第4話 災難の連鎖は続く?
「さあ、音羽おね……いやミルキー先輩! 配信の準備を始めるのじゃ」
「そうね、私たちの勇姿を全世界に見せつけてあげましょう!」
四階層の入り口に立った二人が配信を始めようとした時、ルナが音羽の肩に飛び乗った。
「キュー、キュキュ」
「え? ルナちゃん、どうしたの?」
顔を音羽の頬にこすりつけるように何かを訴えるルナ。訳も分からず困惑していると、何かに気が付いたルリが声を上げる。
「あ! ミルキー先輩、お面を付け忘れているのじゃ!」
言葉を聞いた音羽が頭に手を伸ばすと、ざらざらしたお面の感触が伝わる。慌てて顔に装着して振り返った瞬間、視界が真っ白に染まり、ルリの姿が見えなくなった。
「え? 何で? 急に視界が真っ白に……?」
何が起こったのかわからず慌てふためく音羽。その様子を黙って見ていたルリが大声で笑い始める。
「あはは! ミルキー先輩、面白すぎるのじゃ!」
「え? ルリちゃん? そこにいるの? どうして真っ白な世界しか見えないの?」
「も、もう落ち着くのじゃ! わらわをこれ以上笑わせないでほしいのじゃ!」
「え? 何が起こっているの? まさか、幻術を見せるモンスターが襲来してきたのね。ルリちゃん、安心して! すぐに終わらせるから……あれ? 私の刀はどこ?」
パニックになった音羽が刀に手を伸ばすが、柄の感触はなく、空を切るだけだった。彼女の様子を見て爆笑していたルリが、笑いをこらえながらネタばらしを始める。
「あはは! も、もう限界なのじゃ……ミルキー先輩、一度落ち着いてほしいのじゃ」
「え? どういうこと? 私はいたって冷静だよ?」
「全然冷静じゃないのじゃ。わらわの言うとおりにしてほしいのじゃ」
「う、うん……わかったわ……」
ルリの指示を聞いた音羽は動くのをやめ、手を下ろして無防備な状態になる。
「わらわが声をかけるまで、何が起こっても動いたらダメなのじゃ」
「う、うん……動いちゃダメなのね?」
「もちろんなのじゃ。そうしたら……ゆっくり目を閉じてほしいのじゃ。いいというまで絶対に開けちゃダメなのじゃよ」
「わかったわ……」
音羽が目を閉じると、すぐ近くで誰かが動く気配がする。お面越しに顔の辺りを触られる感触が伝わり、思わず身をすくめるが、ルリとの約束を思い出して唇をかみしめながら耐えた。ほんの数十秒の出来事なのに、永遠に顔を撫で回されているような錯覚に襲われる。
(いったい何が起こっているのよ……も、もう耐えられない……)
限界に近づいた頃、ルリの声が聞こえてきた。
「よし、これでもう大丈夫じゃな」
「え? 何が大丈夫なの? それよりもルリちゃんは無事なの?」
「わらわは何ともないのじゃ。それよりもう目を開けても大丈夫じゃよ」
「ほ、ホントに?」
恐る恐る目を開けると、目の前には笑顔でブイサインをするルリ。隣には申し訳なさそうに頭を下げているルナがいた。
「え? ルリちゃんが笑っていて、ルナちゃんが落ち込んでいる? ……そんなことよりも大変よ! 幻術を使うモンスターが近くに潜んでいるのよ!」
「あはは! ミルキー先輩、落ち着くのじゃ。モンスターもいないし、今から種明かしするのじゃ」
「え? モンスターがいないってどういうこと? 種明かしって?」
困惑する音羽に、ルリが説明を始める。
「まず、配信を開始しようとした時に、ルナがとても重大なミスに気が付いたのじゃ」
「重大なミス?」
「うむ。ミルキー先輩がお面をずらしたまま、配信を開始しようとしていたという事じゃ。慌ててルナが肩に飛び乗ったところまでは良かったのじゃが……なんとか気が付いてもらおうと必死にお面に体を擦り付けておったら、いつのまにか上下逆さまにしてしまったのじゃ」
「……え?」
「そのことに気が付かず、慌てたミルキー先輩がお面を付けてしまったのじゃ。その姿を見てパニックを起こしたルナが、再び肩に飛び乗ろうとして刀に飛び乗ろうとして足を踏み外したんじゃ……その時に位置が下にずれて、さらに先輩が動き回ったせいで背中の方に移動してしまったのじゃ」
「……そ、そうだったのね……」
「キュ、キュー」
ルナが申し訳なさそうに鳴く。
「そのうち気が付くじゃろと思っていたのじゃが、状況がどんどん悪化していったので、落ち着いてもらうために制止したのじゃ。まあ、ルナも反省しておるし……あまり怒らないでほしいのじゃが」
「もちろんよ。ルナちゃんが教えてくれなかったら顔出し配信しちゃうところだったもん。ありがとうね」
「キュ、キュー」
ルナが頭を下げると、音羽はそっと片膝をつき、優しく撫でた。温かい空気に包まれたその時、ルリが目を逸らしながら話しかけてくる。
「あのー、良い雰囲気のところ申し訳ないのじゃ……わらわも謝らなければいけないことがあるのじゃが……」
「ルリちゃん、どうしたの?」
「実は……あとから気が付いたのじゃが……ミルキー先輩が刀を探して動いていた時、どうやら配信開始のボタンを押してしまったようなのじゃ……それで、先輩が慌てふためく姿がずっと映っておったようで……」
「……え? うそでしょ?」
音羽は慌ててスマホを取り出すと、画面には「配信中」の文字と大量のリスナーコメントが並んでいた。お面のせいで表情は見えないが、肩が小刻みに揺れている。
「な、なんで? えっと、いつから配信開始になってるの?」
ライブ時間を確認すると、お面を逆さまに着けた直後から始まっていた。
「ま、まさか……私が慌てふためく様子が全部配信されていたの!?」
迷宮内に音羽の絶叫が響き渡る。慌てて配信を止めようとした彼女に、さらなる災難が降りかかることになるとは――まだ知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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