第6話 監視の目は至る所に
暗い顔で俯く男性を見ると、小さく息を吐いた音羽がゆっくり口を開く。
「大丈夫ですよ。この場所は私たちしかいませんし、何か心配事でもあるのでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。大丈夫だとは思うのですが……」
口ごもった男性の視線が天井の隅に動いた瞬間を音羽は見逃さなかった。
「なるほど、ちょっと待っていてくださいね。瑛士くん、ルリちゃん、少しの間だけ動かないでね」
「ああ、わかった」
「わかったのじゃ。音羽お姉ちゃん、なにかあったのかのう?」
意図を察して頷く瑛士に対し、ソファーの上で跳ねながら首をかしげるルリ。すると、音羽が立ち上がると同時に一筋の光が室内に走る。そして男性へ向き直り、優しく声をかける。
「もう大丈夫ですよ、何を話していただいても問題ありません」
「え? は? どういうことでしょうか?」
言葉を聞いた男性は意味が分からず聞き返した時だった。室内に何かが落下する音が響き、全員の視線が集中すると空気が凍り付く。床に落ちていたのは、天井の壁紙と同色に塗装されて真っ二つに切られた監視カメラだったのだ。
「なるほどな。部屋に入った瞬間から、奇妙な違和感を感じていたが……まさかカメラが仕掛けられていたとは」
納得した表情で瑛士が口を開くと、静かに音羽が話し出す。
「まあね。彼が視線を向けてくれたおかげで特定できたのよ。しかも、このカメラ……最近設置されたっぽいのよね」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
話を聞いていた瑛士が問いかけると、無言で床に落ちたカメラを拾い上げる音羽。そして三人の前にあるテーブルに置くと、中の基盤を指さしながら話し始める。
「この機材に使われている基盤なんだけど、最近出た最新機種に搭載されたの。前の型よりも画像が鮮明に映るし、音声もクリアになるのよ。なんといってもステルス機能がパワーアップして、より発見されにくくなったのが特徴かしら。でも、問題なのは値段がすごく高くなったのよね……」
「へえ、そうなんだ……って、やけに詳しくないか? 普通に生活していたら全く縁のないものだと思うんだが」
「え? 何で知らないの? だって、四六時中監視するのには鮮明な画像と音声は必須でしょ?」
不思議そうな表情で聞き返す音羽を見て、顔を引きつらせる瑛士。
「……音羽さん、いったい何を監視するために必要なんでしょうか?」
「決まってるじゃない! 瑛士くんの一挙手一投足を記録……あ、やべ」
思わず口を滑らせた音羽が慌てて目を逸らすが、既に遅かった。貼りつけたような笑顔を浮かべた瑛士が、低い声で問いかける。
「へえ……俺のことを四六時中監視するためね……」
「ま、まあ、ルリちゃんもいるわけだからね。そうそう、家の外もちゃんと記録を残しておかないといけないでしょ?」
「ふーん、家の外にも設置してあったのか……まあ、変な奴が増えているから防犯意識は高めておかないといけないな」
「でしょ? 私たちの幸せな生活を脅かす存在を許すわけにいかないから……ね?」
顔を引きつらせながら上目遣いで訴える音羽に対し、冷めた視線を向けながら問いかける瑛士。
「へぇ……俺のことを四六時中監視するためねえ?」
「えーっと、それは、そのー」
露骨に目が泳ぎ、右手の人差し指を口元にあてながら音羽が答えを絞り出す。
「瑛士くん、しっかり聞いてほしいの……それはね」
「それは? なんだ?」
冷たい視線が突き刺さる中、大きく息を吐いて瑛士を真っすぐ見ながら口を開く音羽。
「それは……秘密です」
「秘密です……じゃねーよ! ちゃんとした理由を言えよ!」
「だから、企業秘密なんだって! もし組織にばれたら、瑛士くんも私も大変なことになってしまうの……」
「なるわけねーだろ! だいたいなんだよ組織って! 何に狙われてんだよ!」
「それは……私の口から言えないわ……」
わざとらしく顔を背けて俯く音羽。その様子を見た瑛士がさらに詰めようとした時だった。
「ご主人! それ以上追及するのはやめるのじゃ!」
ソファーの上で飛び跳ねていたルリが、いつの間にか瑛士の前で腕を組んで仁王立ちしていた。
「またお前は変なタイミングで首を突っ込んできやがって……」
「なんじゃ? いやに不服そうな顔をしておるのう」
「そりゃ関係ないやつが話に割り込んでこれば、そうなるだろ」
呆れたように瑛士が言い放つと、ルリが苛立ったように言い返す。
「関係ないわけがないじゃろうが! もし、わらわの身に何か起こったら責任とれるのか?」
「お前な……責任も何もうちにはアイツが仕掛けたトラップが山ほどあるのを忘れたのか……」
額に手を当てた瑛士が、大きなため息を吐きながら呟く。彼の言うように、自宅には音羽が防犯目的と言って魔改造したトラップが至る所に仕掛けられていた。以前、宅配に来た業者が庭先で巻き込まれるという事故も発生していたのだ。
「それはそれ、これはこれじゃ。まったくご主人は想像力も皆無じゃからのう」
「あ? それはどういう意味だ?」
煽られた瑛士がルリに噛みつこうとした時、三人の様子に圧倒されていた男性が声をかけてきた。
「あのー、そろそろお話してもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうに話しかける男性を見て、ルリが口を開く。
「おお、すまなかったのじゃ。ご主人が迷惑かけてしまったのう」
「あ? 何でそうなるんだよ!」
「ご主人は少し黙っておるのじゃ。さて……改めて話を聞こうではないか」
抗議する瑛士を無視するようにルリが話しかけると、静かに頷く男性。
この直後、彼の身に起こった出来事を聞いた三人は言葉を失うことになる……
最後に――【神崎からのお願い】
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