第4話 迷宮攻略開始と厄災の足音
「全国の下僕ども、ちゃんと見ておるか? わらわの勇姿を、しかと目に焼き付けるのじゃ!」
「ドアホ! 初めて迷宮へ行くヤツに、勇姿もクソもあるか!」
「むっ、アホだと? わらわを誰だと思っておるんじゃ! 大人気インフルエンサーで、カリスマ配信者の――」
アホ呼ばわりされたルリが瑛士に詰め寄ろうとしたとき、彼が言葉を遮った。
「自分で“大人気”とか言うな……よく聞け。帰りに新作のモーゲンダッツを買ってやる。だから大人しく言うこと聞けよ」
「なぬっ、それは本当じゃな?」
「嘘ついてどうするんだ。ちゃんと買ってやるから、暴走するなよ」
「ふむ、わらわに褒美をよこすとは、良い心がけじゃな!」
「なんで上から目線なんだよ……」
呆れた瑛士が大きくため息をつくと、その隣でルリは急に眉を寄せた。
「どうした? 何か問題でもあったか?」
「由々しき事態が発生したのじゃ……わらわには、どれか一つを選ぶなどできぬ……そうじゃ! 全種類制覇配信をすれば問題ないのじゃな!」
「なんで全種類制覇することになるんだよ!」
「ん? 細かいことを気にしていては、ビッグな男にはなれんぞ?」
「……もういい。腹壊しても知らねーからな……」
迷宮の入り口でコロコロと表情を変えるルリに対し、瑛士はまたもため息をつく。しかし視線の先、薄暗い入口が、わずかに口を開けて待ち構えているように見えた。
その会話が一段落したところで、様子をうかがっていた受付の職員が、申し訳なさそうに声をかけた。
「あの……そろそろ説明を始めさせていただいても大丈夫でしょうか?」
「「はい、よろしくお願いします」」
元気よく返事をする二人に圧倒されつつ、職員は説明を始めた。
「それでは始めます。迷宮は現在三十階層まで解析されており、お持ちのタブレットに地図がインストールされています。内部は迷路のようになっている箇所も多いため、特定の階層には緊急脱出用の転移装置がございます。安全第一で行動してください。迷宮内に落ちている資源は、基本的に持ち出しは禁止されていますが、研究目的などで申請を出していただければ、持ち帰る許可が下りる場合もあります。例外として、モンスターからドロップした物は資源に含まれません。また、二層目以降では神出鬼没のモンスターが出現することもありますので、一層目で装備などを整えてから進んでください。皆様の映像は、各所に設置されたドローンから管理本部へ転送されています。万が一の際は、ドローンに手を振ったりしてお知らせください。なお、三十階層以降は未知のエリアとなります。そのため、進行は自己責任でお願いいたします。何かご質問はございますか?」
「攻略の様子を配信するときに、何か注意点などはありますか?」
「配信には、弊社がご用意したドローンカメラをご使用いただきます。タブレット等の持ち込みは構いませんが、カメラ部分には保護シールを貼らせていただきます。万が一、それを外された場合は出入禁止などの措置が取られますので、ご注意ください」
「先ほど貼っていただいたやつですね……わかりました」
「説明は以上となります。それでは、ご安全に!」
二人は軽く頭を下げ、迷宮の中へと足を踏み出す。空気が一気に変わり、背筋をかすかに撫でる。
「さあ、わらわの伝説が幕を開けるぞ!」
「張り切りすぎてケガすんなよ……」
お馴染みの掛け合いに、配信コメントも大いに盛り上がっていた。
《チャットコメント》
『瑛士、ちゃんとやる気出せwww』
『ルリ様のモーゲンダッツ全制覇のために、すぐスパチャ送ります!!』
『なんだかんだ安心感あるんだよね、このやり取り』
『さあ、お手並み拝見といこうか! 取れ高に期待してるぜ!』
通知音が鳴りやまないスマホをポケットから取り出した瑛士。配信コメントを確認した瞬間、驚愕のあまり動きが止まった。
「おーい、ご主人。そんなところで固まってどうしたんじゃ?」
「おい……このスパチャの額、どうなってるんだ? 恐ろしい勢いで上がっていってるぞ……」
瑛士はスマホをルリに突きつけた。
「おー、今日はなかなか景気が良いようじゃの」
「景気が良いとか呑気なこと言ってる場合か! もう十万超えてんだぞ!」
「なんじゃ? そんなに驚くことでもなかろう」
「お前な……」
「ご主人、冷凍庫にわらわのモーゲンダッツがいつも充実しているのは、なぜじゃろうな?」
「俺はそんなに買った覚えは……ま、まさか?」
意味深なセリフにピンと来た瑛士。鯉のように口をパクパクさせながらも言葉が出てこない彼の肩を、ルリが優しく叩く。
「ま、そういうことじゃ。細かいことは気にしても仕方ないぞ」
「……さらば、俺の平穏な日常よ」
「何を言っておるんじゃ? そんなことより、さっさと迷宮攻略を始めようではないか! ……わらわとご主人の“探し物”もあるのじゃしな」
「そうだったな。気持ちを切り替えて行くか!」
「それでこそ、わらわのご主人様じゃ! さあ、伝説を残そうではないか!」
意気揚々と迷宮の入口へ向かい、鼻歌交じりに歩き出すルリ。その背中を包むライトが徐々に闇へと飲み込まれていく。
「やれやれ……無茶させないように助けてやるか」
小さく息を吐きながら、その背中を追いかける瑛士。
談笑しながら進む二人だったが――
彼らの配信が監視され、陥れる罠が迷宮内に着々と仕掛けられていることなど、まだ知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!