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ラストリモート〜失われし読書魔法(リーディング・マジック)と金髪幼女で挑む迷宮配信〜  作者: 神崎 ライ
第八章 四階層突入

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第1話 瑛士の失言

「お待たせ……って、なんで瑛士くんはそんなぼろぼろなの?」


 三階層から戻ってきた音羽が見たのは、全身に擦り傷や噛みつかれたような跡がついて床に突っ伏している瑛士。背中の上には勝ち誇ったような顔で座るルナと、満足げに毛並みを整えている子猫。すぐ後ろでは、ポテチを頬張りながら上機嫌なルリがいた。


「あ、音羽お姉ちゃん! おかえりなのじゃ」

「な、何があったらこんなカオスな状況になるの?」

「話すと長くなるのじゃが……実はこんなことがあってのう……」


 ポテチを頬張る手を止め、ルリが説明を始める。


 魔法でおやつを収納して持ってきたこと、万が一を考えて冷蔵仕様にしていたのにモーゲンダッツが溶けてしまったこと、瑛士が『アイスは冷凍』ということを教えてくれなかったことなどを矢継ぎ早に話す。


 そして、ルリがバカにされたことに腹を立てたルナが瑛士に襲いかかり、その様子を見ていた子猫が遊んでいると勘違いして参戦、現在に至る――という顛末を説明した。


「そんなことがあったのね……」

「そうなんじゃよ! ちゃんと『アイスは冷凍』と教えないご主人が悪いのじゃ!」

「お、俺が悪いのかよ……」


 床に倒れたまま話を聞いていた瑛士が、絞り出すように声を上げる。


「この件に関しては……瑛士くんが悪いわね」

「なんでだよ……俺が何をしたっていうんだ……」

「どう考えても全部悪いじゃない。そもそも女の子を泣かせるなんて……」

「い、ちょっと冗談を言っただけで…… 」

「ギュ?」

「い、いえ……何でもありません……」


 反省の色が見えない瑛士の言葉を聞き、ルナが鳴き声を上げる。背中の上から放たれる剣呑な気配に、冷や汗が止まらない。


「ほら、早く謝ったほうが良いわよ~」

「俺が悪かった……」

「ギュ? ギューギュギュ!」

「は? ()()が足りてないだと……」

「ギューギュギュ!」

「クソ……俺が全面的に悪いです。ルリさん、ごめんなさい」


 瑛士が悔しそうに謝ると、満足げな顔をしながらルリが近づいてくる。


「ふふふ……わかればよいのじゃ。最初からちゃんと誠意をもって対応していれば良いのじゃ」


 瑛士の前に立ち、仁王立ちしながら腕を組んで見下ろすルリ。


「クッソ……いつか覚えていろよ」

「ん? なにか言ったかのう、ルナ?」

「キュー?」

「ナニモイッテオリマセン……」


 ルリとルナの圧力に、何も言えなくなる瑛士。


「しかし、この子はホント大物感が半端ないわね……」


 殺伐とした空気の中、音羽の視線は子猫へと向かう。そこには大きく口を開け、身体を伸ばしてリラックスしている姿があった。


「ニャー」


 音羽と目が合うと、子猫は嬉しそうに鳴き声を上げて足元にすり寄ってくる。


「ほんとかわいいわね。ほら、こっちにおいで」

「ニャー」


 優しく抱き上げると、頬に顔を擦り付けてじゃれる子猫に思わず笑みがこぼれる。ここで、ふとあることを思い出す。


「そういえばこの子に名前をつけなくていいの?」

「そうじゃった! どんな名前が良いじゃろうか?」


 二人が悩んでいると、地面に倒れている瑛士が声をかける。


「お取り込み中のところ申し訳ないが……ルナをどかしてもらえないか?」

「は? わらわは名前を考えるという重大任務で忙しいのじゃ!」

「瑛士くん、四つん這いになってルリちゃんのところまで動けばいいんじゃない?」 

「そ、そうか! ルリの近くに行けば自然と飛びつくもんな」


 音羽の提案を聞いた瑛士が、ゆっくりと四つん這いになる。ルナが落ちないよう慎重に、ルリの前まで進んでいく。


「ルリ……ルナを連れてきたぞ……」

「おお、ご苦労じゃったのう。ルナ、こっちにくるのじゃ」

「キュー」


 ルリが手招きすると、ルナは嬉しそうに胸に飛び込んでいく。ようやく解放された瑛士が立ち上がろうとした時だった。背中に衝撃が走り、ルナとは比較にならない重みが全身を襲う。


「お、音羽さん? ()()()()()()()()()()のでしょうか?」

「あら? 気がついちゃった? ちょうど()()()()があったから座っただけよ」

「いやいや、俺は椅子じゃねーよ! それにルナとだったからまだ……」

「ん? 何が言いたいのかしら?」


 瑛士が言いかけたところに、圧をかけながら言葉をかぶせてくる音羽。


「えーっとだな……ルナはウサギだろ? 音羽は人間じゃないか……だから、その……」

「そうね、ルナちゃんはウサギさんね。で、私は『女の子』だから、なに?」

「……いえ、なんでもないです……」


 瑛士はとんでもない失態を犯してしまったことに気づいたが、すでに遅かった。背中から放たれる無言の圧力が、全身を押し潰すようにのしかかる。


「やけに体が震えているけど……まさか、私のせいだって言いたいわけじゃないわよね?」

「そんなことは……」

「えーだって、さっき言っていたじゃん。ルナちゃんはウサギだからまだ軽いって」

「いや言ってないぞ。ルナが軽いから大丈夫なんて……あっ!」

「へえ……ルナちゃんは軽くて、私はどうなのかしら?」

「……」


 言い逃れができない失言に、滝のような汗が吹き出す瑛士。背中に座る音羽は満面の笑みを浮かべながら追及の手を緩めない。


「じゃあ、瑛士くんは私一人も支えられないほど弱いってことなのかしら?」

「なんでそうなるんだよ! 別に一人座ったからといって……」

「そうよね? 私を守るって言ってくれた人が弱くないもんね?」

「いや……守るといった覚えは……」

「じゃあ、もう一人くらい座っても大丈夫ね? ルリちゃん、こっちに来て休まない?」

 おお! ちょうど立っているのも疲れたのじゃ」

「お、おい! ちょっと待て!」

「あ? 男の子なんだから文句言わずにちゃんと支えてなさい! それともお仕置きされたい?」


 自分の失言がとんでもない事態を招いたことを後悔する瑛士。

 二人の女子によるおやつタイムが始まり、解放されたのは数十分後だった。


「ど、どうしてこんな目に……余計なことを言わなければ……」


 地面に突っ伏して後悔する瑛士。

 彼はまだ気づいていなかった……これから降り注ぐ災難の始まりにすぎないということに……

最後に――【神崎からのお願い】


『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。

感想やレビューもお待ちしております。

今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!

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