第5話 失われた古代魔法の真実
「わ、わらわに……な、何を聞きたいのじゃ……?」
いつもとは違う様子の音羽に圧倒されながら、なんとか口を開くルリ。
「ごめんね。怖がらせるつもりはないの……私は真実が知りたくて聞いてるだけだから」
口調こそ柔らかいが、視線は真剣そのものだった。目の前にいる音羽の覚悟を感じ取ったルリは、小さく深呼吸をすると、覚悟を決めた様子で向き合う。
「わかったのじゃ。わらわの答えられる範囲でわかることなら協力するのじゃ。しかし、記憶が……」
「まだ抜け落ちてる記憶が多すぎて、全部は答えられないかもしれない……ってことで良いかしら?」
話している途中で音羽が言葉を被せて遮ってきた。しかも話そうとした内容を言い当てられ、言葉を失って固まるルリ。
「……音羽お姉ちゃん、なぜそのことを知っておるのじゃ?」
「隠してもしょうがないから話すわ。私もあの研究所にいたの……瑛士くんと一緒に捕えられてね」
「音羽お姉ちゃんも捕えられていたんじゃと……?」
衝撃の告白にルリは言葉を失う。しかし、そんな様子を気にすることもなく音羽は話を続ける。
「研究者としてだけどね。両親が弱みを握られていたの、あのサイコパス野郎『飯島桂子』に……十代でアメリカの博士号を取った天才か知らないけれど……人間としては最低のさらに下をいくクズだったわ。自分の研究のためなら、ありもしない冤罪を平気で作り上げ、人を殺すことになんのためらいもない……そう、はるか昔に失われた魔法『読書魔法』を手にするためにね」
「……」
話を続ける音羽の迫力に圧され、ルリは言葉を発することができなかった。
「失われた古代魔法は、魔力がない人間でも特殊な本を読むことにより魔法が使えるという代物。しかし、大きな代償を伴う……」
「そうじゃ……素質がない者が使うということは、自らの生命力を削るということ……そんな光景を幾度となくわらわは目撃してきた……」
「うん、辛かったよね……そして素質を持つ人間が立ち上がり、読書魔法につながる書物や記録を封印することを選んだの。迷宮という異世界の建造物を召喚し、人間が到底到達できない深部へ……だけど、ここで問題が発生した。『神々の魔導書』という禁忌の書物は手元に残さなければいけない……なぜなら、迷宮を封印する鍵も兼ねていたから」
「そのとおりじゃ……迷宮内にすべてを封印することと引き換えに、わらわも長い眠りにつくのじゃ」
悲しそうな表情を浮かべてルリが顔を伏せる。その様子を見た音羽が静かに近寄ると、優しく抱きしめる。
「辛かったよね……全部一人で抱え込んで、誰にも弱音も吐けずに……」
胸に顔を埋めたまま声を出せず、肩を震わせて泣きじゃくる。頭を撫でながら何も言わず、無言で受け止める音羽。しばらくして落ち着いたルリが少しずつ話しはじめる。
「読書魔法は迷宮とともに封印されたはずじゃった……そして、わらわは素質を持つ者によって厳重に封印を施され、二度と人間と関わることはないと思っていたのじゃ。無理やり引きずり出されたあの日……飯島桂子と名乗る人物が現れるまでは……」
「やっぱり……そうだったのね」
「そうなのじゃ……どんな手段を使ったのかわからぬが、封印をされたままバラバラにされてしまったわらわには何もできなかった。気がついたときには、椅子に縛られた男の子が泣き叫んで許しを請う光景が飛び込んできたのじゃ」
「なるほどね……それからどうなったか覚えてる?」
「周囲を取り囲んでいた大人がいたのじゃが、全員が魔力持ちだったのじゃ。無理やり押さえつけられた男の子は必死で抵抗しておったが……そこからの記憶がすっぽり抜け落ちているんじゃ……気がついたときには、ご主人の前に現れていたのじゃ」
話を聞き終えた音羽はルリの頭を撫でながら考えを巡らせていた。
(やっぱりあのサイコパスが原因だったわ。でもタイミングが良すぎるのよね、ルリちゃんの封印が解かれたのと迷宮が出現した時期が……どんな手を使ったのかは知らないけれど、魔導書の欠片が私たち以外の手に渡るのはまずい……読書魔法の存在が公になる前に、あの年増サイコパスを始末しないと大変なことになる。あの魔法は軽々しく扱っていい代物じゃない……)
「音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? ものすごく怖い顔をしておるのじゃが……」
「あ、ごめんね。ちょっと考え事をしていたの……ルリちゃん、私も次から一緒に迷宮に行ってもいいかしら?」
「も、もちろんなのじゃ! 一緒に攻略するのじゃ!」
思わぬ提案に花開くような笑顔になるルリ。そして続けて音羽からさらなる条件が提示される。
「良かった。そうそう、一緒に行くのにあたって私から条件をつけさせてもらってもいいかな?」
「言ってくれなのじゃ! 一緒に行けるのであれば、どんなことでも良いのじゃ」
「ありがとう、一つは私が指示したときに読書魔法を使うこと。もう一つは私のことは『ミルキーちゃん』と呼んでほしいの」
「わ、わかったのじゃ……しかし、ご主人が読書魔法を使うことは……」
音羽の提案を聞いたルリは困惑した表情を浮かべる。
「大丈夫よ。たしかに瑛士くんのトラウマはわかっているわ……だけど、敵をおびき寄せるのには絶対必要なの。協力してくれるかな?」
「わかったのじゃ……」
渋々といった様子で了承するルリの様子をみて、音羽が安堵した表情を浮かべたときだった。テレビの画面から迷宮攻略配信の映像が流れ、信じられない光景が飛び込んできた。
「な、なんで……野良配信者が魔法を使っているのよ!」
映し出されていたのはタブレットを片手に持ち、火の玉を次々と打ち出す配信者たちの姿だった。
彼らの手にしているタブレットと魔法に、いったいどんな秘密が隠されているのか……
最後に――【神崎からのお願い】
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