閑話⑦-2 ネズミの正体と音羽の怒り
「さてと、ネズミ駆除は終わったわね」
通話を切ると小さく息を吐き、地面に転がる人々を見下ろしてスマホを投げ捨てる。
「なんで……こんなふざけたお面を付けたやつに……」
地面に倒れている灰色の作業服を着た男性が、息を切らしながら顔を上げて話しかける。
「あら? まだ意識があるなんて意外としぶといのね」
顔色一つ変えずに音羽が興味なさげに答え、柄に手を当てて警戒を強めた。
「くっ……たしかに全員四階層に向かったはずなのになぜだ……」
「たしかに四階層に向かったわ。私は途中で引き返したけどね」
「ど、どういうことだ? ドローンの映像にも我々が設置したセンサーにも反応は無かったぞ」
「ああ、そのことが疑問だったの? 簡単な話よ。偽装すればいいだけじゃない」
悔しそうに見上げる作業員に対し、音羽は冷ややかな言葉を投げつける。
「そんなことできるわけが……」
「できるわよ。通信回線に介入して、私が事前に用意した映像に切り替えさせればいいだけのことでしょう?」
音羽の告げた言葉に言葉を失う男性。なぜなら、組織の監視用ドローンや回線は海外サーバーをいくつも経由し、厳重なセキュリティが何重にも施されている。不正アクセスが検知されれば即座に追跡され、上層へ報告ののち闇に葬られるはずだ。 どう考えても素人が介入することなど不可能なはずだったが、目の前にいる少女はいとも簡単にハッキングしていたというのだ。
「バ、バカな! お前のようなガキにそんな芸当ができるはずがない!」
「そうね、普通の学生なら……ね。でも、武道にも精通した、天才美少女の私じゃなきゃ不可能よ。」
「じ、自分で天才美少女とか言うか……ぎゃー!」
言葉を発した瞬間、音羽の刀が男性の右手を貫いた。
「あら? 手が滑ってしまったみたいね。誰かさんがこんな美少女に向かって変なことを言うから……」
「俺はただ……」
「え? 何かしら? そんなに右手とおさらばしたいのかしら?」
刀が右手を貫くと、慌てて男性が訂正する。
「ち、違う! 狐のお面を付けていてわからなかっただけだ!」
「まあいいわ……そういったことにしておいてあげるわ。それよりも随分私たちの回りを嗅ぎ回っているけど……誰の差し金かしら?」
「い、言えるわけないだろ……と言いたいところだが、教えてやるよ」
苦虫を噛み潰したような表情の男性が、音羽を見上げたままに怪しく微笑む。
「俺は直接面識はないが、飯島とかいうヤツが指示を出しているみたいだ」
「やっぱりね……」
飯島の名前を聞いた音羽の全身から嫌悪感が溢れ出す。その様子を見た男性が嘲るかのように話し始める。
「俺のような末端が知っているとすれば、何かを企んでいることぐらいだな。どこかの階層に転移装置を仕掛けるとかなんとか言っていたのを聞いたぞ」
「え? 転移装置ですって?」
「ああ、詳しいことは知らないが、そんな話を聞いた。まあ……せいぜい気をつけろよ」
「ちょっと! 詳しくその話を教えなさいよ!」
男性の言葉を聞いて音羽が刀を引き抜き、さらに詰め寄ろうとしたそのときだった。
「どうやら時間切れのようだ……せいぜい気をつけることだな、死にたくないだろ?」
男性が言い終えると同時に地響きが鳴り、頭上から砂が降り始めた。
「早く逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
男性の怒鳴り声に反応した音羽がとっさに後ろへ身を引いたとき、二メートルはありそうな岩が先程立っていた場所に落下し、男性もろとも押し潰した。
「……なるほど、使えなくなった駒には用無し、ってわけね」
静寂の中、呟いた声がやけに冷たく響いて血と砂の匂いが鼻につく。
「……ほんと、腐ってるわ」
小刻みに肩を震わせながら低く吐き捨てると、視線は四階層の入口へと真っすぐ向けられていた。
「受けて立とうじゃないの、飯島女史。お前の野望、全部ぶち壊してやる……」
ゆっくり歩き出した音羽の足音だけが響く。瞳には怒りと決意、口元には微かな笑みが浮かんでいた。
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