第3話 ルリと音羽の作戦会議
「ん? 何か叫び声のようなものが聞こえた気がするのじゃが?」
四階層の入り口に着いたルリが後ろを振り返り、音羽に問いかける。
「そう? 私には何も聞こえなかったけど?」
「気のせいじゃったかのう? ご主人の声のような気がしたんじゃが……」
「空耳だと思うわよ……私が瑛士くんの声を聞き逃すなんてありえないもの」
「ん? 音羽お姉ちゃん、何かいったかのう?」
「あ、ううん、何でもないの」
まさか独り言を聞かれているとは思っていなかった音羽は、わずかに頬を引きつらせる。不思議そうな顔をしているルリの興味をそらすため、別の話題を振った。
「そんなことより、四階層がどんなところか気にならない?」
「おお! 言われてみればどんなフロアか聞いておらんかったのじゃ!」
「そうだと思ったわ。じゃあ、攻略に進む前にわかる範囲で説明するわね」
笑顔で話しながらも、音羽は心の中でそっと胸を撫で下ろした。
(良かった……とりあえずごまかせたみたいね)
「それじゃあ説明するわね。四階層は二階層の草原と三階層の岩場が組み合わさったような形状をしているの。ちょうど真ん中に小川が流れているんだけど……」
「小川じゃと! ルナと一緒に水浴びとかしてみたいのじゃ!」
「キュー!」
小川と聞いた瞬間、ルリとルナのテンションが爆発する。二人はその場で飛び跳ねるように喜び、音羽は慌てて両手を広げて制止した。
「わー、ちょっと待って! 喜んでいるところ悪いんだけど……小川で水浴びはやめた方がいいかなって」
「どうしてなのじゃ? 別に毒が入っているわけじゃないんじゃろ?」
「うん、毒は入ってないんだけどね……ちょっと厄介なモンスターが住み着いてるのよ」
「ほうほう、そうなんじゃな」
困ったような顔で話す音羽に対し、ルリは涼しい顔で答える。
「ええ、アイアンイールという金属質の鱗を持つ魚で、ピンチになると電気を発生するの。そんなに大きくないんだけど捕まえようとすれば電撃を喰らうし、剣で斬ろうとしても刃が弾かれてしまって……」
「なるほどなのじゃ。その魚は数が多いのじゃろうか?」
「うーん、どうかしら? 縄張り意識が強い種類だから、そんなに多くはないと思うわ。お互いの縄張りには立ち入らないとも聞いたし……」
「その言葉を聞いて安心したのじゃ。それなら一匹だけ駆除してやれば、その区画は安全なんじゃろ?」
「は? ええ、まあ、たしかにそうね……」
ルリの返答に音羽は思わず目を丸くし、返答に詰まる。
「ん? 音羽お姉ちゃんどうしたのじゃ?」
「いや、ルリちゃんが言うように一匹だけ駆除できればいいんだけど……」
「そうじゃろ? なら話は早いのじゃ」
「でも……体は刃物が通らないし、下手に攻撃すれば感電するのよ?」
「そうじゃな。でも体は固くとも、口の中はどうじゃろうか?」
返ってきた答えの意図に気づき、音羽は思わず目を見開く。その様子を見たルリは口元を吊り上げ、得意げに言った。
「わらわの武器は槍なのじゃ。本体に刃が通らないのであれば、内部を突けばいいのじゃ。問題はどうやって水から引きずり出すのかだけじゃが……」
わざとらしく腕を組み、視線を送るルリ。その意図に気づいた音羽が、口元にゆっくりと笑みを浮かべた。
「なるほどね……わざわざ水中で戦う必要なんてないもんね」
「そういうことじゃ。音羽お姉ちゃんとわらわの連携を見せつけてやるのじゃ!」
ルリが得意げに右手を差し出すと、音羽もがっちりと握手を返す。顔を見合わせた二人は、声を上げて笑った。
「ぷっ、あはは! 連携して攻略すればいいだけなのに、どうして忘れてたんだろ」
「あはは! ほんとなのじゃ。ご主人もそうじゃが、一人で何とかしようとする癖があるのはいっしょじゃのう」
「ほんとにね……」
(まったく、何を焦っているのかしら……私らしくないわ)
小さく息を吐いて遠くを見ると、ルリが笑顔で声をかける。
「ところで音羽お姉ちゃん。ほかにはどんなモンスターがいるのじゃ?」
「そうだったわ。小川にはさっき話したアイアンイールがいるんだけど、草原エリアにはトビコという狐のモンスターがいるわ。群れで行動して、飛び跳ねながらちょっかいを出してくるの。あまり害はないけど……まあ鬱陶しいわね。隙を見せるとジャンプ攻撃してくるから、囲まれると厄介よ」
「そうなんじゃな。そいつらは岩場のほうにも来るのじゃろうか?」
「ちょっと待ってね。スマホで確認するわ」
音羽はスマホを取り出し、手際よく画面を操作する。
「私の調べたデータによると、草むらエリア以外では遭遇しないけどしつこく追いかけてくるみたいね。それに弱点は雷や電流って書いてある……なるほどね」
画面を見ながら、音羽はにやりと笑った。
「ルリちゃん、うまくいけば四階層のモンスターを一網打尽にできるわよ」
「奇遇じゃな。わらわも同じことを考えておったのじゃ」
二人は顔を見合わせ、黒い笑みを浮かべて笑い出す。
「ふふふ……わらわたちの無双伝説がここから始まるのじゃ」
「そうね……私たちの活躍を全世界に見せつけてやろうじゃない。これでお互いカリスマ配信者への道をさらに進められるわ」
「もちろんなのじゃ! 全世界がわらわたちにひれ伏す日も近いのじゃ!」
大成功する未来しか見えていない二人の笑い声が迷宮に響き渡る。
この時、彼女たちが重要なことを見落としていたとは気づいていなかった……
最後に――【神崎からのお願い】
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