第6話 封印された封筒
「な、なんで崖がなくなってるんだ……」
ルナに近寄った瑛士の目に飛び込んできたのは、先ほどとは全く違う光景だった。暗闇が支配する底の見えない崖は消え、ただ平坦な地面が広がっていた。さらに手紙と紙切れを見つけた壁も無くなり、木々が生い茂っている。
「ルナについてきたのじゃが、見せたい景色はどこかのう? 特におかしなところはなさそうじゃが」
呆然として固まっている瑛士に、周囲を見渡していたルリが話しかけてくる。
「あ、いや……たしかにこのあたりだったはずなんだが……」
「ふむ……ご主人が言っていた崖とやらは全く見当たらんぞ。これはいったいどういうことなんじゃろうか……」
ルリが首をかしげていると、一歩引いた位置で腕を組んでいた音羽が口を開く。
「さっきからおかしな点を探っていたけど、何もわからないのよね。空間が歪んだ痕跡も見当たらないし、幻術の類かと思ってみたけど、それも違うっぽい……瑛士くん、さっき回収した物を全部見せてくれない?」
「ああ、わかった……そうだな、すぐそばにちょうどいい切り株があるから。みんな、近くに来てくれないか」
瑛士が声をかけると、音羽とルリが切り株へ向かって歩き始める。全員が集まったことを確認すると、ズボンのポケットから紙切れと封筒を切り株の上に並べる。
「こ、この紙は間違いなくわらわの一部! じゃが……この封筒はなんじゃろうか?」
「ルリにも心当たりがないのか? 一緒にくっついて出てきたんだよ」
「一緒に、というのが興味深いのじゃ。ご主人は中身を見たのか?」
「いや、まだ見てはいない。みんないるし、ちょっと開けてみるか?」
瑛士が封筒を持ち上げようと右手を出した時、音羽が止めに入った。
「どうした? 封筒を開けるのが何かマズかったか?」
「気のせいだと思うけど……なんか嫌な感じがしたのよ」
「そうか? 俺は何も感じないけど……何が入っているのか見ないことには始まらないだろ?」
「そうね。どんな罠が仕掛けられているかわからないから、くれぐれも気を付けてね」
「考えすぎだろ。ただの封筒だしさ」
しぶしぶといった様子で音羽が手を引くと、そのまま瑛士は封筒を手に取り、中身を確認しようとする。しかし、ここで思わぬことが起こる。
「ん? 封筒が開かない?」
瑛士が封筒の口を開けようとするが、封のされた口が開く気配がない。それどころか破って中身を見ようにも、本体が鋼鉄でできているかのように破れる気配が全くしない。持っていた短剣で切ろうと試みても、謎の力にはじき返されてしまい、どうすることもできなかった。
「どうなってるんだよ……音羽、お前の剣技で断ち切ることはできないか?」
「……たぶん無理だと思うけど……瑛士くん、ルリちゃん、ちょっと離れていてね」
瑛士たちが無言で頷いて離れたのを確認すると、音羽は柄に手を添え、静かに目を閉じる。小さく息を吐き、目を見開いた瞬間、目にも止まらぬ速さで刀を抜いた。すると切り株が根元から真っ二つに割れ、地面にまっすぐ切れ込みが入っていた。しかし、鞘に刀を収めた彼女から驚きの言葉が発せられる。
「……ダメよ。本体は切れていないわ……」
「は? うそだろ?」
彼女の言葉を聞いた瑛士が近寄ると、切り株は切れていた。しかし、封筒には傷一つ付いていなかった。
「マジか……何をしてもダメってことかよ……」
「ふむ。そういうことか……ご主人、この封筒には厳重な封印がかけられておるな」
肩を落とす瑛士の隣で、封筒を手に取ったルリがまじまじと見つめながら話す。
「は? 封印がされているってどういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。わらわにかけられていた物と似たような魔力を感じるのじゃ。物理攻撃は一切受け付けないじゃろうし……ま、そのうち解けるじゃろ」
「あっけらかんと言うなよ……」
瑛士が思わずため息をつくと、音羽が近づいて声をかけてきた。
「はいはい、わかったところでこの話は終わりにしましょう。瑛士くんたちが見た崖の謎も調べたいけれど、四階層の攻略が先よ」
「そうだな。いろいろ謎は多いけど、まずは攻略が先だ!」
「うむ。いよいよエリアボスと対峙なのじゃな! わらわに恐れをなして逃げ出しておらぬといいのじゃが」
「まだ四階層が残ってるし、お前はまだ何もしてないだろう……」
自信たっぷりに話すルリに呆れながら、瑛士は崖があったと思われる方向を見ながら思い返していた。
(いろいろ不可解な点が多いのは確かだ。謎の床に紙切れと謎の手紙……さっきは疑問に思わなかったが、何かに導かれるように吸い寄せられたもんな。あとで詳しく調べてみるか)
瑛士が遠い目をしながら生い茂る木々を見つめていると、ルリと音羽が妙なことを言い出した。
「あれ? 瑛士くん? その子猫どうしたの?」
「きゃ、きゃわいいのじゃ! ご主人、いつの間に手なずけたのじゃ?」
「キュー、キュキュ!」
「は? お前ら何を言っているんだ?」
二人の言っている意味が分からず、瑛士が聞き返すと、足元に何かがすり寄る感触を覚える。慌てて視線を下に向けると、茶色の子猫が足首にすり寄っていた。
「わ! いつの間に……ってかなんでこんなところに子猫がいるんだよ?」
「ニャー?」
突如、瑛士たちの前に現れた子猫……いったいどこから来たのか?
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