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ラストリモート〜失われし読書魔法(リーディング・マジック)と金髪幼女で挑む迷宮配信〜  作者: 神崎 ライ
第五章 失われた魔法『読書魔法(リーデング・マジック)』

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第4話 ちらつく影と音羽の決意

 音羽の口から飛び出した名前を聞いた瑛士の表情が凍りつく。その様子を見たルリが心配そうに顔を覗き込む。


「ご主人……顔色が随分悪いが、大丈夫か?」

「ああ……久しぶりに聞きたくもない()()を聞いたからな……」


 険しい表情のまま答える瑛士に対し、ルリが話題を変えようと音羽に話しかける。


「音羽お姉ちゃん、賢治と遥香は研究所とはなんの関係もない()()()じゃろ? とても接点があるようには思えんのじゃが……」

「そうね。あくまで私の推測に過ぎないから確信はないわ。それにあの女ならやりかねない……と思っただけよ」


 音羽は深いため息と共に両手を広げ、空に投げ出すように掌を見せた。その姿は、どうにもならない現実に白旗を掲げるかのようだった。なぜなら、飯島女史は研究所がなくなった時期を境に消息が途絶え、行方不明となっていたからだ。当時、研究所に出入りしていた彼女の両親が持つネットワークを駆使しても、生死すらわからない状態だった。


「まあ……仮にあのサイコパスが一枚噛んでいたとしても、表に出てくるとは考えにくいわね」

「それはどうしてなのじゃ?」

「彼女に恨みを持つ人間は山ほどいるからね。それに無駄に警戒心が強すぎる。リスクを犯してまで表舞台に立つとは考えにくいのよ」


 難しい顔をしたまま黙って音羽たちの話を聞いていた瑛士が、静かに口を開く。


「そうか、あの野郎が一枚噛んでいる可能性もあるのか……ヤツには聞き出さなければいけないことが山ほどある……絶対この手で……」


 瑛士の瞳に怒りと殺気が宿り始めた時、音羽が明るい声で話しかける。


「そんな怖い顔をしないの。まだ決まったわけじゃないし、別の誰かかもしれないでしょ? 現に瑛士くんだって謎の秘密結社からスカウト来てるんだし」

「お前、なんでその話を……」

「そりゃルリちゃんの配信はリアルタイムで全部見てるし、コメントも全部チェックしてるわ。瑛士くんに悪い虫が付いたらすぐに排除しないといけないし……」

「お前の価値観がわからねーよ! そっちのほうが問題だろうが! だいたい今の日本に秘密結社なんてあるのかよ?」

「それは……」


 瑛士の問いかけに、音羽は露骨に目をそらした。


「おい! なんでそんなにわかりやすく目をそらすんだ? 何か知ってるだろ!」

「ワタシハナニモシラナイアルヨ」

「思いっきりカタコトの怪しい日本語になってるじゃねーか! やっぱり何か心当たりがあるんだろ!」

「エーナンノコトカサーッパリワカラナイワー。そんなことより、私はオネエ軍団を全力で応援したいわ! 瑛士くんの新たな扉を開く瞬間をちゃんと見届けたいし、すごく楽しそうじゃない?」

「楽しくねーよ! 何だよ、新しい扉って!」

「大丈夫、瑛士くんがたとえオネエになっても私は受け入れられるから!」

「なんでそうなるんだよ!」


 瑛士と音羽が言い争っていると、冷蔵庫から取り出したアイスを食べながらルリが近づいてきた。


「こりゃ! いつまで喧嘩しておるんじゃ!」

「う……すまな……ってなんでお前はアイスを食ってるんだ?」

「ご主人たちの喧嘩が長すぎて暇じゃったのじゃ」

「ごめんね、ルリちゃん。瑛士くんが変なことを気にするから……」

「変なことを言い出したのはお前だろうが!」

「ええい、ご主人はちょっと黙っているのじゃ! 少しくらい人気が出たからといって調子に乗るでない!」

「なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ……」


 理不尽に怒られ、頭を抱えてしゃがみ込む瑛士。そんな様子に目もくれず、ルリは音羽に近寄ると脇に抱えていた本を差し出した。


「音羽お姉ちゃん、そろそろルナを外に出してあげたいんじゃが……」

「すっかり忘れていたわ! じゃあルナちゃんを解放してあげましょうね」

「頼むのじゃ! あ、でもご主人が魔法を使ったのじゃが、あの状態では……」


 ルリが横目で瑛士を見ると、頭を抱えてしゃがんだまま何かを呟いていた。


「しょうがないわね……ルリちゃん、テーブルにルナちゃんの表紙を上にして置いてくれるかな?」

「わかったのじゃ」


 指示通りにルリがテーブルの上に本を置くと、音羽がゆっくり手をかざす。


「じゃあ、はじめるわよ」

「よろしく頼むのじゃ」


 ルリの返事に頷いた音羽は、小さく息を吐いて目を閉じ、短い呪文を唱える。


「我が声に答え、解き放て……解呪(デスペル)


 音羽が言い終えると同時にかざした手の先が輝き、共鳴するように本が光を放つ。そして本の中から長い耳が二本出現し、ゆっくり全身が現れる。


「キュー!」


 本の上に全身が現れると鳴き声を上げてルリに飛びつく。


「ルナ、長い間窮屈な思いをさせてすまなかったのじゃ」

「キュ、キュー」

「ははは! そうか、許してくれるのか!」

「キュー!」


 再会したルナが喜びを爆発させてルリに頬ずりする様子に、音羽は安堵の笑みを浮かべた。そして、未だにしゃがんだまま呟いている瑛士の頭を軽く叩く。


「いつまで落ち込んでるのよ? 気分転換にルナちゃんを連れて庭のお家に案内してきてくれない?」

「いてっ! なんで俺がいかなきゃいけないんだよ……」

「男の子なんだから文句言わないの! ルリちゃん、瑛士くんがルナちゃんのお家を案内がてら散歩させてくれるって!」


 瑛士の返事を待たずに、音羽が声を掛ける。


「なぬ! ご主人、そうなのか? ルナも遊びたいじゃろうから喜ぶに違いないのじゃ!」

「キュー!」

「おい、なんで俺が散歩することに……」

「いいから行ってらっしゃい! ルリちゃん、ちょっとお手伝いしてほしいことがあるから瑛士くんに任せてもいいかしら?」

「それは構わないのじゃ。ルナ、ちゃんということを聞くのじゃぞ?」

「キュー!」


 ルリの腕から飛び出すと、ルナはリビングの窓に向かって猛ダッシュする。それを見た瑛士が慌てて追いかけた。


「ちょっと待て! そのまま行ったらガラスが!」

「キュ?」


 ガラスの直前でルナが急停止したため、勢い余った瑛士が窓枠に思いっきり頭をぶつけ、鈍い音がリビングに響き渡る。


「このやろ……わざとやりやがったな?」

「キュ、キュ、キュー」


 瑛士を嘲笑うかのように鳴くと、ルナは前足で器用に窓を開けて外に出ていった。


「あ、こら勝手に出るな!」


 額を押さえながら慌ててルナの後ろを追いかけていく瑛士。その姿が見えなくなると、音羽は静かに窓を閉め、ルリに話しかける。


「ルリちゃん。瑛士くんのこと……いえ、魔法についても含めて色々お話したいけど、いいかな?」


 いつになく真剣な声に、ルリは思わず表情をこわばらせた。

 音羽が瑛士を引き離してまで話したかったこととは?

最後に――【神崎からのお願い】


『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。

感想やレビューもお待ちしております。

今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!

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