第1話 ルリの策略と音羽の暴走
二階層で不穏な影が動いていたことなど知らず、瑛士たちは三階層へ到着した。
「さあ、三階層に着いたのじゃ! 今度こそわらわの勇姿を見せる時が来たのじゃ!」
「あんまり調子に乗ってケガするなよ」
張り切るルリに対し、瑛士が呆れた様子で声をかける。すると隣にいた音羽が不機嫌そうな声で話しかけてきた。
「瑛士くん? 私も張り切って頑張っちゃおうかしら?」
「ん? ああ、頼りにしてるから頼んだぞ」
「え? それだけ? こんな岩がたくさんあるところで飛び跳ねていいんだ?」
「お前の身体能力なら問題ないだろ? それに……ん?」
言葉を続けようとした瑛士の服が引っ張られる感触に気が付く。視線を向けるとジト目をしたルリが小声で話しかけてきた。
「どうした? なんかあったのか?」
「ご主人……まさかここまで鈍感だとは思わんかったぞ」
「鈍感って何のことだよ?」
「音羽お姉ちゃんの顔をよーく見てみるのじゃ」
ルリに促されて音羽へ視線を向けると、能面のような顔をして立ち尽くしていた。
「……俺、何かやっちまったか?」
「音羽お姉ちゃんも女の子なんじゃぞ? たしかにすごい戦いを披露しておるが、初めての迷宮攻略ということを忘れてはおらぬか?」
「う……返す言葉がない……」
「全くしょうがないご主人じゃ……わらわが言うとおりに声をかけてみるのじゃ。いいか……」
ルリの言葉に耳を傾ける瑛士。最初は頷きながら聞いていたが、途中からどんどん顔が赤くなっていく。
「そ、そんな恥ずかしいセリフ言えるか!」
「いいから言ったとおりにするのじゃ! 三階層をスムーズに攻略するためじゃ」
渋い顔をしている瑛士の背中を叩き、早く行けと言わんばかりに睨みつけるルリ。有無を言わせない圧力に、しぶしぶ音羽に向き直る。
「あのー音羽さん?」
「なんでしょうか? 私の身体能力なら何の問題も無いんでしょ?」
「あの、いや……あまりにも華麗な動きに見とれてしまってな……だが、心配していないわけじゃないんだ。攻略にすごく張り切っていたお前のやる気を削いでしまわないように、後ろからサポートするつもりだったんだ。万が一、危険が迫った時に全力で守れるようにな……ってあれ?」
ルリに言われたとおりに話しかけると、大きく口を開けたまま固まる音羽。顔はゆでだこの様に真っ赤になり、視線はどこか遠くを見つめたまま微動だにしない。
「おい、音羽! 大丈夫か? しっかりしろ!」
焦った瑛士が両肩を持ち、前後に揺らすと目の焦点があった音羽が大声で叫ぶ。
「キャー! 瑛士くんがそんな風に思ってたなんて……!」
「落ち着け、音羽」
「そうよね、二人なら最強だもの。まさに愛のパワー!」
「えーっと、音羽さん? まずはお話を……」
「──あ、お父様に挨拶もしなきゃ!」
「待て待て待て、話が飛びすぎだろ!」
困惑する瑛士を気に留めることも無く、彼女の妄想はどんどん加速していく。
「あはは、まさかここまで効果があったとは思わなかったのじゃ!」
「ルーリー! お前……最初から暴走することを知っていただろ!」
「なんのことじゃ? わらわは音羽お姉ちゃんの機嫌を直す方法を教えただけじゃ。心配してほしかったのじゃから、優しい言葉をかけるのは当然じゃろ? 女の子には優しくするのは当たりじゃ」
「くっ……な、何も言い返せねえ」
悔しそうな表情を浮かべる瑛士に対し、勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべているルリ。ずっと独り言をつぶやいていた音羽が、急に真面目な顔で二人に話しかけてきた。
「瑛士くん、あなたの気持ちはちゃんと受け取ったわ。私のことをそこまで考えていてくれたなんて……」
「えっと音羽さん?」
「いいの、ちゃんとわかっているわ! ルリちゃん、三階層は足場も悪くて危険だから私が攻略するわ! 四階層のほうが戦いやすいから任せてもいいかしら?」
「もちろんなのじゃ! でも、初めての攻略じゃから音羽お姉ちゃんにサポートしていただきたいのじゃ」
「任せて! ルリちゃんは私の大切な妹のような存在だからね。ここはお姉ちゃんに任せなさい!」
音羽が仮面を付けなおすとスマホを取り出し、手早く操作を始める。小さく何かを呟くと刀の鞘に手を置き、腰を低くして構えを取ると全身を桜色のオーラが包み始める。次の瞬間、一気に出力を増したオーラが火柱のように立ち上る。
「翠の嵐よ、我が一刀に宿れ。進路を示し、視界を拓け── 翠風道開!」
詠唱を終えた音羽が刀を振り抜くと、桜吹雪のように花弁が舞い上がる。そして、岩の間を一直線に風が駆け抜けると、次々と断末魔のような叫び声と共に爆発が起こり始める。
「……何が起こったんだ……」
呆然と立ち尽くす瑛士の隣で、ルリが目を輝かせながら音羽に駆け寄る。
「音羽お姉ちゃん、すごいのじゃ! 桜の花びらと衝撃波に乗せた魔力でモンスターを一網打尽にするなんて!」
「ふふふ、これぞ愛のパワーよ! さあ、三階層の危険は過ぎ去ったからドロップアイテムを回収しながら四階層を目指しましょう!」
笑顔ではしゃぐ二人の隣で呆然と立ち尽くす瑛士。
「なあ、ルナ……俺たち攻略に必要なんだろうか?」
「キュー」
圧倒的な実力を目の当たりにし、どんどん自信を失いはじめる瑛士。
この後さらなる追い打ちが待っているとは思いもよらなかった……
最後に――【神崎からのお願い】
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