閑話④ 二人の末路
瑛士たちが三階層の調査を始めていた頃、賢治と遥香は二階層へ続く階段の途中にいた。
「危なかった……まさか本人たちと遭遇するとは予定外だった」
「ええ、念の為見ておいたアーカイブが役に立つとは思わなかったわ」
「しかし、思わぬ自体が発生したほうが問題だ。こんな低階層で事故に巻き込まれるとはな……」
「アレは一体何だったのかしら……とにかく今は依頼主への報告が先ね」
遥香が迷宮の岩壁に手をかざすと、数字が書かれたホログラムが立ち上がる。慣れた手つきで番号を入力すると音を立てて岩が左右に動き、中から鉄でできた重厚な扉が現れる。そして、二人が扉を手前に引いて中に入ると何事もなかったかのように元通りの岩壁に戻った。
「何度来てもなれないな……」
「ほんとどんな構造してるのかさっぱりわからないわね。依頼主の顔も見たことないし……」
「そうだな……しかし、俺たちの残された道はこれしかない……たとえ危ない橋であろうとも……」
「そうね、今回の失敗が響かなければいいけど」
薄暗い通路を歩いていくと、これ以上進めない行き止まりに突き当たる。そして、そこには怪しく光るモニターが設置されていた。
「ご苦労さま。思ったより早かったわね? 今日の報告を聞こうかしら」
通路内に女性と思われる声が響き渡る。モニターには黒く塗りつぶされたような人間のシルエットが写っていた。
「途中までは順調でしたが、思わぬアクシデントが発生しました……」
「思わぬアクシデント? 何が起こったのか詳しく説明しなさい」
「はい……ご依頼の物を設置しようとしたところ、謎の閃光が走って爆発が起こりました。その際にストーン・ゴーレムの屍の山とともに二人とも瓦礫に巻き込まれまして……」
「へぇ……」
賢治の報告を興味なさげに返事する女性。
「気を失っていたところ駆けつけた探索者に助けられました。その後わかったのですが、要注意人物二名と……」
「ちょっと待ちなさい! 奴らと遭遇したってことなの?」
遥香の放った言葉を聞いた女性の態度が一変する。
「は、はい……最初は気が付かなかったのですが、後ほど話していたときに……」
「はあ? 何を勝手に接触しているのよ! まあいいわ、それで依頼のものはちゃんと設置できたんでしょうね?」
声のトーンが一気に下がり、さっきに似た威圧感が通路内に漂い始める。雰囲気に飲まれてしまった賢治が震える声をなんとか絞り出す。
「い、いえ……爆発に巻き込まれた際に木っ端微塵に破壊されてしまい……」
「まったく使えないわね! それで、壊れた装置は回収してきたんでしょうね?」
女性の声がさらに圧を増し、賢治と遥香の顔からどんどん血の気が引いていく。
「す、すいません……完全に破壊されて回収できるような状況ではなく……」
「よ、要注意人物も私たちのそばをずっと付いていたため、身動きが……」
「なに? 設置も回収もできていないってこと? 全く使えない奴らね!」
女性本人がその場にいるわけでもないのに、二人は蛇に睨まれた蛙のように動くことができくなっていた。
「もういいわ。もう二度と私と会うこともないでしょうね」
「そ、それはいったいどういう意味で……」
「ま、待ってください! 今からでも戻って回収だけでも……」
「うるさい! 言われたこともできない無能に何ができるというの? 終わりよ、終・わ・り! 安心しなさい。あなた達の存在はちゃんと消してあげるから、何も心配しなくていいのよ」
無情な決断の声が伝えられると、賢治と遥香の悲痛な叫びが通路中に響く。
「ちょっと待ってください! 話が違うじゃないですか!」
「い、いや……まだ死にたくないの!」
「あーほんとうるさいわね。そもそも訳ありなあなた達を匿ってあげただけでも感謝してほしいものよ。これ以上話すこともないし、会うこともないの。じゃあ、お疲れ様」
一方的に告げられるとモニターの光が消え、通路内に真っ暗な暗闇が襲いかかる。
「ね、ねえ……私たちどうなっちゃうの?」
「わ、わからない……だ、だれか、助けてくれ!」
賢治と遥香の悲痛な叫びは暗闇の中に消えていった。
「ふん、ほんと使えないバカばっかね」
薄暗い部屋の中、モニターを見つめていた女性が悪態をつく。
「まあ迷宮にアイツらが来ていることがしれただけでも収穫だったわ。さあ、楽しい宴までもう少し……首を洗って待ってなさい、瑛士くんと憎き曰く付きめ!」
高笑いする女性の声が室内に響き渡る。
何も知らない瑛士たちのもとに、着実に影が忍び寄ってきていた。
最後に――【神崎からのお願い】
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