第2話 消えた二人の行方
音羽との通話を終えた瑛士の表情から一気に血の気が引き、青ざめたままルリへ向き直る。
「ルリ、緊急事態だ!」
「どうしたんじゃ? 音羽お姉ちゃんに何かあったのか?」
「わからん……だが、声の調子がただ事じゃなかった。探索は中止だ、家に戻るぞ」
「わ、わかったのじゃ……ご主人、この残骸はどうするのじゃ?」
ルリが指さす先には、砕け散った石の巨体「ストーン・ゴーレム」の残骸が山のように積もっていた。
「時間はかかるが……岩場に同化して消えるだろう」
「それはそうなんじゃが……またこの階層に出るのではと思ってじゃの……」
不安げな視線を向けるルリ。瑛士はその頭を軽く撫で、低く断言する。
「心配ない。あいつらは別の階層から飛ばされてきてる。ここで復活はしない」
「そ、それなら安心したのじゃ……あんなのが徘徊しておったら……」
「いつかは再戦になるが、今じゃない。それまでに対処法を叩き込む」
「もちろんなのじゃ!」
ルリの顔に再び光が戻る。瑛士は小さく頷き、二人は音羽の待つ自宅へと急ぐ。
――
「それで慌てて帰ってきたら、庭にバカでかい小屋、そしてお前はリビングでくつろぎ……何だったんだよ!」
「えー? そんなこと言ったかしら?」
音羽の返事を聞いた瞬間、瑛士の顔から感情が抜け落ち、冷たい能面のようになる。
「……もういい。しばらく一人で迷宮に潜ってくる」
ロボットのような動きで玄関へ向かう瑛士の服を、ルリが必死に掴む。
「ご、ご主人、待つのじゃ! 一人で潜るなんて自殺行為なのじゃ!」
「ルリ、止めるな。理由がなければここに留まる必要はない。調査を続け――」
「それならわらわも行く! それに……ルナをいつまで本に閉じ込めておくつもりじゃ!」
ルリの瞳に涙が溢れ、声が震える。瑛士は動きを止め、バツの悪そうに目を逸らす。
「……ゴメンな、ルリ」
「わ、わがっでぐれればいいのじゃ……怪我とかしでほじぐないのじゃ……」
瑛士が頭を撫でていると、音羽がそっと近づく。
「ルリちゃん、ごめん……冗談のつもりだったの。それにルナちゃんのお家を早く見せたくて……全部瑛士くんが悪いのよ!」
「なんで俺のせいだ!」
「音羽お姉ちゃんも元気を出すのじゃ。ご主人が一番悪いのじゃけど」
「やっぱ俺か?」
「うむ……じゃが音羽お姉ちゃんも悪いのじゃ。ふたりともルナのことを忘れとったからじゃ!」
ルリの言葉に、瑛士と音羽は思わず吹き出す。
「ムッ……笑うでないのじゃ!」
「ごめんね、ルリちゃん……後でルナちゃんのお家を案内するから」
「ルナのことは本当にすまなかった」
二人が同時に頭を下げ、ルリは満足げに胸を張る。
「わかればよいのじゃ! そういえば音羽お姉ちゃん、ルナは外の家になるのかのう?」
「あれは昼間用よ。普段は一緒に過ごしていいわ」
「やったのじゃ!」
ルリの笑顔に瑛士も安堵する。だが、音羽の表情がふと険しくなる。
「そうそう、危うく聞きそびれるところだった。今日、迷宮内で誰かに会わなかった?」
「男と女の二人組に会ったのう」
「ああ、三階層で事故に巻き込まれてた探索者を助けた」
音羽の表情が曇り、リモコンを手にテレビを操作する。
「ねえ……これから見せるニュース、驚かないでね?」
二人は首を傾げつつ、画面に目を向ける。
『昨日、午後九時過ぎ、早田町の工場に侵入し工具などを盗んだ疑いで、犯人は迷宮方面へ逃走。防犯カメラには男女二人組の姿が――』
「ご、ご主人、この人は!」
「まさか……いや、間違いない……」
そこに映っていたのは、三階層で助けたはずの賢治と遥香だった。
「続きがあるわ。極秘情報だけど……二人とも迷宮内で行方不明になってるの」
音羽の言葉が、空気を一瞬で凍らせた。
瑛士たちより先に三階層を出たはずの二人は、いったいどこへ消えたのか。
最後に――【神崎からのお願い】
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