第3話 暴走の正体と近づく影
「どういうことだ……」
音羽の話を聞いた瑛士が固まっていると、追い打ちをかけるようにルリも口を開く。
「わらわもおかしいと感じたのじゃ。ピンチになると厄介な敵だとは聞いておったのじゃが、あんな切り札を隠し持っておるとは……」
「は? 切り札だと? 鉄牙狼は子分のような狼たちを召喚する以外に、切り札があるなんて話聞いたことないぞ?」
「そんなはずはないのじゃ。相打ち上等の魔法による砲撃を、わらわに打ち込もうとしておったぞ」
「な、何だと……」
驚きを隠せず言葉を失う瑛士に対し、黙って聞いていた音羽が静かに口を開く。
「おかしなことが続いているわよね」
切り込むように鋭く呟いた彼女の言葉を待つように、場の空気が一気に張り詰める。
「二階層のホーンラビットも、鉄牙狼の暴走もありえないことばかり……明らかに私たちを狙い撃ちしているとしか考えられないわ」
「そうじゃのう。こんな低階層で凶暴化したモンスターが頻発しては、どれだけ犠牲者が出るかわからないからのう」
「そうね。二階層で見つけた基盤の件もあるし、何か裏で動いているのは間違いないわ」
「そうだな。ただ、納得できないんだよな……」
二人の話を聞いていた瑛士が腕を組み、怪訝な顔をしながらつぶやく。その言葉を聞き逃さなかったルリが話しかける。
「ご主人は何が納得できないんじゃ?」
不思議そうに聞く彼女に瑛士はわずかに目を細め、空間に散らばる断片を繋ぎ合わせるように思考を巡らせる。それぞれの戦闘データ、敵の行動パターン、異常な魔力――すべてが一つの線に繋がり始める。
「あくまでも俺の立てた仮説だがな。低階層で強力なモンスターではないとはいえ、エリアボスと呼ばれる鉄牙狼だぞ? 仮に何かを仕掛けようとしても、素人では返り討ちにあうのが関の山だぞ」
的を射た瑛士の指摘に、大きく頷く二人。最初のエリアボスである鉄牙狼は、チュートリアル的な役目も兼ねていると言われている。ピンチになると手下のモンスターを召喚するという厄介なスキルを持っているが、正攻法で戦っても勝てない相手ではない。さらに警戒心が強いため、よほどの熟練者でない限り、不意打ちを仕掛けるのは不可能に近い。
「どう考えても、裏で動いている人間によほどの熟練者がいるか、なにか別の手段を使ったとしか考えられない。こんな指示が出せるやつは一人しかいない」
「私も同感だわ。飯島女史が裏で手を引いているとしか思えない」
瑛士と音羽が険しい表情になり始めた時、ため息を吐いたルリが自信たっぷりに話しかけてきた。
「二人とも何をそんなに悩んでおるのじゃ? ヤツらが何を仕掛けてこようとも、すべて蹴散らしてしまえば問題ないじゃろうが」
「お前はことの重大さがわかってないな……」
「わらわを見くびるのではない! ご苦労なことだと思わんか? わらわの配信が映えるように、わざわざ難敵を生み出してくれておるんじゃぞ! この挑戦を受けて立ってこそ、カリスマ配信者というものじゃ!」
ドヤ顔で話すルリを見て、音羽と瑛士が顔を見合わせると、思いっきり吹き出す。
「ぶっははは! ルリちゃんポジティブすぎよ! たしかに配信映えするのは間違いないわ」
「まったくお前というやつは。たしかにどんな卑怯な手を使ってこようとも、全部蹴散らしていけば問題ない」
「ようやく気がついたのか。わらわに挑戦状を叩きつけるなど一世紀早いのじゃ! 下僕どももそう思うじゃろ?」
わざとらしくルリが大きな声で話しかけると、二人のスマホが通知音を鳴らしはじめる。
《チャットコメント》
『さすがルリ様! 格の違いを見せつけていらっしゃる』
『ルリ様のすごさを全世界に見せつけるために、わざわざ仕掛けるとは……』
『裏で蠢く秘密結社とか……展開が熱すぎる!』
『でもさ、もし本当に裏で誰かが操作してるなら、ちょっとヤバくね?』
『何をいっている? ルリ様がすべて蹴散らすに決まっている!』
『世界の闇に立ち向かうルリ様がかっこよすぎる!』
次々と流れる称賛コメントを見た二人が、感心した様子でルリに話しかける。
「ほんとルリちゃんの視聴者って教育されてるわね」
「ああ、誰一人として突っ込まないしな。あながちカリスマ配信者というのも間違いじゃない」
「ははは! わらわをもっと称えても良いのじゃぞ?」
ルリの高笑いがフロアに響き渡ると、瑛士と音羽も釣られて笑いはじめる。
「完璧にルリちゃんの独壇場だわ。なんか真剣に悩んでいたことがバカバカしくなってきちゃった」
「ほんとにな。邪魔するのであれば全部蹴散らしていけばいいって、どんな脳筋だよとは思うが」
「む? ご主人がわらわをバカにしておるように聞こえたのじゃが?」
「そうか? 褒め言葉として使っていたんだがな。後先考えてないから楽しそうだなと思っただけだ」
「やっぱりバカにしておるのじゃ! まあ、ご主人程度じゃ、わらわの崇高な考えを理解できなくても仕方ないのじゃ」
「あ? 誰が理解できないだと?」
「なんじゃ? 言ってもわからないのであれば、わからせてやる必要があるようじゃな?」
ルリと瑛士が火花を散らして睨み合っていると、コメント欄はどんどん盛り上がりはじめる。この時、何者かが草むらの中で動く音が響くが、スマホの通知音にかき消されてしまう。
《チャットコメント》
『エリアボス戦よりも見応えある戦いが始まるぞwww』
『頂上決戦だ! おまいら録画の準備はできているよな?』
『我らのルリ様に歯向かうとはなんと不届き者! 返り討ちになるがよい!』
『勝てるとは思わんが、ご主人頑張れwww』
『ご主人が負ける方に全ツッパだwww』
「ほんとルリちゃんのリスナーのノリが良すぎるわ。瑛士くんには申し訳ないけど、私もルリちゃんに一票かな?」
スマホを見ながら音羽がつぶやいた時だった、すぐ近くまで何かが迫っている気配に気がついたのは……
(しまった……こんなに近くまで迫っているのに気がつかないなんて)
焦った音羽が柄に手をかけるより一瞬早く、草むらから勢いよく何かが飛び出してきた。
気配を消して彼女たちに近づいてきた正体とはいったい——?
最後に――【神崎からのお願い】
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