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ラストリモート〜失われし読書魔法(リーディング・マジック)と金髪幼女で挑む迷宮配信〜  作者: 神崎 ライ
幕間⑧

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閑話⑧-3 紀元の過去

「く、狂ってやがる……」


 モニタールームを後にした紀元は独り言をつぶやきながら薄暗い廊下を歩いていた。部下がいなくなっても興味を示そうともせず、迷宮で行方不明になったはずの人物を道具のように使い捨てようとしている。さらに最後に入室してきた不気味な子供たち……飯島の狂気が完全に振り切った瞬間だった。


「以前からおかしいとは思っていたが……まさかここまでとは……」


 壁にもたれ掛かり、大きなため息とともに項垂れる紀元。


「……目を輝かせて世界最先端の研究をしていると豪語していた飯島博士は、どこに行ってしまったんだ……」


 次々と襲いかかる後悔の念に押しつぶされそうになりながら、ポケットに入れたスマホを取り出す。待ち受けが表示されると、画面の中にいたのは笑顔でブイサインをする飯島と紀元の写真だった。


「まだ俺が新入社員の頃だったよな……新技術を学会で発表するために、何日も研究所で泊まり込んで作業していた頃か」


 十数年前、紀元がまだ入社して間もないころだった。世界初の技術を学会で発表するため、飯島を中心とした何名かで研究チームが編成された。この時、新入社員だった彼もなぜか招集され、先輩にしごかれながら作業に当たっていた。当然、新人にできる範囲など限られており、何度もミスを重ねて怒鳴られる日々が続いた。やがてゴミ捨てなどの雑用の仕事以外与えられず、バカにされながらシュレッダーにかけていた時だった。


「ちょっと! 何で()()ばかリ雑用を押し付けているの?」


 室内に怒号が響き、先輩たちの顔色が一斉に青ざめる。入口に現れた黒髪の白衣を着た女性は、一見すると高校生と見間違えそうな容姿と顔立ちだった。怒りのオーラを全身に纏ったまま、室内中央にいたリーダー格の先輩のもとに詰め寄る。


「い、いえ……そんなことは……」

「へえ? アンタたち、まともに仕事を教えていないことくらいわかってるのよ!」

「し、しかし……何をやらせても我々の足を引っ張る事しか……」

「いい? 彼を引き入れたのは()()()なの。アンタたちは自分の利益や研究成果を上げることに必死じゃないの。大方……今回の成果を持って、どこかへ引き抜いてもらおうとでも思ってるんでしょ?」


 女性が言い放った言葉を聞いた先輩の顔色は、青から白色に変化していった。そして、先輩が弁明を試みようと口を開いた時、鋭い眼光と共に非常とも思える宣告が下される。


「あー何も言わなくてもいいわ、聞くだけ時間の無駄だもん。それよりあなたたちに報告があるの」

「ほ、報告ですか?」

「ええ、雑用をしている彼を除いて全員クビよ! 今すぐ荷物をまとめて出ていきなさい!」」


 突然の宣告に阿鼻叫喚が響き渡る室内。何人かの先輩が女性に縋りつくように懇願するが一切聞く耳を持たない。


「うるさいわね! あなたたちの無駄話を聞く時間と私の貴重な研究時間……どちらが有益かもわからないのかしら?」

「そ、それは……」

「わかったらさっさと出ていきなさい。それが嫌なら……わかるわよね?」


 女性が室内を睨みつけながら告げると、我先にと慌てて出ていく先輩たち。そして、数分後には紀元と女性以外の人間はいなくなった。


「やっと邪魔者は消えたわね」

「あ、あの……なんで自分なんかを残したのでしょうか?」

「ん? あなたが一番()()だったからよ。アイツ等は外部機関に情報を漏らす恐れがあったからね」


 淡々と告げる女性の姿を見て呆然と立ち尽くしていると、紀元の目の前までゆっくり歩み寄る。


「そういうわけで邪魔者は全員いなくなったし、これからよろしくね。期待しているわよ」

「は、はい!」

「何か言われたら『飯島博士から許可を頂いてます』とだけ言えばいいから」


 飯島と名乗る女性は言い終えると白衣をなびかせ、部屋を出ていった。


「あ、あの人が飯島博士なのか……」


 あまりのかっこよさに後ろ姿を眺めていると、突然声をかけられる。


「君には期待しているわ。長い付き合いになるとは思うけどちゃんとついてきなさい、紀元くん」

「え、あ、はい! どこまでもついていきます!」


 これが飯島博士との出会いだった。この時解雇された先輩たちが()()()()になったという噂が流れたが、紀元が気にすることはなかった。この時の研究は奇しくも最優秀賞こそ逃すが、世界に認められ国の行う極秘プロジェクトにも参加することになった。


「思えばあの頃から少しずつおかしくなっていたのかもしれない……いや、俺が見て見ぬふりをしていただけなのか? あの時、勇気を出して止めていれば……こんな事態にはならなかったんじゃ……いや、今さらそんなことを考えても遅い……俺は博士の暴走を黙認していた共犯じゃないのか?」


 スマホをポケットにしまうと、首を横に振って廊下を歩き出す紀元。

 力づくでも止めておけば良かったと後悔することになるのだが……彼がそのことに気が付いたのはずっと後の話だった……

最後に――【神崎からのお願い】


『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。

感想やレビューもお待ちしております。

今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!

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