第10話 エリアボス戦決着!
怒りと殺気をみなぎらせて飛び掛かろうと構える鉄牙狼に対し、見向きもしない音羽。まるで相手にならないといったように大きなため息を吐くと、わざと聞こえるような大声で話し始める。
「ほんと馬鹿の一つ覚えのような攻撃しかしてこないところを見ると、やっぱり獣なのよね」
「グルルルル」
「あら? 私の言葉を理解できるくらいの脳みそはあったなんて……びっくりだわ」
「グゥゥオオオオォォォォォォンッ!!!」
「ふふふ……弱い犬ほどよく吠えるっていうからね」
音羽が言葉を発するたびに鉄牙狼は怒りのボルテージがどんどん上がっていく。その様子をまるで楽しんでいるかのように煽っていた音羽が、姿の見えないルリに声をかける。
「さて……準備運動にもならない雑魚にはご退場いただきましょうか。ルリちゃん、準備はいいかしら?」
「もちろんなのじゃ! いつでも大丈夫じゃぞ!」
ルリの言葉を聞いた音羽が不敵に笑うと、全身が揺らぎ始める。
「決着の時が来たわ……次に会うときは、もう少し頭を使って手応えのある戦い方をしてほしいわね」
目の前にいた獲物が消え始めたことに焦った鉄牙狼が地面を蹴り、勢いをつけたまま前脚を振り下ろす。威力はすさまじく、彼女がいた地面と岩肌にはしっかりと爪痕が刻まれている。まともに攻撃を受けてしまえば、いくら音羽と言えどもただでは済まないはずだった。
「オオォォ?」
鉄牙狼が情けない鳴き声を上げながら、困惑した様子で周囲を見渡し始めると、空間内に声が響く。
「仕留めたはずの獲物がいなくなって困惑しているのかしら? 普通の人間ならひとたまりもなかったでしょうが……相手が悪かったわね」
「グゥゥオオオオォォォン!」
姿の見えない音羽の声に怒り狂い、前足を振り回して周囲の岩や地面に当たり散らす鉄牙狼。どれだけ暴れても姿どころか手ごたえも無く、怒りはさらに加速して暴れまわる。
「やっぱり獣は獣だったわね。こんなのがエリアボスだなんて拍子抜けするわ……さて、お別れの時間が来たようね」
声が途切れると、暴れ狂う鉄牙狼の背後に日本刀を構えた音羽が現れる。
「それじゃあサヨナラね。次はもう少し頭を使うモンスターとして生まれ変わりなさいよ! 颶風一刀」
音羽が下から切り上げるように刀を動かすと突風が巻き起こり、空中にモンスターが打ち上げられる。
「ルリちゃん、止めは任せたわ!」
「任されたのじゃ! わらわの新必殺技を喰らうがよい! 我が咆哮は雷鳴、我が牙は災厄。百の哭声を束ね、貴様らを冥府へ導かん雷鳴葬」
いつの間にか岩の上に姿を現したルリの左手には、見覚えのある古書が開かれていた。彼女が詠唱を唱えると、空中に真っ黒な電流を纏った雲が現れる。そして、槍を持った右手を頭上に掲げて一気に振り下ろすと、打ち上げられた鉄牙狼に向かって稲妻が襲いかかる。
「ギャオオォォォン!!」
雷の直撃を受けたモンスターが絶叫を上げてのたうち回りながら、地面に落下していく。
「閉じろ」
ルリが短く言葉を発すると、左手にあった古書がひとりでに閉じて霧散する。そのまま両手で槍を構えると、攻撃を受けて暴れているモンスターに飛び掛かる。
「渾身の一撃を喰らうがよい!」
地面で暴れ狂う鉄牙狼をめがけて槍を突き出した時だった。突然口が開き、中心に向かって光が集まり球状の塊が現れる。
「なんじゃ? この期に及んで悪あがきなど見苦しいぞ」
「ルリちゃん、すぐ避けて! その攻撃はマズいわ!」
「え? も、もう無理なのじゃ!」
音羽の叫びを聞いたルリが一瞬驚いた表情になるが、加速していく体を止めることはできない。そのまま光が集約する中心に突っ込む寸前、一筋の光が鉄牙狼の首筋に走る。すると収束されていた光が急に輝きを失い始める。そのまま開いた口めがけて槍ごとルリが突っ込むと、周囲に土煙が舞いあがる。配信でその様子を見ていた視聴者のコメント欄が悲鳴のような書き込みで溢れかえる。
《チャットコメント》
『ちょっと、この状況マズくないか?』
『鉄牙狼ってあんな攻撃をしてくるようなボスだったっけ? 最後のやつ初めて見たんだけど……』
『ルリ様が突っ込まれてしまったぞ……無事なのは間違いないが、お怪我とかしてないか?』
『これ最悪の事態もあり得るんじゃね?』
『変なこと言うなよ……ルリ様に限ってそんなこと……』
『ミルキーさんが一緒なんだぞ?』
『笑顔でルリ様が映る姿を見るまで信じないぞ!』
次々と流れるコメントを見て、スマホを握る左手が震える音羽。
(最悪の事態は避けられたはず……最後の一撃で確実に仕留めたはずだし、まさか雷鳴葬を使ってくるなんて……いや、それよりもルリちゃんを助けに行かなきゃ)
音羽は顔を左右に振ると大きく深呼吸をする。スマホをポケットにしまうと、ルリが落下した地点に向かって祈るような気持ちで走り出す。数メートル進んだところで前方に何かの気配を感じ、足を止める。
(何この気配……まさか、モンスター?)
近づいてくる気配に警戒し、右手に持っていた日本刀を構えて襲撃に備える音羽。すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「そこにいるのは音……いや、ミルキー先輩?」
「ルリちゃん? ルリちゃんなの?」
音羽が構えた日本刀を下ろすと、煙の中から笑顔でピースサインをするルリが現れる。
「ははは! しっかりエリアボスを仕留めて……うわ! どうしたのじゃ?」
「ルリちゃん、ルリちゃん、ルリちゃん……無事でよかった!」
ルリの姿が現れた瞬間、光の速さで抱き着いて声を上げて泣き出す音羽。
「ど、どうしたんじゃ? 落ち着くのじゃ」
「本当に無事でよかったよ……」
いきなり抱き着かれて訳も分からず困惑した表情を浮かべて狼狽えるルリに対し、子供のように泣きじゃくる音羽。二人が落ち着きを取り戻すまで、しばらく時間を要するのであった。
この時、二人の様子を一台のドローンが少し離れた位置からずっと撮影していたのだが……彼女たちがそのことに気が付くことはなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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