第5話 バトルの行方は?
「なあ、ほんとにホーンラビットの変異種なのか?」
「変異種で間違いないはずなんだけど……ちょっと様子がおかしいわね」
瑛士と音羽が構えを取って見据える先にいたのは、赤い目をぎらつかせて三人を睨みつける巨大なモンスター。眉間にはホーンラビットの証である角が生えているが、問題はその大きさだった。普通はいくら大きくても幼児の腕くらいのサイズだが、対峙している個体は大人が手を回しても届かないほどの太さがあり、長さも一メートルほどに見える。極めつけは先端に電流が流れているかのような火花を時折散らしていた。
「さすがにヤバいかもしれないわね……」
「ああ、でもあんなのを野放しにしていたら、どれだけ犠牲者が増えるかわからんぞ」
二人の頬を一筋の汗が流れ、表情に焦りがにじみ始める。すると後ろに控えていたルリが声をかける。
「取り込み中のところすまないのじゃ。アヤツを倒す方法を思いついたのじゃ」
「「は?」」
突然出たルリからの提案に素っ頓狂な声を上げる二人。
「何を驚いておるんじゃ?」
「お前が変なこと言うからだろうが! あのモンスターを倒す方法って……」
「ルリちゃん、どんな方法なの?」
瑛士が文句を言いそうになると、言葉を被せるように音羽が割って入る、
「さすが音羽お姉ちゃんなのじゃ。それにしてもご主人ときたら……」
「なんで俺が文句言われないといけないんだよ!」
ルリと瑛士が険悪な雰囲気になり始めると、音羽が一喝する。
「今は揉めてる場合じゃないでしょ? 瑛士くんも黙って話を聞くの」
「話は聞くけどさ、でも……」
「でも、じゃないの! いいから黙って聞く! わかった?」
「う……聞くだけなら聞くけどさ……」
「返事はハイかイエスのみ、わ・か・っ・た?」
「……はい」
音羽から放たれる圧力に後ずさりしながら返事をする瑛士。二人の様子を見ていたルリが、腕の中に抱いているルナへ話しかける。
「ルナ……音羽お姉ちゃんに逆らってはいけないのじゃ」
「キュ……」
「ん? ルリちゃんどうかしたの?」
「い、いやなんでもないのじゃ……あ、二人ともこっちに来てほしいのじゃ。わらわが考えた作戦は……」
二人を呼びよせると作戦を手短に説明するルリ。すると内容を聞いた二人が驚きの声を上げる。
「なるほどな……かなりリスキーだがやってみる価値はある」
「運要素もかなり多いけど、やるしかないわね」
「キュ、キュー!」
「そうと決まったらさっそく実行なのじゃ! 準備は良いか?」
ルリの掛け声に無言で頷く瑛士と音羽。三人と一匹がモンスターに向き直ると、何かを感じ取ったのか空気が一変して雄たけびが上がる。
「ギュオォー!」
「さあ、戦闘開始だ! 音羽、先陣は頼んだぞ!」
「任せておいて! さあ、私を楽しませて頂戴ね」
音羽が鞘から刀を抜いて体の前に構えると、姿が揺らぎ始める。同時にフロアー内に金属がぶつかり合う音が響き、いくつもの閃光が空間内を駆け抜ける。
「アイツ……さらに腕を上げてやがる……」
音羽の動きを見ていた瑛士が思わず声を漏らすほどだった。普通の人間では彼女の姿を追う事すら不可能な速さで、空間内を縦横無尽に駆け回っている。その姿を見たルリから驚きの声が上がる。
「音羽お姉ちゃん、すごすぎなのじゃ……ほんとに人間なんじゃろうか?」
「いや、お前が言うな……それよりもモンスターの異常さがよくわかった」
瑛士が指摘したように、必要最小限の動きで全ての攻撃を受け流しているモンスター。まるで最初から全てわかっているかのように……
「ルリ、そろそろ俺も加勢するが……準備は大丈夫だろうな?」
「大丈夫じゃ、できれば少しでも長く時間を稼いでくれると助かるのじゃが……」
「ああ、わかった。あとは任せたぞ」
瑛士の言葉を聞いたルリが無言で頷くと、瑛士も短剣を構えてモンスターに向かう。
「音羽が気を引いてくれている間に一気に勝負をかける!」
瑛士がモンスターに向かって駆け出すと空から雷撃が襲いかかり、ところどころで煙が昇り始める。
「クソ……こっちの動きはお見通しってことかよ……」
音羽ほどの速さはないが、次々と襲いかかる攻撃を躱していく。あと一歩で懐に飛び込めるというタイミングで、瑛士の立っていた場所に異変が起こる。地面が盛り上がり、降り注ぐ矢のように雷が落ちて大爆発が巻き起こる。
「早く逃げるのじゃ!」
ルリの叫びが一帯に響くが、耳を劈くような爆発音と土煙にかき消される。
「ご、ご主人が……」
凄惨な光景を目の当たりにし、真っ青な顔でその場にへたり込むルリ。すると隣にいたルナが膝にすり寄ってくる。
「キュ、キュー」
「わらわのせいなのじゃ……あんな無茶な作戦を伝えたばっかりに……」
「ルリちゃん、諦めるのはまだ早いわよ!」
泣き崩れそうになるルリの耳に音羽の声が響く。
「お、音羽お姉ちゃん?」
「瑛士くんなら大丈夫よ! それよりも最後の一手はルリちゃんにかかってるんだからしっかりしなさい!」
「で、でもなのじゃ……」
「すべて二人にかかっているの! チャンスは一度しかないから……」
「それはわかっているのじゃが……」
「ルリ、何を迷ってるんだ?」
吹っ切れないルリの耳に瑛士の言葉が聞こえる。
「ご、ご主人? 爆発に巻き込まれたんじゃ……」
「あの程度でやられるほどやわじゃない。そんなことより、音羽が作ったチャンスを無駄にするわけにいかない……タブレットを使って、お前のデータを俺のスマホに転送しろ! 今すぐにだ!」
「わ、わかったのじゃ!」
瑛士の声を聞いたルリの表情に活気が戻る。
「発現」
右手をかざし、短く詠唱を唱えるとタブレットが現れる。
「神々の魔導書として命じる。我が主に力を与えよ……」
ルリが言葉を言い終えるとタブレットが発光し、光の筋がモンスターへ向かって伸びていく。
「よし……接続完了だ! さあ、決着を付けようか!」
スマホを取り出した瑛士がページをめくるように操作すると、全身を包み込むように光を纏う。
「「これで最後だ! 神の憤慨!」」
二人の声が重なると同時にモンスターの懐からまばゆい閃光が走り、空間内を真っ白な光が侵食する。さらに先ほどとは比べ物にならないほどの爆音が響き、嵐のような爆風が吹き荒れる。
変異種と思われるモンスターとの決着と行方は?
爆発に巻き込まれた瑛士たちは無事なのだろうか……
最後に――【神崎からのお願い】
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