは、呼びました…指示をお願いします。」


「ではこの人の拘束を。」


 女性の様子とは対照的に、シュウは静かに淡々とそう言った。そして同時に、自分の中にある不確かな空白の一端を見た。


 しばらくして、到着した消防団の活躍で火は消し止められた。シュウはその様子を見るのは初めてで、ホースで水を放水し、それを魔法で多様に拡散・収束させる様は見ていて飽きなかった。出火元について聴取もされたが、自分が魔法による料理を試そうとして失敗したと説明した。消防団が離れていくのを見届けた後、焼け残った1階で適当に座って待っていると、女性が帰ってきた。先ほどの敵をどこかで拘束してきたのだろう。先ほど焦りが見えた女性の顔も、既に元の落ち着いた表情へ戻っていた。


「2階の寝室は焼失してしまったので、私の寝室を使ってください。」


「あなたは?」


「私は夜間待機用のベッドで寝ます。あなたが予備の寝袋で寝てください。」


 こうして、シュウは残り半分も残されていない夜を粗末な寝袋に包まれて過ごすことになった。

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