第9話 VS鉄牙狼(ラグナ=フェンリル)
一斉に瑛士に襲いかかろうとする狼たちとすれ違いながら、ルリと音羽は鉄牙狼へ向かって駆けていく。
「音……いや、ミルキー先輩。ご主人は大丈夫かのう?」
「瑛士くんなら大丈夫だと思うわ。数は多いけど、体力と攻撃力はたいしたことないから」
「そうなのか。じゃあ、わらわたちはボスのみに集中すればよいのじゃな!」
笑顔で答えるルリを見ながら、仮面の下で苦笑いを浮かべる音羽。
(あそこまで凶暴化するのは予想外だったけど……瑛士くんが負けるとは考えにくいし、あのまま無双されたらルリちゃんが活躍できなくて困るのよね)
「ルリちゃん、私が囮になるから頼んだわよ」
「任せるのじゃ! 懐にさえ潜り込めれば、こっちのものじゃ!」
声をかけられたルリが笑顔で答える様子を見て、音羽が小さく首を横に振る。すると背後から、叫び声に似た悲鳴が響く。
「わー! お前ら一斉に来るんじゃねーよ!」
「ん? いまご主人の叫び声が聞こえたような気がするのじゃが……」
「ルリちゃん、よそ見していると危ないわ! 今はボスに集中して!」
後ろを振り返ろうとしたルリを、慌てて音羽が静止したときだった。
「――グゥゥオオオオォォォォォォンッ!!!」
前方から怒りに満ちた雄叫びが響き、岩の上から鉄牙狼が二人めがけて飛び降りてきた。
「来たわ! 私が引き付けるから、作戦通りに進めるわよ!」
「任せるのじゃ!」
ルリと音羽は視線を合わせ、同じタイミングで左右に飛んで別れた直後、地面を揺るがす振動とともに鉄牙狼が二人の立っていた場所に着地する。そして、獲物を探すように顔を左右に動かしていた時、モンスターの左頬に一筋の光が走る。
「ギャオオオン!」
悲鳴のような鳴き声が響き、地面に倒れ込みながらのたうち回るモンスター。
「へえ? でかい図体のわりには痛みに弱いんだね。見かけ倒しでがっかりしたわ」
もがき苦しむモンスターの前に現れたのは、日本刀を持った音羽だった。彼女の姿はまるで古の剣豪を思わせるような雰囲気をまとっており、配信を見ていたリスナーのコメントも大盛り上がりとなる。
《チャットコメント》
『ミルキーさん、かっこよすぎない?』
『いつの間に切りつけてたの? 光しか見えなかった……』
『そういえばさっきの叫び声は一体?』
『ご主人さん、大丈夫かな?』
『なんとかなるんじゃね? それよりもミルキー様の放つオーラよ!』
鳴り止まない通知に気がついてスマホを見ると、音羽は笑みを浮かべた。
「コメントも狙い通り、いい感じね。さあ、私たちの引き立て役になれるんだから、もっと楽しませてちょうだいよ?」
「グゥゥオオオオォォォン!」
バカにしたように話しかけると、音羽を睨みつけながら雄叫びを上げる。次の瞬間、鉄牙狼の足元に魔法陣のような紋章が浮かび上がった。
「さすが獣というべきかしら? 相手の力量もわからず魔法を展開するなんて、本当にバカよね」
浮かび上がる魔法陣を見ながら後ろに一歩飛び退くと、手に持った日本刀を構える音羽。モンスターが立ち上がると全身の毛を逆立て、鉄片のような鱗毛が次々と彼女を取り囲むように出現する。
「オオオオォォォン!」
短い雄たけびが上がると同時に、無数の鱗毛が一斉に音羽へ襲いかかった。
「あらあら……こんな子供だましのような攻撃が効くと思ってるのかしら?」
わざとらしく大きなため息を吐くと、刀がわずかに揺れる。
すると光が彼女を取り囲むように出現し、金属がぶつかり合うような音を立てて鱗毛が次々と地面に落下していく。
その様子を見て信じられないといった表情を浮かべるモンスターだが、諦めることなくさらに鱗毛を飛ばし続けた。
「ほんと、バカの一つ覚えのような攻撃ばかりで……この私を倒せると思ってるのかしら?」
呟くと同時に音羽の姿が歪み始め、取り囲んでいた光も輝きを失いはじめる。その光景をチャンスと感じたのか、爪を振り抜いた鉄牙狼が風の刃を放つと彼女を真っ二つに切り裂いた。
「オオオオォォォン!」
まるで勝利を確信したかのように雄叫びを上げるモンスターの様子に、チャット欄には悲痛なコメントが書き込まれる。
《チャットコメント》
『いくらなんでもこれはやばくないか?』
『真っ二つに切り裂かれてたよね……』
『これって放送事故じゃないの? さすがにこんなグロテスクなの流すのはまずいよ……』
『ミルキーさんがまさか……』
『あれほどの達人が、こんなあっさり?』
視聴者に動揺が走り、コメント欄が荒れはじめたタイミングで聞き覚えのある声が響く。
「もう、みんな早とちりしすぎ。この程度の攻撃で私が死ぬわけないじゃない……遊びの時間はここまでよ」
切り裂かれたはずの音羽の声が響き、コメント欄は再び大盛り上がりを見せる。
《チャットコメント》
『え? ミルキーさん、生きてたの?』
『画面に映ってないけど、どこにいるの?』
『勝利を確信して雄叫びを上げるのは最高に恥ずいwww』
『おお!! ここから反撃開始だ!!』
『わ、私は最初から勝利を確信していましたよ!!』
『嘘つけwwwさっきもう終わりだとか言ってたじゃねーかwww』
音羽は、先ほどまでモンスターが陣取っていた岩の下でスマホを眺めていた。不敵に笑う音羽の姿を見た鉄牙狼は、怒り狂ったような咆哮を上げた。
「ガゥゥオオオオォォォン!」
起死回生の一手を鉄牙狼が繰り出すのか?
いよいよ初エリアボスとの決着は目前に迫っていた――
最後に――【神崎からのお願い】
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