第4話 新たな仲間と序列
「ご主人はいったいどうしたんじゃろうか?」
「キュ?」
ルリと腕の中で抱かれているウサギが同時に首をかしげる。
「どうもこうもねーよ……なんでモンスターと仲良くなってるんだよ! 聞いたことねーぞ!」
「そういう事もあるってことじゃろ?」
「いやいや……ルリ、いったい何をしたんだよ……」
頭に右手を当てて項垂れる瑛士が、大きなため息をつきながら問いかける。ルリは目をつむると頭を上下左右に動かしながら黙り込む。そして数十秒考え込むと目を開き、瑛士に向き直る。
「うむ、……わからん! 特に何もしておらんしのう。とにかくこの子がわらわに懐いてくれていることははっきりしているのじゃ!」
「わかりきっていたが……でも、槍を持って構えていたんじゃなかったのか?」
「そうじゃ。憎き宿敵と雌雄を決するために気合を入れておったぞ!」
「だよな……じゃあなんで仲良くなってるんだよ!」
「あー気が付いたら足元にすり寄ってきておったんじゃ。敵意もないし、拾い上げたら御覧の通りじゃ」
ルリの話を聞いた瑛士が、改めて腕に抱かれているウサギに視線を向けた時だった。
「フッ……キュー」
瑛士の顔を見るや否や鼻で笑い、勝ち誇ったような視線を向けるウザギ。
「この野郎……絶対俺のことバカにしてるだろ!」
「キュー……キュキュ」
瑛士の言葉を聞いたウサギが左右に首を振り、目を細めて笑みを浮かべる。まるで人間の言葉を理解しているかのような反応を示す。
「ルリ、そいつを下ろせ。どちらの立場が上かわからせないといけないようだ」
「ご主人、何を言っておるのじゃ! こんなかわいい子と戦うなんてどうかしたのか?」
「いいか、コイツは可愛い顔をしているが性格に大きな問題がある。この先のことを考えても序列という物をちゃんと分からせておかねばならない」
ウサギに視線を送るとバカにしたような目で瑛士を見ている。無言で睨みあう一人と一匹の間には、まるで火花が散っているかのような空気が流れ始める。その様子にチャット欄は大盛り上がりになる。
《チャットコメント》
『おお! 新たなバトルが勃発か?』
『どっちが勝つのか見物だな! まあ序列第一位はルリ様に違いない!』
『ルリ様に抱かれ続けているなんて羨ましい……は! ウサギ様と仲良くすればそのチャンスも?』
『共倒れになる可能性もあるわけか……いや、ルリ様の悲しむ顔は見たくない……』
「おお! 下僕どもが盛り上がってきておるのう」
いつの間にかタブレットを出したルリが、コメントを見ながら驚きの声を上げる。
「楽しんでおるところ申し訳ないが、まだやることがあるのじゃ。ご主人、この勝負はお預けじゃ!」
「チッ……命拾いをしたな……だが、近いうちに雌雄を決してやる!」
「まだ言っておるのか? そんなどうでもいい勝負より大事なことがあるじゃろ?」
「ど、どうでもいいだと? あのな、ルリ……よく聞けよ、男には譲れないものが……」
「はいはい、あとで勝手にやってくれなのじゃ」
真剣に話そうとした瑛士の言葉をぶった切り、無理やり会話を終わらせるルリ。
「そんな小さなことより、この子の名前を決めるのじゃ。何がいいじゃろうな?」
「俺にとっては小さなことじゃないんだが……」
膝から崩れ落ちてショックを受ける瑛士を無視し、ルリが両手でウサギを抱きあげる。じっと見つめていると何か思いついたように声を上げる。
「そうじゃ! この子の名前は耳が長いからミッ……」
「アカーン! その名前はダメだ! うさぎ界の大御所を持ち出すな!」
ルリが言い終える前に瑛士が慌てて立ち上がると、大声で止めに入る。
「なんじゃ? 我ながらいい名前じゃと思ったのじゃが……」
「いや、その名前はあまりにも偉大過ぎるというか……」
「ふむ、ならばステラ……」
「その名前はダメだ! 世界一有名なネズミファミリーを敵にしたくないんだ!」
「なんか制約が多いのう……ちょっと考えるのじゃ」
何とか止められた瑛士は大きく肩を落とし、荒くなった呼吸を整える。すると考えていたルリの顔が笑顔になると高々に宣言した。
「決めたのじゃ! この子の名前は『ルナ』に決めたのじゃ! わらわのとのつながりを考えて一文字譲るのじゃ!」
「キュー!」
「それならいいか……ルナか、いい名前じゃないか」
「そうじゃろ! わらわの大事な家族だからのう!」
ルナを抱き寄せると満面の笑みで話すルリ。嬉しそうな彼女たちの顔を見て、小さく息を吐く瑛士。
(ま、ルリが楽しそうだからいいか。しかし、ホーンラビットにしてはやけに友好的だし、人の言葉を理解してそうだな……いろいろ気になる事があるが……今はやめておこう)
瑛士が嬉しそうにルリに頬ずりをするルナを眺めていた時、重要な事実を思い出して声を上げる。
「ルリ、そういえばルナを家に連れて帰るつもりじゃないだろうな?」
「ん? 何を言っておるのじゃ? もちろん連れて帰るに決まっているじゃろうが」
「やっぱりか……弱ったぞ」
難しそうな表情で答える瑛士に対し、ルリが首をかしげながら聞き返す。
「どうしたんじゃ? 別に連れて帰るくらい何の問題も無いじゃろ?」
「問題あるんだよ……最初に職員さんから説明があっただろ? 迷宮内の物は基本的に外に持ち出すことはできないと。ましてやルナは迷宮の生き物だ。家に連れて帰る許可なんて下りるわけがないだろ?」
瑛士の言葉を聞いたルリの表情が一瞬曇るが、すぐに怪しげな笑みを浮かべる。
「いいことを思いついたのじゃ! ご主人、ちょっとスマホを貸すのじゃ」
「何をするつもりだよ……」
瑛士がスマホを渡すと、画面をタップしてどこかに連絡を取り始めるルリ。
彼女が思いついた作戦とはいったい……
最後に――【神崎からのお願い】
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