第5話 音羽の作戦と三階層突入
「やっほー、ルリちゃん、どうしたの?」
瑛士のスマホに映し出されたのは、ヘッドセットを付けた音羽だった。
「音羽お姉ちゃん、ちょっと相談事ができたのじゃ。実は……」
「あー、言わなくても大丈夫だよ。腕に抱いているウサちゃんの件だよね? 全部見ていたからわかってるわよ」
「おい、音羽! 全部見ていたってどういうことだよ?」
「あ、瑛士くんじゃない! 離れていてもいつも見守っているから安心してね♪」
「『安心してね』じゃねーよ! ちゃんと説明しろ!」
画面の中で上目遣いで可愛くアピールする音羽を問い詰める瑛士。
「怒った瑛士くんも素敵! 新たな扉が開いちゃいそうになるわ」
「開かんでいい! それよりもどうやって俺たちの様子を知ったんだよ!」
「あ、そのことが知りたいの? そんなの簡単よ、ステルス特性を持ったドローンを迷宮内に飛ばしてるだけだから」
「どうやってそんな代物を仕掛けたんだ! そもそもいつ持ち込んだんだよ?」
サラッと話す音羽の言葉に驚きを隠せない瑛士。つい先日まで音羽は留学しており、ましてや怪しげな機械を迷宮内へ仕掛けられるチャンスなどあるはずがなかったからだ。
「そ・れ・は企業秘密よ! 私くらいの魔法の使い手となれば、このくらい朝飯前だからね。……瑛士くんに群がる悪い虫は即座に粛清しないといけないし……」
「なんか物騒な言葉が聞こえたような気がするが……」
「ん? 瑛士くんは何も気にしなくていいの、い・い・ね?」
「いや、よくは……」
「何も聞いていない、わ・か・っ・た? 返事はまだかしら?」
「……はい」
画面越しではあるが、音羽から放たれる氷点下を下回るような視線と声の圧力は尋常ではない。そんな状況に瑛士は黙って頷くしかなかった。
「わかってもらえてうれしいわ。さてと、ルリちゃんのお願いを何とかしないとね……そのまま連れ出そうとしたら間違いなく没収されるし……」
「それは嫌なのじゃ! わらわとルナを引き離すなんて……」
「キュ……」
音羽の言葉を聞いたルリとルナの顔が真っ青になり、目には涙がにじみ始める。
「大丈夫だからね! 正攻法で行こうとすると間違いなくダメだからって話なのよ。だから、裏技を使えば問題ないの。ちょっと準備が必要なのと、ルリちゃんにも協力してもらうことになるけど……大丈夫かしら?」
「大丈夫なのじゃ! ルナと一緒にいられるならそのくらいお安い御用なのじゃ!」
音羽とルリが盛り上がっているところに、隣で話を聞いていた瑛士が割り込んできた。
「おいおい……盛り上がっているところ申し訳ないが、ルリの配信にルナがバッチリ映り込んでいるんだろ? どうあがいてもバレると思うんだが……」
「あ、それなら大丈夫よ。迷宮内で別れたってことにしちゃえば問題ないし、既にルリちゃんと主従契約を結んでいるみたいよ」
「は? 主従契約を結んだだと?」
音羽の言っている意味が瑛士には理解できず、スマホに顔を近づけて聞き返す。
「きゃー! 瑛士くんの顔がドアップで……もう私、無理……死んじゃう!」
「バカなこと言ってないで最初から説明しろよ!」
「そのまま動かないで! スクショを保存っと……」
「お前な……ふざけてるのか?」
「もう怒った顔もス・テ・キ! ちゃんと説明したいけど時間が足りないからあとでね。私も忙しいから、じゃーね!」
「あ、ちょっと待て!」
一方的に通話を切られ、何が何だかわからずに肩を落とす瑛士。すると笑顔のルリが声をかけてきた。
「まあ、音羽お姉ちゃんに任せておけば全部オッケーなのじゃ!」
「アイツに任せるとろくなことがないんだが……それよりもお前、配信中じゃなかったのか?」
「ああ、そのことなら名前が決まったタイミングで配信を切っておいたぞ」
「いつの間に……」
呆れて言葉を失っている瑛士を無視して、三階層へ続く入口に向かってルリが歩き始める。
「ご主人、何をボーっとしておるんじゃ? 早く先に進むぞ!」
「……お前な、帰ったら一週間アイス抜きな」
「なんでなのじゃ! わらわは何もしていないのに、理不尽すぎるのじゃ!」
「キュー!」
ルリとルナの両方から猛抗議を受けつつ、無視して三階層の階段を上り始める瑛士。その後ろを慌ててルリたちが追っていく。そして階段を登りきると、今度は岩に囲まれた鉱山地帯のようなエリアが姿を現す。
「着いたぞ。三階層は鉱山エリアだな。たしか岩に擬態しているモンスターもいるから、むやみに岩に触らないほうがいいぞ」
「そうなんじゃな。あれ? ご主人、ルナを見なかったか?」
「は? さっきまでお前が抱いていたんじゃないのか?」
瑛士が説明しているときから辺りを見回すように、何かを探していたルリ。先ほどまで抱いていたルナがいなくなっていたのだった。
「階段は危ないから抱いて登ってきたのじゃが、ずっと抱いているのも可哀そうじゃから三階層に着いた時に地面に下ろしたんじゃ。大人しくしていたのじゃが、どこへ行ったんじゃろうか?」
「ちゃんと見ておかないからだぞ。迷宮内で迷子とか、探しようがないし……」
「うーん、勝手にどこかに行くような子じゃないのじゃが……」
ルリと瑛士が困り果てた顔をしていると、少し離れたところから何かが崩れ落ちるような音と土煙が上がる。
「は? 何が起こったんだ?」
「ご主人、確かめに行ってみるのじゃ!」
「お、おう……近くにモンスターが潜んでいるかもしれないから慎重に行くぞ」
瑛士とルリは土煙が立ち上る方向に向けて、慎重に歩き始める。
この後、二人の目に驚きの光景が飛び込んでくるとも知らず……
最後に――【神崎からのお願い】
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