第4話 光の正体と翠の謎
「このあたりだったかのう?」
草むらに両膝を突いた状態で顔を突っ込んだルリだったが、先ほどのような光は見当たらない。
「おかしいのう……この辺りだったと思ったんじゃが……」
「キュー?」
草むらをかき分けるように目的の物を探していると、正面の草むらからルナが顔を覗かせる。
「ルナ、こんなところで何をしておるんじゃ?」
「キュ、キュー」
「ふむふむ、あまりにも暇だったから翠と散歩していたと言っておるんじゃな」
「キュー」
「そうかそうか、楽しかったのじゃな。ところで翠の姿がどこにも見当たらんのじゃが?」
ゆっくり立ち上がって辺りを見渡すが、翠の姿はどこにも見当たらない。どこかに隠れているのではないかと思い、名前を呼んでみるが鳴き声も聞こえなかった。
「おかしいのう……あの子なら呼べば答えてくれるんじゃが、どこに行ってしまったんじゃろうか? ルナ、心当たりはないか?」
「キュ、キュー」
問いかけると首を横に振って知らないとアピールするルナ。
「うーん、よわったのう……モンスターはみんな駆逐したはずじゃし、危ない要素は低いとはいえ子猫じゃからのう。何かあってからでは遅いのじゃ……」
ルリが腕を組みながら困った顔をしていると、草むらの奥が微かに揺れたのが見えた。
「ん? なんか奥の方が揺れたような気がしたのじゃが?」
ルリが視線を向けた時だった。奥の方から草をかき分けるようにこちらに向かってきた。もしかしてルナかと足元に視線を送ると、彼女の方を不思議そうに見上げていた。
(あれ? ルナはここにいるということは、どういうことじゃ?)
ルナを見つめながら様々な可能性を考えている間にも、こちらに向かってどんどん近づいてくる。彼女が再び草むらを見上げると、いつの間にか目前にまで迫ってきていた。
「し、しまったのじゃ……ルナ、一旦後ろに引くのじゃ」
足元で不思議そうにしているルナを抱きかかえようとしゃがんだ時だった。草むらの中から何かが飛び出し、彼女の胸をめがけて飛び込んできた。
「わっ!」
驚いた彼女が目をつむってしりもちをついた時、胸の辺りから聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「ニャ、ニャー!」
「え? この鳴き声は……まさか翠なのか?」
恐る恐る目を開けると、満面の笑みを浮かべた翠の顔がドアップで迫っていた。喉を鳴らしながら頬ずりをすると、ルリの顔を舐め始める。
「翠じゃったのか、ビックリしたぞ。ってちょっと待つのじゃ! そんなに舐められたらちょっと痛いのじゃ!」
声をかけて制止しようとするが、お構いなしに舐め続けようとする翠。慌てて両手で体を掴んで持ち上げると、不思議そうに首をかしげて見つめていた。すると体にくっついていたのか、紙きれのようなものがルリの顔へ覆いかぶさるように落ちてくる。
「わっ! な、何が落ちてきたのじゃ?」
ゆっくり翠を地面に下ろすと、顔に覆いかぶさっている物を拾い上げる。そして、その正体を知ったルリの目が大きく見開かれる。
「こ、これはわらわの欠片ではないか! どうしてこんなところに?」
拾い上げたルリの手が小刻みに震えはじめる。なぜなら迷宮内の各所に散らばったと思われる自分の欠片が、瑛士が見つけたものに続いて現れたからだ。彼女自身もそんな簡単に見つかるとは思っていなかったため、想定外の事態にどうしていいのかわからない。紙きれを握りしめたまま、呆然と立ち尽くしていると後ろから声をかけられる。
「ルリちゃん、どうしたの?」
「そんなところで立ち尽くして……あ! なんだお前が持っていたのか!」
先ほどまで言い争っていた二人が並んで近づき、話しかけてきた。どうしたのかわからず声をかける音羽に対し、ルリの持っていた紙きれを見て驚きの声を上げる瑛士。
「ご主人? お前が持っていたのかってどういう事じゃ?」
「そうよ。言っている意味が分からないんだけど?」
ルリと音羽が揃って瑛士に聞き返すと、バツの悪そうな顔で話し始める。先ほど翠と一緒にシャワーを浴びた際、三階層で見つけた紙きれをなくしてしまったのだ。エリアボス戦が迫っていたこともあり、討伐してからゆっくり探して回ろうと考えていた。すると、失くしたはずの紙きれを彼女が持っていたので、ビックリして声を上げたと説明した。
「そうじゃったのか。まったく……こんな大事な物をなくすとは、ご主人の罪は重いのじゃ」
「そう言われてもな……ホントにどこいったのかわからなくて困ってたんだぞ?」
「三階層を出る前はちゃんと持っていたのよね?」
「ああ、たしかに胸ポケットに入れていたんだ。着替えたらなくなっていてな……」
「ふーん。たぶん、落としたのはシャワー室だと思うわ」
話を聞いていた音羽があっさりと失くした場所を特定する。
「なんでそんなことがわかるんだよ?」
「簡単じゃない。着替えたのはシャワー室なんだし、何かの拍子に飛んでいっても不思議じゃないでしょ? ルリちゃん、この紙きれってどこに落ちていたの?」
「翠がくわえてきたみたいでな。どこに落ちていたかはわからんのじゃ」
ルリが首をかしげながら答えると、音羽が確信を持ったように話し始める。
「シャワー室に行ったことがあるのは瑛士くんと翠ちゃんだけ。私たちが気が付かないくらい身軽に動けることを考えたら、忘れ物を取りに行ってくれたとしか思えないわ。ね、翠ちゃん?」
「ニャー」
名前を呼ばれると嬉しそうな鳴き声を上げてすり寄った翠を、優しく抱きかかえる音羽。その様子を見たルリが彼女に近づくと、優しく頭を撫でる。
「翠、よくやったのじゃ。わらわの大切な物を見つけてくれてありがとうなのじゃ」
「ニャー」
再び嬉しそうな声を上げて鳴く翠を見て、ルリの頬も緩む。
(そうなのか? たしかに翠とシャワー室に入ったが、あの紙きれを見せた覚えはないぞ?)
音羽に抱かれている翠を眺めながら、様々な可能性を考える瑛士。
(俺たちに気配すら感じさせずにこの短時間で往復できるのか? いや……普通の猫じゃ絶対無理だし、いったい何者なんだ?)
あまりにも出来過ぎた光景に疑問が次々と沸き上がる。
はたして瑛士が引っ掛かることは杞憂なのか、それとも……
最後に――【神崎からのお願い】
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