第6話 謎の機械と音羽の企み
自信たっぷりに胸を張るルリの姿を見て、瑛士には不安が押し寄せてきた。
「今回は大丈夫だろうな?」
「何を言っておるのじゃ! 今までのわらわとは違うのじゃ!」
「まあいい。少しでも時間が惜しいから、さっさと話してくれ」
何を言っても無駄だと察した瑛士は、半ば投げやりな様子で言葉をかける。
「最初から素直に聞いておればよかったのじゃ。では、何も考えていないご主人に教えてやろうではないか!」
「へいへい、さっさと話してくれ」
「むう……なんかバカにされている気がするのじゃが?」
「ソンナコトアリマセンヨー」
瑛士が目を逸らしながら答えると、ルリは怒りを露わにした。
「やっぱりバカにしておるではないか! 音羽お姉ちゃん、ちょっとご主人に教育的指導が必要じゃと思うのじゃが、どうしたらよいかのう?」
「うーん、そうね……エリアボス戦で一番キツイ役割をやってもらいましょうか?」
背後から聞こえた声に驚いて、瑛士は慌てて振り返る。そこには腕を組んだ音羽が、いつの間にか立っていた。笑顔を浮かべているように見えるが、目は笑っておらず、全身から怒りのオーラがあふれ出している。
「お、音羽さん……一体どうされたのでしょうか?」
「え? せっかくルリちゃんと一緒に考えた作戦を聞く気がない不届き者に……素晴らしいポジションを用意してあげようと思ったのよ」
「す、素晴らしいポジションですか……」
「そうよ。私とルリちゃんが鉄牙狼を集中攻撃するから、あなたは召喚された子分たちを全部排除してね。あ、ちょっと右手を出してくれる?」
音羽に言われるまま右手を差し出すと、手首に謎の機械を付けられた。
「なんだ、この機械は?」
「すぐにわかるわよ。瑛士くんは次々と召喚されるモンスターを蹴散らしてくれていればいいの」
「なんか猛烈に嫌な予感がするが……雑魚を駆逐してればいいんだな? お前たちのサポートに入らなくても」
「うん、大丈夫だよ……たぶん、そんな暇はないから」
「ん? 何か言ったか?」
何かを小声で呟いたように思えて音羽に聞き返すが、彼女は苦笑いを浮かべるだけで何も答えなかった。
(なんか引っ掛かるな……この機械のことを聞いてもハッキリと言わないし……)
「どうしたんじゃ、ご主人? ……あ! そういうことなのじゃな」
ルリが瑛士の右腕を見て、何かを察したように声を上げる。
「そういうことってどういう事なんだ? 何か知ってるのか?」
「えーっとじゃな……」
「ルリちゃん? お楽しみは最後まで取っておいた方がいいわよ」
「わ、わかったのじゃ。ご主人……エリアボス戦、頑張ろうなのじゃ!」
引きつった笑顔で歯切れの悪い解答をするルリに、不信感を覚える瑛士。これ以上追及しても望む答えが返ってこないと悟り、大きなため息を吐いた。左手で頭を掻きむしりながら、めんどくさそうに声を上げる。
「なんか企んでいるのは確かなようだが……とりあえずエリアボスを倒すのが先決だ! さっさと倒してしまおうぜ!」
「うむ! わらわの大活躍を全世界へさらに見せつける時が来たのじゃ!」
「そうね、鬱陶しいエリアボスを倒して次に進みましょう。早く瑛士くんのお父様に婚約者としてご挨拶を済ませないとね……」
「なんか変な言葉が聞こえたが……親父がどこにいるかの目星すら立っていないのに、どうやって挨拶するんだよ?」
顔を赤らめながら話す音羽に、瑛士は呆れた様子で声をかける。だが彼女はさらにとんでもないことを言い始めた。
「え? そんなの簡単な話じゃない。全部の階層を片っ端から制覇すればいいだけでしょ?」
「は? お前な……全階層って……まだ三十階層までしか攻略が進んでないんだぞ?」
「知ってるわよ。だから、三十階層以降にしかいないってことでしょ?」
あっけらかんという音羽の様子に、顎が外れそうなほど大きな口を開けて固まる瑛士。しかし彼女はお構いなしに続ける。
「三十階層から先がどこまで続いているのかは未知数なんだけど、それはそれで面白そうじゃない?」
「いや、面白いってな……」
「ルリちゃんの探し物もたくさん見つかる可能性もあるわけだし、なによりも未知の階層攻略配信をしたらバズるわよ?」
「さすが音羽お姉ちゃんなのじゃ! 未だ解明されぬ領域に先陣を切って挑んでこそ、カリスマ配信者たるもの……燃えてきたのじゃ!」
音羽の言葉にルリのテンションが爆上がりし、槍を振り回し始める。その様子を止めようとした瑛士に、音羽が声をかけた。
「瑛士くん、なんで私が三十階層より先に行こうって言いだしたかわかる?」
「わかるわけないだろ。未攻略のエリアだぞ? 何が起こるかわからないし……」
「だから都合がいいのよ。飯島女史と決着をつけるのにもってこいでしょ」
「お前……まさか……」
瑛士は言葉を失い呆然とするが、お構いなしに音羽は続ける。
「それに、あいつらが何か企んでいるのは明白だしね。癪に障るからこっちから罠に乗っかってあげようと思うの。まさか自分が仕掛けた罠に引っかかるとは思わないでしょ?」
「……エベレスト並みに高いプライドをへし折ってやるというわけか……」
「そういうこと。こんな低階層のエリアボスごときで足踏みしてる暇はないのよ」
「そうだな……さっさと終わらせないとな」
視線が交わると口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる二人。そして槍を振り回しているルリに声をかける。
「やる気満々なところ申し訳ないが、そろそろ行くぞ。ルリ、ボス討伐タイムも最速が目標だ!」
「おお! ご主人もやる気に満ちておるのじゃな!」
何も知らないルリが笑顔で駆け寄り、三人はエリアボスの待つ五階層へ歩みを進める。
しかし、瑛士はまだ知らなかった……音羽が付けた機械と召喚モンスターの討伐が、地獄の始まりだということを――
最後に――【神崎からのお願い】
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