第4話 謎の空間と封筒
紙切れと共鳴するかのように光り輝く封筒を瑛士が眺めていると、ズボンの裾を引っ張られる感覚を覚える。足元を見るとルナが早く戻ろうと言わんばかりに力いっぱい引っ張っていた。
「ああ、悪かったな。早くルリたちの所に戻ろうか」
「キュー! キュキュキュ!」
ルナの頭を撫でようとしたが、手を振り払うように頭を振って必死に何かを訴える。ただごとではないと感じた瑛士が立ち上がると、ルナは一目散に先ほどまでいた場所へ飛び跳ねていく。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
「キュキュキュー!」
「いいから早くこっちに来いって? わかったよ」
追いかけるように戻り、崖を登ろうと時だった。手紙などがあった隙間からヒビが広がり、轟音を立てながら崩れ始めたのだ。さらに、歩いてきた黒い床にも無数の亀裂が入り、ガラスが砕けるような音と共に奥から崩れ始めていく。その様子を見た瑛士は大慌てでよじ登って、振り返ると同時に真っ暗な闇へ床が吸い込まれるように消えていった。
「あ、危なかった……もしルナが引っ張ってくれなかったら……」
崖の下に広がる暗闇を覗き込む瑛士。足元の石をうっかり蹴り落とすと闇へ吸い込まれていった……が、いつまで待っても底に届く音はしなかった。
「……ま、まじかよ。底が無い……? あそこに落ちていたら……」
背筋が凍りつき、呼吸が乱れる。後ずさりした拍子に尻もちをつき、全身から血の気が引いていく。静寂の中で自分の鼓動だけがやけに大きく響いた。
その時、服の裾を小さく引っ張られる感覚を感じて振り返ると、不安そうなルナの瞳がこちらを見つめていた。
「ほんとよく気が付いてくれたよ……お前がいなかったら今頃どうなっていたか……」
「キュー? キュ、キュキュー」
「もっと感謝してくれてもいいんだぞって?」
「キュー!」
「ああ、そうだな。お前は命の恩人だからな。迷宮から出たら何かお礼をしないといけないな」
「キュー!」
瑛士の言葉を聞いたルナはその場で勢いよく飛び跳ね、喜びを全身で表した。
(やっぱりコイツはただのウサギじゃない……俺の言葉を理解してるし、何者なんだ? まさか、さっきの床も……)
真剣な表情で考え込んでいると、目が合ったルナが瑛士の胸に飛び込んできて頬ずりを始める。
(まあ……今のところ敵意はなさそうだし、何かと助けてくれる。気にしすぎか……)
「キュー?」
「ああ、何でもない。さてと、目的の物も回収したし、ルリたちの所に戻るか?」
「キュー!」
嬉しそうにルナが鳴き、勢いよく飛び出すと、早くしろと訴えるように瑛士の周りを飛び跳ねる。
「わかった、わかった。じゃあ行こうか」
飛び跳ねて先を急ごうとするルナの後ろについて歩き始める瑛士。
「……」
この時、岩陰から瑛士たちの様子を窺っている気配に気付くことはなかった。
「ルナ! どこに行っていたのじゃ! 探したのじゃぞ!」
「キュー!」
「マジかよ……かなり離れてるのにどんな脚力してるんだよ……」
ルリの姿を見つけると一目散に胸の中へ飛んでいくルナ。二メートル近くある距離を一気に飛び越えていく様子に驚いていると、背後から声をかけられる。
「お疲れ様。怪我もないみたいで良かったわ」
「ただいま、音羽。ちょっとしたアクシデントはあったが、無事に帰ってこれたよ」
「そうだったのね。瑛士くんの姿が見えなくなると同時くらいにルナちゃんも忽然と消えたのよ。多分追いかけていったんじゃないかとは思っていたけどね」
「ああ、アイテムを探していたら突然現れてな。アイツのおかげで助かったんだよ」
ルリと戯れる姿を見ながら瑛士が目を細めていると、音羽が食い気味に聞いてきた。
「へえ? 三階層だし、そんなに危ないところはないはずだけど……何があったか教えてもらってもいい?」
「ああ、いいぞ。実はな……」
瑛士はルナと合流する少し前のことから説明を始めた。ドロップアイテムを回収していた時、光を放っている岩の隙間を見つけたこと。以前見つけたルリの探し物と似ていたから回収しに行こうとしたら、先の見えない崖があったこと。ルナが現れて崖の向こうまで見えない道を教えてくれたこと。回収したアイテムが一つではなく、謎の手紙も一緒だったことを説明した。最初は興味津々に聞いていた音羽だったが、ルナが合流した後の辺りから表情が険しくなり、最終的には腕を組みながら首をかしげた。
「うーん……だいたい状況はわかったけど……引っ掛かることが多すぎるのよね」
「何かおかしなことがあったのか? まあ、ルナがいてくれたおかげで怪我もなく帰ってこれたわけだしさ」
「それは別にいいのよ、瑛士くんが無事なら。問題はその前、暗闇が広がっていた崖のことなの」
音羽の言葉を聞いた瑛士が不思議そうな顔で聞き返す。
「まあ、いきなり崖が出現したらビックリするわな」
「そうじゃないの。三階層に崖なんて存在しないし、光る手紙なんて聞いたこともないわ。それに……この広いフロアの中で瑛士くんの位置を正確に探し当てるなんて至難の業じゃない?」
「た、たしかに言われてみれば……じゃあ、あの崖は……」
「……ねえ、瑛士くん。本当に『三階層』にいたのかしら?」
音羽から告げられた言葉を聞いて動揺する瑛士。
彼女の言葉が意図することとはいったい……
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