第3話 動きはじめる黒幕
「あの二人が犯罪者だって? どうやって迷宮の中に侵入できたんだよ……」
「そうなのじゃ、迷宮内には攻略の様子を映すドローンもあるのじゃぞ」
ルリと瑛士が食い入るようにテレビを見たまま固まっていると、音羽が小さく息を吐く。
「二人が驚くのも無理はないわ。迷宮に犯罪者が紛れ込まないように、警察も目を光らせているから。でも、その警備をかいくぐって迷宮内に侵入させているらしいのよ」
「マジかよ……」
音羽の口から告げられた情報に言葉を失う瑛士。すると隣で顎に手を当て、しかめっ面をしていたルリが疑問を投げかける。
「ちょっと待つのじゃ。迷宮への入り口は一か所しかないのじゃろ? 仮に通過できたとしても、一階層で見つかるのじゃなかろうか?」
「そ、そうだ! いくらなんでも、あれだけ人がいる一階層を通過するなんて不可能に近いぞ!」
ルリの言葉を聞いた瑛士が慌てて同意する。しかし、その答えすら予想済みと言わんばかりに、音羽が首を横に振る。
「普通に考えれば絶対無理……だけど、追い詰められた人間は手段なんて選んでいられない」
何も言えず固まったままの二人を見た音羽は、そのまま話を続ける。
「残念ながら、きれいごとばかりじゃないのが世の中なのよ。人の弱みに付け込んで私利私欲を満たそうとする人間なんて山ほどいる。瑛士くんはよく知っているでしょ? 自分の成功のためなら、平気で人を殺めることすら躊躇しない人間がいることを」
「アイツのことか……」
音羽の指摘に対し、瑛士は苦虫を噛み潰したような顔で声を絞り出す。
「そうよ。あの年増サイコパスババアならやりかねないわ」
「年増サイコパスって……容赦ないな」
「そりゃそうよ! 私の瑛士くんを勝手に痛めつけて、弄んだのよ? いじめていいのは私だけって決まってるのに……」
「ちょっと待て! なんでお前がいじめる側に回ってるんだよ! よっぽどお前のほうが……」
音羽の話を聞いた瑛士が慌ててツッコミを入れようとした時、一瞬でリビングの空気が一変する。
「誰のほうがなんですって?」
「いや、その……」
「あんな年増ババアと一緒にしないでくれる? 私は瑛士くんの幼馴染であり、将来を約束した婚約者なんだから!」
「まてまてまて! いつの間に婚約者にさせられてるんだよ!」
「ひどい……留学する時に言っていたじゃない! 『お前が無事に帰ってくるのを待ってる。ずっと一緒だよ』って……」
「勝手に改変するな! たしかに『帰ってくるのを待ってるぞ』とは言ったけど、ずっと一緒になんて言ってないわ!」
二人がヒートアップしていく様子を、隣で見ていたルリが大きな欠伸をしながらツッコミを入れる。
「ふぁ……もうその辺にしておいたらどうなんじゃ? 夫婦喧嘩はあとでゆっくりやってくれないかのう?」
「誰が夫婦だ! そもそも言い出したのは……」
「もう! ルリちゃんったら! 公認されたからには婚姻届けを出しに行かなきゃいけないわ!」
「どさくさに紛れて何を言ってるんだよ! 話がややこしくなるから、いい加減落ち着け!」
「あーわかったのじゃ。婚姻届けでも何でもあとで書いたらいいのじゃないか、ご主人? そんなことよりも、どうやって奴らが迷宮内へ入り込んだのか……その謎が残っておるのじゃ」
ルリの冷静なツッコミを聞いて、瞬時に冷静になる二人。
「さすがルリちゃんね。危うく説明を忘れるところだったわ」
「そんな重要なことを忘れるなよ!」
「はいはい、ご主人は黙っておるのじゃ。わらわは音羽お姉ちゃんの説明を聞きたいのじゃ」
「俺のせいかよ……」
ルリに窘められ、大きく肩を落とす瑛士。そんな彼の様子を気に留めることもなく、音羽はテーブルの下からキーボードとマウスを取り出し、手際よく画面を立ち上げていく。
「この映像を見てほしいの。これは迷宮の展望フロアの様子なんだけど……この部分、何か違和感を感じない?」
映し出された映像を指さし、二人に問いかける。
「何の変哲もない展望フロアの様子だろ? 強いて言えば、作業着のスタッフさんが二人映っていることくらいか……」
「そうね。一見何の問題もなさそうなんだけど、このスタッフの動きをよーく見ていてね……」
言い終えると音羽は映像を再生させる。異様なほどに周囲を警戒する作業着姿の二人。そして、物陰に隠れると何かを操作しているような様子を見せ、そのまま壁に吸い込まれるように姿が消えた。
「今のはなんだ? 壁の中に吸い込まれるように消えていったぞ? そんなところに隠し扉なんてあったのか? 映像はないのか?」
「な、何が起こったのじゃ? この二人はマジシャンか何かなのか?」
「二人とも落ち着いて。この映像は私が極秘で忍ばせた特殊なドローンで撮った映像なの」
「お前は……毎回どうやって忍び込ませてるんだよ……」
呆れた瑛士がジト目で音羽を見るが、完全に無視して説明を続ける。
「前々から私の周辺を嗅ぎ回る動きがあったからね。それより問題はこの後なの。このドローンには私の魔力も付与してあるから、少々のことではびくともしないんだけど……」
音羽は映像を進めると、壁に近づいた瞬間、急に映像が反転し、真っ暗な画面に切り替わる。
「は……? 何で壁に近づいただけで何も映らなくなるんだ?」
「どうやら特殊な結界……それも魔力を感知すると防御機能が働くようじゃの……」
驚く瑛士を横目に、ルリが怪訝そうな表情のまま答える。
「さすがルリちゃんね。どうやら特殊な結界を施されているようなの……それも、読書魔法を応用しているようね」
音羽が告げた事実に、瑛士とルリの表情が固まる。
「まさか……裏で糸を引いている人物って……」
「十中八九間違いないわ……稀代のマッドサイエンティスト『飯島桂子』よ」
音羽の口から語られた因縁の相手……
彼女は犯罪者の手引きまでして、いったい何を企んでいるのか――
最後に――【神崎からのお願い】
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