第2話 すでに戦いは始まっていた?
「こちら迷宮前、三人が中へ入っていきました」
「そう、ご苦労さん。じゃあ、あなたは迷宮内の作業員へ指示を出しなさい。失敗は許されないわよ」
「承知しております。慎重かつ迅速に作業を進めます」
歓声が響く中、インカムをつけた男が報告と指示を仰いでいた。観衆に紛れながら迷宮の外壁に近づき、何か機械を取り出して操作する。すると迷宮に吸い込まれるように姿を消した。
その頃、迷宮内の一階層にたどり着いた瑛士たちは武器の貸出窓口で手続きを行っていた。
「俺はいつもの装備を頼む。ルリも同じでいいんだよな?」
「うむ! 本当であればもう少し大きな槍を使ってみたいのじゃがな」
「まだちょっと早いような気がするな。今の武器を極めてからでも遅くないと思うぞ」
前回の迷宮攻略では途中で引き返さざるを得なかった二人。音羽の準備が整うまでの数日間、ルリの槍修行を兼ねた特訓を二階層でしていた。瑛士が一緒だとホーンラビットが逃げてしまうため、ルリ一人で相手をしていたのだ。時折、囲まれてしまうこともあったが、今では一人で対処できるほどの腕前になった。
「私はどれにしようかな? 瑛士くんに選んでほしいかも?」
上目遣いで瑛士にすり寄ってくる音羽。狐のお面を被ったゴスロリ風の人物が、猫なで声で話す光景に周囲の人々は後退りしている。
「おい……みんなドン引きしてるじゃねーか」
「えー? きっと私たちのラブラブっぷりに当てられちゃったのね! もっと見せつけてあげるべきかしら?」
「ぜんぜん違うからな! 狐のお面で顔を隠してゴスロリ風の服、さらに日本刀を帯刀した人物が猫なで声で近寄ってきたら怖いに決まってるだろうが! ってかもうすでに武器が決まってるじゃねーか!」
瑛士が指摘したように、音羽の腰にはさやに入った日本刀が帯刀されていた。
「あ、バレちゃった」
音羽が首を傾げて可愛さを全力アピールしてくるが、狐のお面が不気味さを加速させている。距離を取って様子を見ていた人々は、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。
「あれ? さっきまであんなに賑わっていたのに、みんなどこ行っちゃったのかしら?」
「……もういい、俺は何も見ていない」
額に右手を当て、大きなため息をつく瑛士。ふとカウンターの奥に視線を向けると、顔を引き攣らせて固まっている職員の女性と目があった。
「そ、それではこちらの武器でよろしかったでしょうか?」
「は、はい……これでお願いします」
「それでは、くれぐれもお気をつけて……」
貼り付けたような笑顔で手を振って見送る女性。全身からにじみ出るオーラから「早くいけ」と心の声が聞こえてくるような気がした瑛士だった。大急ぎで手を引きながらカウンターを離れると、音羽が文句を言い始める。
「あの職員の態度はどうなの? いかにも私たちに早く行ってほしいような感じだったわよ。せっかく瑛士くんと楽しく武器を選んでいい雰囲気だったのに!」
「どこがいい雰囲気なんだよ! 異様な光景でしかなかったぞ……お面被ったゴスロリファッションって……」
「可愛くない? ゴスロリと日本刀ってギャップが良いと思うの!」
「俺にはよくわからん……」
項垂れながら歩く瑛士に対し、テンション高く話す音羽。正反対の二人の様子にすれ違う人々が避けていき、モーゼの十戒のように道が開けていった。すると、二人の前にソフトクリームを持った幼女が現れる。
「ふたりともいつまで待たせるのじゃ! あまりにも遅すぎてソフトクリームが溶けてしまうのじゃ」
「ごめんね、ルリちゃん。つい楽しくて時間かかっちゃった」
「悪かったな……って、何個目なんだよ? そのソフトクリームは……」
「ん? まだ三つしか食べておらんぞ?」
ソフトクリームを頬張りながら胸を張って答えるルリ。
「まだ三つしかじゃねーよ! またお腹壊しても知らねーぞ……」
「大丈夫じゃ。何度も同じミスを繰り返すようなわらわではない! 前回は一種類の味しか試さなかったが、今回は三種類すべてを食べるために……ミニサイズにしたからのう!」
自信たっぷりに答えるルリに対し、大きなため息をついて項垂れる瑛士。すると隣りにいた音羽が口を開く。
「やるわね……ここのソフトクリームは口当たりがすごく良いと評判なのよ。一度食べたら病みつきになって、絶対ミニサイズを選ばなくなると言われているのに……」
「ちょっと待て! そんな話は初耳だぞ!」
「瑛士くんは黙っていて! ルリちゃん……あなたは自らの意思でミニサイズを?」
「もちろんじゃ! レギュラーサイズに惹かれてしまうところじゃが、新発売のミックスを堪能するために誘惑に打ち勝ったのじゃ!」
「な、なんという鋼の意志を持っているの……この勝負、私の負けね」
悔しそうに両手を握りしめ、全身を震わせる音羽。その様子を見たルリが右手を差し出し、握手を求める。
「わらわが成長できたのは音羽お姉ちゃんのおかげなのじゃ。この勝負は引き分けとしようではないか?」
「ふふふ、ありがとうルリちゃん。でも、次は負けないわよ」
二人がお互いの健闘を称え合い、握手を交わしたところで瑛士からツッコミが入る。
「なんの勝負なんだよ! それになんかいい雰囲気で終わらせようとしてるけど、まだ何も進んでないからな!」
「はぁ……ご主人、これくらいのユーモアがないと苦労するんじゃぞ」
「瑛士くん、おちゃめな冗談じゃない。何をムキになってるの?」
「お前ら……いい加減にしろ!」
瑛士の怒号が迷宮のフロアに響き渡り、あの警備員たちからまた注意を受ける羽目になるのは時間の問題だった。
この後、三人に予想もしない事態が襲いかかるとは誰も予想できなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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