第3話 ルリのリベンジ?
音羽が展望エリアの捜索を始めていた頃、ルリと瑛士は二階層の草原エリアに到着した。
「さあ、リベンジの時じゃ! この間の恨み……今日こそ晴らしてくれるわ!」
「積年の恨みみたいな言い方してるけど、まだ何もされてないからな?」
「何を言うか! わらわを怒らせた罪は万死に値するのじゃ!」
「……ちょっとホーンラビットたちに同情するわ」
燃えるような怒りを露わにするルリに対し、呆れた様子で草原を見つめる瑛士。すると不自然に草が動き、長い二本の耳が飛び出してきた。
「む! 噂をすればなんとやらというやつじゃな! さあ、かかってくるのじゃ!」
戦闘モードに入ったルリが槍を構えると、ホーンラビットが顔を出した。すぐさま戦闘態勢に入って駆け出し、彼女の目前まで迫る。しかし、隣に立つ瑛士の姿を見た瞬間、急停止するとそのまま明後日の方向に逃げ出した。
「お、おい! どこに行くのじゃ? わらわと戦うんじゃなかったのか?」
「いったい何があったんだ? ホーンラビットは好戦的なモンスターだし、逃げるところなんて見たことないんだけどな……」
「むー! これではわらわの恨みがはらせぬではないか! でも妙な動きをしておったのう……わらわのところまでは一直線に向かってきたのに……」
ルリが悔しそうな顔をしながら逃げた方角を眺めていた時だった。先ほどの個体以外にも数匹が、こちらの様子を窺うように草むらから顔を覗かせていた。そして、視線は全て瑛士に集まっていた。
「……もしかして、ご主人。前回帰ってくる時、何かおかしなことはなかったのじゃろうか?」
「おかしなこと? 何でそんなことを聞くんだ?」
ルリの問いかけに不思議に思う瑛士。
「いやな、ホーンラビットどもがご主人を異様に警戒しておるんじゃよ。もしかして、何かしたんじゃないかと思ってのう」
「そういえば……前回囲まれたときに、ルリが手を握ったら変な記憶が流れて……」
「それじゃ! もしかしてご主人……わらわを読んだのか?」
「わかんねーよ! 気が付いた時には何かが燃えたような跡があったんだよ。それで、この間の切れ端が現れたんだ」
「ふむ……おそらく読書魔法で間違いはないじゃろうが、わらわの欠片がモンスターからドロップするというのがよくわからんのう」
瑛士の話を聞いたルリが左手を顎にあて、難しい表情で考え込む。しばらく何とも言えない沈黙が続き、気まずさに耐え切れなくなって瑛士が話しかけた。
「な、なあ、ルリ。迷宮を進んでいけば何かわかるかもしれないし、気を取り直して三階層に行かないか?」
「ふむ……そうじゃな。ホーンラビットどもめ、命拾いをしたな!」
「ほんと調子のいいやつだな……ん? 待てよ……ルリ、ちょっと試したいことがあるから耳を貸せ」
「なんじゃ?」
瑛士がルリを呼び寄せると耳元である作戦を囁く。
「なるほどな。ご主人の姿が見えなければ奴らはいつも通り襲ってくる可能性が高いということじゃな」
「そういうことだ。三階層に俺が進んだと見せかけて、お前が草原に戻れば大丈夫なはずだ。それにホーンラビットは基本的に単独行動だから練習にはもってこいだ」
「そうなんじゃな。しかし、前回囲まれてしまった理由は……」
「そこなんだよな……もしかしたらあの切れ端が何か関係してるのかもしれないな」
「まだ迷宮には隠された秘密が多そうじゃな! さあ、ご主人よ。三階層を目指そうではないか」
瑛士とルリは草原の中心を横断するように歩き始める。すると彼の見立て通り、導線上にいるモンスターが蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。その様子を見たルリはますます上機嫌になる。
「実に気持ちがいいのう! わらわに恐れをなして逃げ出すとは!」
「いや、お前じゃないからな……三階層への入り口が見えてきたぞ」
瑛士が指さした方角に見えるのは小高い丘のようなところに開いた洞窟だった。
「ご主人……洞窟に入っても意味はないと思うのじゃが……」
「何を言ってるんだ? ここで間違ってないぞ。さて……俺は先に身を隠すからまずは一匹、自力で仕留めてみろ」
「望むところじゃ! わらわの勇姿を見届けるがいい!」
ルリが啖呵を切ると、洞窟の中に身を潜める瑛士。彼女の姿がギリギリ見える位置に陣取るといざという時のために短剣を握りしめる。
「さあ、かかってくるのじゃ! わらわの妙技に惚れても知らんのじゃ!」
「あいつはまた変なセリフを吹き込まれてるし……まあ、お手並み拝見といくか」
ルリが高々に宣言すると、草むらから一匹のホーンラビットが顔を出す。そして、注意深く周囲を確認するとルリめがけて一直線に飛び出してきた。
「よし、リベンジマッチ開始じゃ!」
ルリが槍を構え、向かってくるモンスターを迎え撃とうとした時だった。
「うわー! ちょ、ちょっとやめるのじゃ!」
ルリの悲鳴のような声が洞窟内に響いてきた。
「ルリ、大丈夫か! 今助けに行くぞ!」
短剣を握りしめて慌てて飛び出した瑛士だったが、目の前に飛び込んできた光景に驚いて固まってしまった。
「あはは、くすぐったいのじゃ! こら、顔を舐めるのではない!」
「……なにやってんだ、お前……」
瑛士の目に飛び込んできたのはホーンラビットらしき個体とじゃれ合うルリの姿だった。まるで子猫のように顔を擦り付け、彼女に懐いている。
「何があったんだよ……モンスターが懐くなんて聞いたことないぞ……」
呆れた表情で立ち尽くす瑛士。その時、スマホが振動していることに気が付き、画面を見ると、コメント通知が次々と表示される。
《チャットコメント》
『さすがルリ様! モンスターすら手なずけてしまうとは!』
『勢いよく飛び出したのに美味しいところ持っていかれてざまぁwww』
『モンスターってなつくもんなんだな……』
『なんという事でしょう……おい、そこのウサギ! 私とその位置を変われ! 私だってルリ様をぺろぺろしたいのに!』
『オイこら! 抜け駆けとは卑怯だぞ!』
『埒が明かないので通報しました』
『冗談だろうが! 通報すんな!』
次々と打ち込まれるコメントに肩を大きく落として項垂れる瑛士。
「ん? ご主人、どうかしたのか?」
胸にウサギを抱きかかえたルリが不思議そうな顔で声をかけてきた。
「なんで毎回想定外のことばかり起きるんだよ!」
瑛士の叫びが迷宮内に虚しく響き渡る。
ルリとウサギの出会いが、この後の攻略を大きく左右するとはまだ気が付いていない二人だった……。
最後に――【神崎からのお願い】
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