第2話 やっぱりお前の仕業か!
怪しげな笑みを浮かべて立ち去ろうとする音羽を呼び止める瑛士。
「音羽……お前がなんでシャワー室の存在を知っているんだ?」
「え? なんででしょうね? 大丈夫、別に瑛士くんがズボンを濡らして駆け込んでいったことなんて見ていないから」
「しっかり見てるじゃねーか! って……お前ら、四階層を攻略していたんじゃないのか?」
まるでその場で見ていたかのような音羽の言葉に、思わず言い返してしまった瑛士。
「ええ、攻略していたわよ。でも私の知識と技術を持ってすれば不可能なんてないのよ!」
「いやおかしいだろ! 分身の術が使えるわけでもないくせに……」
「そうね。私は忍者ではないし、そんな都合の良い術が使えるならもっと早く使ってるわ。留学先に分身をおいて、私はこっちに残ればよかったんだし」
「まあ、そうだよな……じゃなくてちゃんと留学先に行けよ!」
音羽の言葉に瑛士が思わずツッコミを入れる。分身などありえないと頭ではわかっているが、目の前の人物ならやりかねないと思えてしまったのだ。
その様子を見た音羽は、可笑しさに肩を揺らしながら笑う。
「ふふふ、相変わらず瑛士くんは面白いわ。現に一人しかいないのに……もしかして、そんなに私と四六時中一緒にいたい願望でもあったの?」
「そんなこと一言も言っていないだろうが! なんでそうなるんだよ!」
「いいのよ、恥ずかしがらなくても。瑛士くんも一緒にいたいと思ってくれているその気持ちが嬉しいの……相思相愛な二人を引き裂いたうちの両親め……今度会ったらどんな目に合わせてやろうかしら」
「いや、ご両親は悪くないだろ。もとはといえばお前が色々やりすぎたことが原因の一つであってだな……」
「何を言っているのかしら? 好きな人のことを知りたいと思うのは自然なことでしょ?」
「だから加減ってものがあるだろうが! 盗聴器に隠しカメラ、挙句の果てには留学先から俺のパソコンにハッキングして遠隔操作までしようとしていた……ん? ちょっと待てよ……」
音羽が過去にやらかしたことを思い返していたとき、ふとシャワー室の件が脳裏に浮かぶ。
「ハッキングに隠しカメラ、あまりにも都合が良すぎるシャワー室……そういえばお前、迷宮内にドローンを仕掛けてもいたよな?」
「ええ、もちろんいたるところに仕掛けているわよ。だってどんな害虫が彷徨いているかわからないし、それに……あの飯島絡みの連中がどこで何をしてくるかわからないもの」
「なるほどな。そういえば三階層に忘れ物を取りに行ったとか言っていたけど、随分帰ってくるのに時間かかったよな?」
瑛士が三階層に引き返したことを話題に出すと、音羽は頬を膨らませて愚痴をこぼす。
「そうなのよ! 忘れ物自体はすぐ片付いたんだけど、あのフロアって岩盤だらけでしょ? ちょっと動いたら落石とか起こって服に土が付いて最悪だったのよね。事前に案内所のスタッフさんに聞いておいてほんと良かったわ。ただね、事前申請が必要ってのがめんどくさいのよね。まあ、パーティごとで出しておけばメンバーは使い放題だし、他の邪魔が入ることもないって聞いたから。ほんとお役所仕事って困るのよ。あれこれ仕掛けをするこっちの身にもなってほしいわ。今回だって脱衣所に隠しカメラを……」
「ちょっと待て! 脱衣所に隠しカメラって……」
思わず口を滑らせた音羽の言葉を、瑛士は聞き逃さなかった。指摘され、音羽は口に手を当てて視線を逸らし、とぼける。
「え? 何のことを言っているのかわからないわー」
「なぜか視線というか、見られているような気配はしていたんだが……やっぱりお前の仕業だったのか!」
「ひどい……なんで私が仕掛けたと決めつけるの?」
「自分で自白していたじゃねーか!」
「そんな……誰? 私に自白させようと仕向けたのは?」
「誰も仕向けてねーよ! 脱衣所に隠しカメラを仕掛けるとかどういう神経してるんだ? 俺以外の人間が写っていたら普通に盗撮だからな!」
「あ、大丈夫よ。瑛士くん以外の人間には興味ないから」
「そういう問題じゃねーよ!」
「それに瑛士くん以外の人が来た時点で、入口のセンサーが反応して即座に証拠隠滅するプログラムになってるから。あと、データのバックアップはクラウド管理だから万全よ!」
満面の笑みでサムズアップをする音羽に対し、瑛士はがっくりと項垂れる。
「あれ? 瑛士くんどうしたの?」
「いや。もう俺のプライベートは終わったのかと思うとな……」
「何を言ってるの? 最初からあるわけ無いでしょ?」
「お前が言うな!」
瑛士の大絶叫が四階層に響き渡る。するとその声を聞いたルリが駆け寄ってきた。
「ご主人、何を叫んでおるのじゃ?」
「あのな、音羽がまたやらかしたんだよ! 今度は迷宮のシャワー室に隠しカメラを……」
瑛士の話を聞いたルリは小さくため息をつき、呆れた顔で答える。
「ふむ……まあ音羽お姉ちゃんじゃしのう」
「いやそこで納得されてもな……」
「まあ、いつものことじゃろうが。ご主人もわかっておったじゃろ?」
ルリの的を射た言葉に、瑛士は何も言い返せなくなる。すると彼女から思わぬ質問が飛んできた。
「それよりも、なんでご主人はシャワー室を使うような用事があったのじゃ?」
首を傾げるルリを見て、瑛士は取り返しのつかない失敗に気づく。
「あ、えっと……それはだな……」
滝のような冷や汗を流し、言葉に詰まる瑛士。
彼はこの難局を無事にくぐり抜けられるのだろうか。
最後に――【神崎からのお願い】
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