閑話⑦-3 悲劇のおやつタイム
音羽が三階層で交戦を始めた頃、瑛士とルリは四階層に続く通路で休憩できそうなスペースを見つけた。
「ご主人、このあたりで休憩できそうではないか?」
「ああ、そうだな。音羽が戻るまでちょっと休むか」
「やったーなのじゃ! さっそくおやつタイムなのじゃ!」
ルリが喜びを爆発させて飛び跳ねると、ルナと子猫も釣られてはしゃぐ。その様子を見ていた瑛士が、ふとあることに気づいて声を掛けた。
「おやつタイムはいいが、荷物ってどうしたんだ?」
迷宮に入る前に用意していた荷物を、ルリが一切持っていないことに気づいたのだ。瑛士と音羽はそれぞれのリュックに必要最低限の飲み物と食料を入れているが、ルリは何も持っていなかった。瑛士の言葉を聞いた彼女が、ドヤ顔で答える。
「何じゃ? わらわが荷物を持っていないことがそんなに疑問か?」
「そりゃそうだろ。おやつなんて俺は持ってないし、お前が『わらわに任せるのじゃ!』って言って触らせなかったんだろ」
「そうじゃぞ? ご主人に渡したら『あれはダメ、これはダメ』って選ばれてしまうからのう」
「……遠足に行くわけじゃないんだから……」
瑛士が呆れると、ルリが掌を上げてため息を吐きながら言う。
「はぁ……これだからご主人はダメなんじゃよ。わらわに不可能なことなどないと言ったじゃろうが」
「いや、不可能なことだらけの間違いじゃないのか?」
「何を言っておるのじゃ? わらわの力があれば、荷物など持ち歩く必要はないのじゃ」
怪しげな笑みを浮かべたルリが右手を体の前に突き出すと、一冊の本が宙に浮かび上がる。
「まさか……ルナを連れてきた方法で荷物も持ってきたのか?」
「当然じゃろ。天才カリスマインフルエンサーたるもの、頭を使ってなんぼなのじゃ」
「いつから天才カリスマインフルエンサーになったんだよ……」
瑛士が大きく息を吐いて項垂れるのを気にも留めず、ルリが詠唱を唱える。
「封鎖解呪!」
言葉を言い終えると本が勢いよく開き、ページが一気にめくられていく。あるページで止まった瞬間、光があふれ、大きなビニール袋に入ったお菓子の山が出現した。
「すげぇ……って、どれだけ詰め込んでるんだよ! ゴミ袋いっぱいって……やりすぎだ!」
「ふふふ、驚いたじゃろ? 腹が減っては戦ができぬと言うからのう」
「限度ってものがあるだろうが……」
瑛士が額に手を当てて大きくため息を吐いたその時、ルリが悲痛な叫び声を上げた。
「なんじゃー! どうしてこんなことになったんじゃ!」
「どうしたんだ? 大丈夫か?」
慌てて瑛士が顔を上げると、ドロドロの液体で満たされたビニール袋を涙目で見つめるルリがいた。
「ルリ、それ何持ってるんだ?」
「わらわの……わらわのモーゲンダッツが……」
「まさかお前……アイスを持ってきたのか?」
「なんで、どうしてこんなことになったんじゃ……」
涙を流しながら膝から崩れ落ちるルリに、瑛士が笑いをこらえながら話しかける。
「お、お前……保冷剤も入れずに常温で放り込んだのか?」
「当たり前じゃろうが! 冷蔵の魔法もかけておいたのに……なんでなんじゃ!」
「冷蔵? 冷凍じゃなくて? くっ……」
「な、何がおかしいのじゃ! だっていつも『冷蔵庫』にアイスは保管しておるじゃろうが!」
「お前な……たしかに冷蔵庫に入れてるけど、アイスを入れてるのは『冷凍庫』だろ?」
「……」
瑛士の指摘を受けたルリは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。
「あのな、アイスは温度が低いから固形なんだ。常温に戻ったら溶けるに決まってるだろ」
「そ、そんなことくらい知っているのじゃ!」
「じゃあなんで冷蔵の魔法を使うんだよ?」
「そ、それは……うわー!」
瑛士が少しバカにしたように言うと、ルリが泣き出してしまった。
「お、おい……俺が悪かったから泣くなって……」
必死になだめようと近づいた時、背後から凄まじい殺気を帯びた視線が突き刺さる。恐る恐る振り向くと、全身の毛を逆立てて低く唸るルナと目が合った。
「い、いや……ルナ、これはちょっとした冗談でな」
「ギュー! ギュギュー!」
「話せばわかるから……ぎゃー!」
次の瞬間、瑛士の断末魔の叫びが通路に響き渡る。
「だ、誰か助け……」
ルナの怒りはとどまるところを知らず、狭い通路内を逃げ惑う瑛士。その様子を見ていた子猫が遊んでいると勘違いし、さらにカオスなことになる……
最後に――【神崎からのお願い】
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