第1話 音羽?の迷宮デビュー
野良配信者の事件から数日後。迷宮の入り口に姿を現した瑛士たちを取り囲むように人だかりができていた。
「なんでこんな人だかりができてるんだ?」
「んーどうしてじゃろうな? わらわは配信で迷宮の謎を解くなんて言った覚えはないんじゃがな?」
「ルーリー! お前のせいだろうが!」
「ははは! 見送りは盛大な方が楽しいじゃろう!」
瑛士が抗議するも、無視して高笑いしながら観衆に手を振るルリ。
「ルリ様が手を振ってくださったぞ!」
「ルリちゃん、配信で見るよりもめっちゃ可愛いじゃん!」
「ああ……この目でルリ様を拝見できる日が来るなんて……配信直後から野宿していた甲斐があった……」
「アレが例の子? なかなかいい男じゃない! オネエ仲間にも写メ送っちゃお!」
「チッ……想定以上に観衆が多い……なんとか彼と接触し、我が結社に引き込まねば」
観衆の声が大きくなる中、目を見開いて辺りを見回す瑛士。その様子に気が付いたルリが声をかける。
「ご主人? そんなに驚いた顔をしてどうしたんじゃ?」
「……オネエと秘密結社の人間が混ざってないか?」
瑛士の発言を聞いたルリが、不思議そうな顔をしながら取り囲む観衆を見渡す。
「ふむ……ざっと見たが、おかしな人間はいなさそうじゃぞ?」
「おかしいな……空耳じゃなかったと思うんだが……」
瑛士とルリが話していると、観衆のどよめきが一気に大きくなる。そして、全員の視線が受付のほうから歩いてくる一人の女性に釘付けとなる。
「お待たせ! やっと受け付け終わったわよ。ほんとめんどくさいのね」
「ああ、前よりも厳格になったらしいからな。って……なんだよ、そのお面は!」
瑛士が振り向くと、黒いゴスロリ風の服に身を包んだ狐のお面をかぶった女の子が手を振りながら近づいてきた。
「え? いいでしょ、このお面。近くのお店で売っていたんだけどね、割と耐久性も高いし、プラスチックとは違う素材みたいで柔軟性もあるのよ」
「そういうことじゃねーよ! なんでゴスロリファッションに狐のお面なんだよ! これから遊びに行くわけじゃないんだぞ、お……」
不意に瑛士が名前を呼ぼうとした瞬間、少女の姿が消える。一瞬で間合いを詰められたかと思うと口をふさがれ、耳元で囁かれる。
「打ち合わせしたよね? 私はミルキーって呼んでと……まさか、本名で呼ぼうとした?」
「もごもご」
口をふさがれた瑛士が必死に首を左右に振りながら、手を合わせて謝る仕草をする。
「うんうん、わかればいいのよ。次同じ間違いをしたら……わかってるわよね?」
「うぐー!」
音羽の殺気のこもった声に首がもげる勢いで頷く瑛士。その様子を見た観衆から驚きの声が次々と上がる。
「あの仮面の女子、かなりやり手じゃない?」
「すごく動きにくそうなドレスなのに……間合いを詰める動きが見えなかったぞ?」
「あの声、どこかで聞き覚えがあるような……」
「身のこなしと気配の殺し方……できるわね。諜報部に連絡し、情報を……」
観客がどよめく中、二人の前にルリが現れると一喝するように声を張り上げる。
「静かにせんか! こちらのお方は人気配信者のミルキー先輩じゃ。わらわがお願いして、一緒に迷宮攻略を行なうことになってのう……ただし、先輩の情報は企業秘密とのことじゃ。余計な詮索は……賢い下僕どもならわかるじゃろ?」
「……」
ルリの有無を言わせない圧力に一斉に押し黙る観客たち。その場で回転し、二人に向き直ると笑顔で話しかけた。
「まったくご主人はいつまで遊んでおるのじゃ……それよりもミルキー先輩? 一緒にご挨拶をお願いしたいのじゃが良いかのう?」
呆れた視線を瑛士に向けると、すぐ上目遣いで両手を胸の前で握って見上げるルリ。
「ぷはっ、お前な……これのどこが遊んで……」
「ルリちゃんにお願いされたら、断る理由なんかないわ!」
解放された瑛士が抗議しようとするが、即座に音羽が大きめの声を被せる。そして、一瞬で移動するとルリの両手を握り、全身からキラキラしたオーラをみなぎらせる。
「さすがミルキー先輩なのじゃ!」
「みんなー、ルリちゃんからご紹介に預かりました『ミルキー・マジカル』です! これから一緒に迷宮攻略をしていくので応援してね!」
「そういうことじゃ! 下僕ども……両方のチャンネルで配信をしていくということは、わかっておるな?」
ルリが意味深な笑みを浮かべて見渡すと、一瞬沈黙が訪れる。そして、割れんばかりの大歓声が一気に沸き起こった!
「うお……なんだこの歓声は……」
「ちょっとこれは予想外ね……って、なんかすごい勢いで登録者が伸びてるんだけど……」
あまりの熱狂ぶりにドン引きしている瑛士と、スマホの画面を見たまま固まる音羽。
「まあ、こんなもんじゃろ? わらわの下僕どもは元気が良いのう。さ、そろそろ迷宮に向かおうではないか!」
割れんばかりの歓声を気に留めることなく入り口に向かって歩き始めるルリを、瑛士が慌てて引き留める。
「おい、ちょっと待て! このままじゃ収拾がつかないだろ? 挨拶ぐらいしておいた方がいいんじゃないか?」
「ん? ご主人が言うなら仕方ないのう。ミルキー先輩、一緒に挨拶してから向かうのじゃ」
「うん、いいよ。このままじゃ出てきた時も大変なことになりそうだもんね」
音羽が観衆に目を向けると、涙を流してその場に座り込む者や柵を乗り越えん勢いで身を乗り出す者まで現れた。
「下僕ども、よく聞くのじゃ! わらわたちは今から迷宮攻略に挑む! ここから先は配信で会おうなのじゃ。万が一出待ちなんぞしようもんなら……わかっておるな?」
「みんな、ルリちゃんのサポートは任せて! カッコイイ姿をたくさん見たかったら配信で応援してほしいな。もちろん約束守ってくれるよね?」
人気配信者たちからのお願いと圧力におされ、一気に押し黙ると首を上下に動かす観客たち。その様子を見た瑛士が思わず声を漏らす。
「……音羽が一番怖いんじゃ……」
満面の笑みを浮かべながら瑛士に問いかける音羽。
「あれ? 何かおかしな声が聞こえなかったかしら?」
「き、気のせいじゃないか?」
「いや、わらわにも聞こえたのじゃ。音羽お姉ちゃんが……」
「わー! それよりも早くルナを開放してあげないといけないし、先に行くぞ!」
ルリの話を遮り、迷宮の入口へ向かって走り出す瑛士。
この時、観衆に混じって三人の様子を監視していた者がいたとも知らず……
最後に――【神崎からのお願い】
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